創薬企画・評価課 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和4年度 事後評価結果について

新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和4年度終了課題の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査及びヒアリング審査にて事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日: 令和5年1月10日及び11日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況について
  2. 研究開発成果について
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 事業で定める事項
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

評価委員会では、評価対象となった36課題全てについて、期待通りまたはそれ以上の進捗及び成果が得られたと評価されました。

主な成果を以下に記載します。

①感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究

  • 劇症型溶血性レンサ球菌感染症について、流行株の現状及び薬剤感受性の調査、データベース化、病原性の上昇に関与する変異の発生及び病原性上昇の発症機序の解明並びに治療に資する研究を実施し、増殖を抑制する低分子化合物を発見し、感染防御に係る免疫細胞を見出した。
  • ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染者(成人T細胞白血病〈ATL〉、HTLV-1関連脊髄症〈HAM〉、キャリア)を対象とした大規模多層的オミックス解析により、ゲノム異常、エピゲノム異常及び遺伝子発現異常の実態を明らかにした。発症リスク因子候補を複数特定し、新たな発症リスク評価法の検証を実施した。またATLの多段階発がんメカニズムを明らかにした。さらに新規治療標的候補を複数同定し、知財化を完了した。 
  • 結核症例数が減少し、多剤耐性結核及び潜在性結核感染治療では、他施設共同研究が必要となっている。COVID-19対策と結核対策の共通点から、COVID-19の経験を結核対策の対応の視点で評価した。感染症対策に対応できる人材育成強化とデジタル技術を導入した結核対策の発展の方向が示唆された。BCG接種を行ったヒトマクロファージにおいて、免疫遺伝子発現の制御機構を明らかにした。
  • RSウイルスは、令和3年度には小児を中心に過去にないほどの流行を認めた。このような状況下、国内RSウイルスサーベイランスシステムでは、COVID-19流行の影響でサーベイランスシステムの構築は停滞していたが、地方衛生研究所との協力体制の構築を継続中である。重症化の病態解析では、過去の症例の抗体解析からF regionの免疫、ケモカイン、罹患と喘息への移行機序、vitamin Dとの関与、突然死の病態の研究結果が集積しつつある。 
  • 病院排水の薬剤耐性菌モニタリングを定期的かつ継続的に実施して薬剤耐性因子の特徴を把握し、環境リスク評価のための定量値を提示した。実際の病院排水に含有される薬剤耐性因子をオゾン処理法で不活化し、環境リスクを軽減して一般下水へ放流する社会実装実験を実施した。
  • 本邦で検出された肺炎球菌株1,305株について全ゲノム解析を行い、その分子疫学の詳細を明らかにした。βラクタム耐性肺炎球菌を主眼にその発生及び伝播メカニズムを解析し、国内・国際的な肺炎球菌の伝播メカニズムを明らかにした。 
  • 感染症数理モデルを用いた、新型コロナウイルス感染症に関するリスク評価の結果を政策立案現場ヘ継続的に提供し、日本における新型コロナウイルス感染症制御に多大な貢献をするとともに、発展途上の段階にあった日本の感染症数理モデル研究及びその保健医療政策への利活用を飛躍的に推進させた。 
  • ワクチンや薬剤が不十分な国内で問題となる原虫症・寄生虫症に対し、阻害剤の探索を実施し、薬剤候補を数多く同定した。薬剤耐性や薬剤作用機序を理解する逆遺伝学的手法を複数の原虫で確立した。マラリアサルモデル、プロバイオティクスの開発に繋がる基盤的な成果を創成した。 
  • HTLV-1感染総合対策を推進するため、疫学調査によるHTLV-1感染者の推定値及び動向把握と水平感染者のリスク評価に基づく感染対策、HTLV-1検査法開発・改良と診断指針の改訂及び普及、HTLV-1感染メカニズム解明、HTLV-1中和抗体開発を総合的に行った。 
  • ウイルスによる下痢症の網羅的分子疫学解析、新たな流行予測法の開発及び不顕性感染の実態を解明することを目指して、1)下痢症ウイルスの流行実態及び生活環境におけるウイルス残留の解明、2)ウイルス性下痢症の流行予測に資する分子疫学的解析法の開発、3)マイクロバイオーム解析を利活用したノロウイルス不顕性感染の実態解明に特化した研究を行った。また、一般健常成人におけるノロウイルス不顕性感染者の調査を行った。 
  • 日本の先天性・後天性トキソプラズマ症の発生状況を臨床医学・疫学的観点から把握し、日本のトキソプラズマの性状を獣医学的・生物情報学的に理解する土台を作り、本症の発症機序とそれを防ぐ宿主免疫系分子を新規同定した。それらの成果を論文として発表し、トキソプラズマ妊娠管理マニュアルを改訂し、次世代を担うトキソプラズマ研究者を養成した。 
  • 自然界で分離されたウイルスあるいはヘマグルチニン(HA)に人工的にランダムに変異を導入したウイルスのライブラリーを用い、ヒト血清に存在する抗体から逃れる変異株を選択した。血清との反応性を低下させる変異をもつウイルスが、もともとライブラリー内に存在すれば、そのウイルスが優先的に増殖することが明らかとなった。選択されたウイルスの中にはモデル動物のフェレット間を伝播するものがあり、自然界でも拡がる可能性を示した。情報科学手法およびin silico構造解析により、早期に抗原部位の変異を検出する系を構築した。

②ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究

  • 感染症予防のためのワクチンは高齢者では効果が弱いことが知られている。マウス老化モデルを用いて、高齢者でも高い予防効果を示すワクチンの開発に取り込み、ヒトとマウスで共通する老化特異的なmicroRNAを発見し、高齢者のワクチン予防効果を改善可能となる新たな成分を特定した。 
  • GMPに準拠して製造した不活化エボラΔVP30ウイルスワクチン(iEvac-Z)について、東京大学医科学研究所附属病院にて第Ⅰ相臨床試験を実施し、健康成人男性における試験薬の安全性、忍容性及び有効性を示した。マウスモデルにて、エボラワクチンの効果を高めるアジュバントを同定した。 
  • 下痢症ウイルス感染症は、全ての世代で罹患しやすいノロウイルスと乳幼児の感染が問題となるロタウイルスが2大原因ウイルスであるが、これらの下痢症ウイルスに関して新規ワクチン及び抗体等を用いる治療薬の開発研究を行い、実用化可能な革新的な結果を得ることができた。 
  • 日本とベトナムにおけるヒト、食品及び環境分野の薬剤耐性菌、特に基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌の実態が明らかになると共に、これらの関連が明瞭になった。これらのデータと共に、インテグロンなどの転位因子や自然界における接合伝達のメカニズムを解析することにより、薬剤耐性遺伝子の伝播をより詳細に理解する上での基盤情報を整えることができた。 
  • ヒト腸管オルガノイドを用いてノロウイルス増殖阻害化合物を得た。また、ウイルス感染増殖機構解明に向け検討を実施した。ロタウイルスリバースジェネティクス系改良により、ウイルスの自由な作出が可能になった。様々なウイルスタンパク質の立体構造を解明し、その情報を元にした創薬が可能になった。 
  • 1)社会的要請や関心の高い万能インフルエンザワクチンの開発、2)狂犬病ウイルス(RABV)に曝露後も感染・発症を予防しうるワクチン・抗体製剤の開発、3)新型コロナウイルス感染症に対する免疫研究を実施し、我が国に求められる予防・治療法の確立に向けて研究開発を推進した。 
  • 抗エンベロープ(Env)抗体誘導はHTLV-1感染防御に結びつくことを明らかにし、抗Env抗体誘導HTLV-1ワクチン開発の合理性を示した。新規抗Env抗体誘導HTLV-1ワクチンプロトコールを構築し、カニクイザルにて感染防御効果を示した。予防ワクチンとして臨床試験への進展が期待される。

③新興・再興感染症の検査・診断体制の確保に資する研究

  • 呼吸器感染症ウイルスの遺伝子検出系について、新型コロナウイルスを中心とした検出系の研究開発を最優先に進め、RT-LAMP法及びリアルタイムRT-PCR法を利用したSARS-CoV-2検出キットが上市された。アルファ株、デルタ株及びオミクロン株変異株を識別可能な変異検出系を構築し、全国の地方衛生研究所、保健所及び民間検査会社等に周知して全国規模で変異株モニタリング検査を実施し、変異株の流行状況の把握に大いに役立てられた。エンテロウイルスについて、世界中で検出されるClade B、subclade B3に属するEV-D68株の検出も可能な、高感度で特異性の高い検出法を構築した。
  • 多剤耐性結核マネジメント(迅速で正確な診断、治療法の確立及び副作用対策)の向上につながる成果が得られた。今後問題となる外国生まれの結核患者の実態が明らかとなった。低まん延化を迎え、より積極的な潜在性結核感染症(LTBI)治療の普及、適切な医療体制の提供に関わる問題について整理を行うことができた。 
  • アニサキス症、膣トリコモナス症及びトキソプラズマ症等、国内で発生している寄生虫感染症について、感染状況及びそのリスクファクターの把握に資する知見を得た。さらには新たな寄生虫感染症の病態の一端も明らかにした。 
  • 侵襲性酵母感染症の制御を目的として、主にカンジダ症、クリプトコックス症及びトリコスポロン症に対する新規の検査系の開発、新規クラスの抗真菌物質の開発、診療ガイドラインの発刊、診断や治療の標的となる分子や病態解明を目指した研究を実施した。 
  • 国内で発生したエボラ出血熱患者の治療体制の確立、国内でのファビピラビルによるラッサ熱に対する曝露後予防実施体制の確立、国内でのレムデシビルによるエボラ出血熱に対する曝露後予防実施体制の確立に向け、国立国際医療研究センター病院で4つの特定臨床研究を立ち上げた。

