創薬企画・評価課 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和4年度追加公募、追加公募(2次)及び追加公募(3次)課題の事後評価結果について
「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の令和4年度追加公募、追加公募(2次)及び追加公募(3次)課題の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。
事後評価
1.事後評価の趣旨
事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査及びヒアリング審査による事後評価を実施しました。
2.事後評価委員会
開催日:令和6年9月19日(木)、9月24日(火)、9月30日(月)、10月8日(火)、10月9日(水)
3.事後評価対象課題
- 令和5年度 事後評価対象課題(68課題)
(内訳) - 令和4年度追加公募課題:38課題
- 令和4年度追加公募(2次)課題:4課題
- 令和4年度追加公募(3次)課題:26課題
4.事後評価委員
評価委員については以下のPDFファイルをご覧ください。
5.評価項目
- 研究開発進捗状況について
- 研究開発成果について
- 実施体制
- 今後の見通し
- 事業で定める事項
- 研究を終了するにあたり確認すべき事項
6.総評
総合評点は5.1~8.0点に分布し、全68課題のうち63課題が「総合的に計画どおり進捗している」又は「計画を超えて進捗している」と評価され、5課題が「計画どおりに進捗している部分もあったが 進捗していない部分もあった」と評価された。
各課題の主な成果を以下に記載いたします。
①令和4年度追加公募課題
- コロンビア国の要請を受けて、LC16「KMB」ワクチンについて、サル痘ワクチンとして有効性、安全性、免疫原性を確認する目的の臨床試験をコロンビア現地研究者との密接な協力体制構築の下、実施した。
- エムポックスウイルス感染感受性を持つCAST/EiJマウス及びカニクイザルに、非増殖型ワクシニアウイルスDIs株を2回接種することでエムポックスウイルスに対する発症防御効果を示すことを実証した。
- エムポックスの治療薬として国内未承認のテコビリマットの製造販売承認を得るべく、国内第Ⅰ相試験を実施し、海外での申請パッケージを利用し承認申請を完了した。
- 世界でエムポックス治療に使用されている経口テコビリマット、ワクシニア免疫グロブリンについて、国内エムポックス感染症患者に対する有効性および安全性を検討するための特定臨床試験を実施した。予防について痘そうワクチンとして日本で承認されているLC16「KMB」の有効性と安全性を検討する前向き観察試験を開始した。
- オルソポックス属ウイルス感染症の非増幅・迅速検査技術(SATORI2)の実用化を指向すべく、Cas12aによるDNA遺伝子の検出感度の改善とMPV含む性感染症の類症鑑別を可能とする多項目自動検査装置の開発を推進した。
- エムポックスウイルス(MPXV)clade IIb感染者の単一病変より分離したウイルスを用いて、粗抗原免疫アッセイ、ウイルス中和試験、網羅的抗原マイクロアレイを構築・確立した。形質の異なる複数クローンの共存をウイルスクローンの全ゲノム解析で明らかにし、ウイルス進化を加速させている新しい感染伝播様式を裏付けた。
- 2022年にアウトブレイクしたMPXV clade IIbおよび従来株3種類のMPXVをそれぞれ感染させたヒトin vitro高次評価系においてNGS解析を行い、MPXV clade IIbに特徴的な遺伝子Xを同定した。当該MPXV遺伝子XがMPXV clade IIbに特化した治療標的となりうるか解析を進めている。
- 認知症治療薬であるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬ドネペジルをCOVID-19罹患後症状治療薬として用いる有効性を検証する第Ⅱ相治験を行い、120人の患者に無作為化二重盲見化比較試験を実施した。主要アウトカムである3週間後のChalder fatigue scaleに有意な効果は認められなかった。
- 全国調査に基づく本邦MIS-Cの臨床像を解析・整理(MIS-C 129例、Co-KD59例)し、小児COVID-19致死例における宿主免疫因子の検討で、幾つかの因子を同定した。また、MIS-C発症に関連する宿主免疫因子として、複数の候補遺伝子におけるレアバリアントを同定した。更に、海外との共同研究で、成人のみならず小児においても、I型IFN中和抗体の保有が重症化のリスク因子になること見出した。
- 新型コロナウイルス感染症罹患後症状の患者の約6割でヒトヘルペスウイルス6の再活性化によるSITH-1が関与していることを示し、抗SITH-1抗体検査をコンパニオン診断薬としたドネペジルによる治療が有効であることを示唆した。
- 国内最大のCOVID-19罹患後コホートの構築とアジア最大のCOVID-19バイオリソースにより、日本におけるCOVID-19罹患後症状の実態を明らかにした。また、11C-SL25.1188を用いたPETの撮像によりCOVID-19罹患後に遷延する脳内炎症の診断モダリティに関する知見を得た。シリアンハムスターを用いてCOVID-19罹患後症状を評価する動物モデルを確立した。プロテオミクス解析により、罹患後症状が残存する患者に特徴的なタンパク変動の候補を見出した。
- COVID-19罹患後症状の評価モデルとして、腸管感染モデル、神経系感染モデル、脳内直接感染モデルの構築を行った。また、感染後、ウイルスが排除された後の肺組織におけるエピゲノム変化をATAC-seq解析により同定した。
- Long COVID患者で血漿中S-ニトロシル化タンパク質レベルが上昇することを、新たに開発した検出系を用いて見出した。Long COVIDのマーカー遺伝子の探索およびNOによる遺伝子発現変化に対するエピゲノム制御薬(DBIC)の抑制効果の検証を、ヒト正常気道細胞を用いたマルチオミクス解析によって行った。
- iPS由来腸管オルガノイド(ミニ腸)を用いて、SARS-CoV-2の変異株の腸管指向性の違いを明らかにした。デルタ株やオミクロン株BA.2.75系統は増殖性が高く、長期に腸管において持続感染することを確認した。
- G2P-Japanとしてのコンソーシアム研究を継続し、さまざまな新規変異株の性状解析を実施した。これによって、基礎研究の見地から、世界の公衆衛生、および、ワクチンの使用などの施策策定に資する、きわめて重要な成果を公表し、複数の学術論文を、複数のハイインパクトな科学雑誌に報告した。また、新型コロナウイルス以外の研究も実施し、さまざまなウイルスについての研究を並行して実施することで、今後に繋がる研究成果と連携体制を得た。
- 呼吸器ウイルス排出制御おける粘膜抗体の役割に注目し、免疫が正常なCOVID-19患者の上気道粘膜抗体の中の抗スパイク分泌型IgA(S-IgA)抗体が、ウイルス排出制御に関与していることを明らかにした。さらに、免疫不全を有するCOVID-19患者のウイルス学的、免疫学的特徴を明らかにするため、免疫不全感染者の検体採取・臨床情報収集のための多施設共同研究を実施するとともに、免疫不全者のCOVID-19に対する臨床対応指針案を作成した。
- COVID-19患者の検体を用いたマルチオミックス解析とpQTL解析により、新規の重症化バイオマーカーを明らかにした。 COVID-19疾患感受性遺伝子DOCK2の知見をもとに、SARS-CoV-2感染ハムスターモデルを用いてDOCK2活性化剤がCOVID-19の重症化抑制につながり得る知見を得た。 REBINDと協力体制を築き、4,400人以上のCOVID-19患者の検体をREBINDに提供した。
- 都市下水および航空機・空港下水からの30種類程度の病原体の高感度検出技術、変異解析技術およびメタゲノム解析による網羅的検出技術を確立するとともに、下水バンキングの有用性の実証に成功した。さらに、自治体間の連携のための協議会を設立し、データの共有・可視化ツールのプロトタイプを開発した。
- 次世代COVID-19低分子経口治療薬候補(S-892216)の第Ⅰ相試験Part 1~4(カルバマゼピンを反復投与したときのS-892216の薬物動態に及ぼす影響を検討するコホートを除く)を完了し、本剤は良好な安全性及び十分な薬物動態プロファイルを有し、既存薬の課題である他剤との薬物相互作用の懸念は、十分に改善が見込まれる結果を得た。
- COVID-19治療薬候補(PA-001)の前期第II相試験に向けて、必要な非臨床試験を滞りなく実施し、第I相試験を開始できるように準備を進めた。
- COVID-19に対する吸入ACE2デコイ製剤の開発に向け、ACE2デコイのマスターセルバンクの構築を行い、また粉末吸入投与を可能とする剤型化を賦形剤の最適化とスプレー凍結乾燥法にて行った。さらにJN.1を含む変異株に対する有効性を確認した。
- 標的蛋白質を搭載した候補製剤を選定し、非臨床試験を開始した。コロナウイルス感染げっ歯類モデルにおいて、標的蛋白質の生体内発現に基づく感染制御効果を示した。候補製剤のGLP製造を開始し、生体内蛋白質医薬品生産技術プラットフォームの土台を築いた。
- MERS-CoVの感染受容体であるDPP4を利用した新規MERS治療薬として、変異株の出現に関わらず、長く利用できる可能性のある高親和性DPP4デコイ(Fcを融合して二量体化したDPP4変異体)を創製した。細胞レベルでの競合阻害活性評価やシュードウイルスに対する中和活性評価において、野生型に比べ150倍以上高い活性を有することを確認した。
- 新型コロナウイルスのEタンパク質の機能を阻害する新規化合物について、武漢株・デルタ株・オミクロン株などに対する良好なウイルス産生抑制効果を確認した。その派生化合物について感染ハムスターを用いた薬理試験で、ウイルスによる体重増加の停滞を一部解消した。更にEタンパク質の機能発現に必要と思われる宿主相互作用因子を新たに6種同定し、標的タンパク質の結晶構造を決定した。