④感染症に対する診断薬・治療薬の実用化に関する研究

  • 疫学・患者レジストリ、宿主トランスクリプトーム解析に基づいた発症リスク探索、菌ゲノム解析を基盤とした薬剤耐性責任変異探索、感染経路探索、人―人感染可能性の検証、基礎研究用菌遺伝子改変法の確立と宿主防御メカニズムの探索、検査/診断ツールの開発及び実用化並びにエビデンスに基づく治療についての基盤となる予後予測等の成果に関して、国際共同研究や企業と連携し確実に成果を蓄積した。遺伝子解析ツールの作成として、Mycobacterium avium、M. intracellulare及びM.abcessus complexに重点を置き、それぞれの菌種に適した遺伝子導入法を確立した。 
  • デング熱をはじめとした昆虫媒介性ウイルス感染症の世界的流行状況についてウイルス学的、分子疫学的、診断学的、病態学的、免疫学的あるいは病理学的解析を行い、我が国の昆虫媒介性ウイルスに係る総合的対策に資する研究成果を提供した。 
  • フラビウイルス間で保存されている生活環の中でもコア蛋白質の核移行及び小胞体膜の再編成に着目し、そこを標的とする化合物の探索を進め、候補化合物を得るとともに、新しいイメージング技術の開発及びFIB-SEMによる小胞体の微細構造の解析を行った。 
  • これまでに独自に樹立した「病原体に対する抗体ライブラリー」と「ワクチン開発」に関する研究基盤を融合させ、国内外で問題となっている細菌性食中毒に対するワクチンデザインと創薬・診断システムの開発及び病原性解析を行った。 
  • バクテリオファージ技術とCRISPR-Cas技術を融合した抗菌カプシド合成技術により、臨床で問題になっている薬剤耐性菌に対して有効な抗菌治療、細菌遺伝子検査と遺伝子型別に応用できる画期的な新しいファージ製品の開発を行った。 
  • ゲノム、トランスクリプトームを含むシークエンスデータを用い、ヒトのさまざまな組織に存在するウイルスを描出できる「ヒトヴァイローム解析パイプライン(Human Virome Analysis Pipeline: HVAP)」の構築に成功した。新型コロナウイルスパンデミックの状況を鑑み、新型コロナウイルス感染小児、あるいは、感冒様の症状を呈した小児の検体を収集し、感染症に対する小児免疫の性状、ワクチン接種のリスク・ベネフィットを解明するための研究基盤の構築を進めた。 
  • ノロウイルス感染に関与する腸内分子候補として消化酵素及び脂質を検討し、脂質による効果を示した。また複数遺伝子を同時ノックアウトしたオルガノイドの作製に成功するとともに、ノロウイルスがIFN-JAK/STAT非依存的な宿主因子・経路により制御されていることを示唆した。 
  • 緊密な産学連携下で、ウイルス性出血熱に対する新規抗ウイルス薬候補化合物の探索、治療薬の開発、簡便で迅速な高感度診断法の開発、そして快適性と安全性を向上させた感染防護衣の開発を実施し、社会実装に結び付く成果を上げた。 
  • 早産のおよそ3~5割は細菌感染による。自然のバリアである腟内の乳酸菌による細菌叢を破壊せずに病原菌を制御する方法の開発と、高感度核酸増幅法の開発によって流早産原因細菌の検出系を作製した。
  • 世界的な課題である薬剤耐性菌(AMR)に対し、診断から治療までをカバーする総合的な研究開発(質量分析や遺伝子解析による迅速薬剤耐性因子検出法の開発・標準化、地域伝播状況の把握、細菌叢を利用した耐性菌定着リスクスクリーニング法の開発による薬剤耐性菌保有状況の予測、光線力学療法及び海洋微生物由来抗菌化合物を利用した治療法の開発)を行った。
  • ヒト胃に感染する難培養菌Helicobacter suisの培養法を確立し、豚を起源とする本菌がヒト胃に感染し胃疾患を引き起こす病原細菌であることを明らかにした。またHelicobacter suisの感染診断法を開発した。さらに、日本ヘリコバクター学会と共同でピロリ菌以外のヘリコバクター属菌の感染実態調査を開始した。

⑤新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究

  • アジア各国研究機関と感染症に関する連携研究を実施し、感染症の診断・予防・治療法開発・評価基盤構築のための成果を挙げた。これらの成果は、アジア各国の対策立案に資するばかりでなく、我が国への侵入監視、対策立案に資するものである。

最終更新日 令和5年9月14日