- ウイルス感染症に併発するリンパ球性心筋炎に対する新規の低侵襲確定診断法と治療法の開発を行った。
- 感染症医薬品の開発のための臨床研究一括体制を整備する内容で、受委託書類の整備、治験実施施設の要件項目の設定、電子カルテからの診療情報抽出システムの整備等を行い、感染症医薬品の臨床研究を牽引する全国的基盤が構築されつつある。
- 新型コロナウイルスやデングウイルスを含む重点感染症病原体に対するさまざまなモダリティの創薬シーズを感染実験系で評価し、開発候補化合物の絞り込みおよび決定を行った。研究成果を論文化、特許出願、また臨床研究への橋渡しを行った。
- 免疫エフェクター細胞を用いた薬剤耐性糸状菌感染症の新規治療法開発を目指し、ヒトVγ9Vδ2型T細胞、NK細胞は、アスペルギルス属菌種と一部のムーコル属菌種に対して直接接触による抗真菌活性を示すことを見出した。Vγ9Vδ2型T細胞に関しては、NOGマウス(ヒト化マウス)への静注投与により有意に肺内A. fumigatus生菌数の減少効果を認めた。
- 薬剤耐性菌に対するファージセラピーの妨げとなっている宿主細菌の防御システムを検討し、tRNAの分解、DNAメチル化の調整によるメカニズムを明らかにすると共に、それら防御システムを克服できる合成ファージの作成に成功し、in vitroおよびマウス感染系で活性を示すことを確認した。
- 多剤耐性緑膿菌の薬剤排出ポンプMexB, MexYのdual阻害剤の創出を目指し、これまでの研究で得たリード化合物を基に、in vitro活性(排出ポンプ阻害能、抗菌薬のMIC低下)、薬物動態(代謝安定性、マウスPK)、in vivo効果(耐性緑膿菌マウス感染モデルでの抗菌薬併用時の薬効)を指標として誘導体展開を行い、明確なin vivo効果を示す化合物を取得した。
- モノネガウイルスを原因とする新興感染症の出現に即応可能な、高効率人工モノネガウイルス合成系の確立に成功するとともに、新興ウイルススパイク蛋白質の様々な性状解析に即時適用可能でBSL2で使用可能なトランスジェニックセンダイウイルスの開発に成功した。
- Candida albicansでの研究業績をベースに、Candida auris (C. auris)の多剤耐性トランスポーターC. auris の多剤耐性トランスポーター (Cdrp.auris)の発現株、大量発現培養法、精製法、脂質ナノディスク・ペプチドディスク再構成系、クライオ電顕での高次構造解析法、Cdrp.aurisを発現させた阻害剤スクリーニング用酵母などを構築した。
- COVID-19ワクチンのモダリティ、接種状況などにより、免疫応答や副反応がどのように異なるのか、自然免疫、液性免疫、細胞性免疫の観点から詳細な解析を行い、抗体価や持続性、細胞性免疫、副反応に関与する免疫細胞やIgGサブクラス、サイトカインなどを明らかにした。ワクチン副反応と相関する免疫細胞を特定して、変異により刷り込みが解除される新たな経路を明らかにした。
- 熱帯熱マラリア原虫の細胞分裂に必須な膜変形タンパク質を初めて同定し、その作用機序の一部を明らかにした。さらに、本タンパク質重合体の三次元立体構造解析に成功し、機能を構造から解析できるようにし、本タンパク質を標的とした創薬基盤を構築した。
- ヒトの初代鼻腔、中枢、末梢気道上皮細胞を培養・増殖、ストックし、効率よく使用できる体制を多施設共同で構築すると共に、気相液相界面培養系も構築した。さらに、SARS-CoV-2感染モデルを構築し、変異株間の感染性の違い、部位ごとの増殖性や感染応答の違いに加え、1細胞レベルでの感染細胞の解析法を用いて、分泌細胞特異的遺伝子群や、ウイルス感染誘発遺伝子群の発現が亢進することを見出した。
- 粘膜免疫を誘導可能なmRNAワクチンは、感染症パンデミックに対する強力な感染対策になると期待されている。本研究では、mRNAを内包した安定化ポリプレックスナノ粒子による新規mRNAワクチンシステムを開発し、粘膜へのワクチン接種によって粘膜免疫と全身免疫を同時に誘導可能であることを実証した。
- 本邦におけるB群溶連菌(GBS)感染症の全容を明らかにし、GBS感染症症例の減少、予後を改善させるための戦略を構築するため、本研究期間を通して、小児、妊婦、成人におけるGBS感染症サーベイランス体制の構築を行った。
- ヒト腸内細菌叢の抗生物質耐性遺伝子に関する日本人大規模解析から消化管の抗生剤耐性遺伝子や多剤耐性菌の実態、その外的・内的リスク要因を同定した。また、口腔と腸内の耐性遺伝子の相違も見出した。さらに、多剤耐性菌を宿主とするファージを複数発見した。この結果は腸内の抗生剤耐性遺伝子を網羅的に評価することの重要性を強調するものである。
②令和4年度追加公募(2次)課題
- 英米と異なり、日本では新型コロナウイルスパンデミック中には原因不明の小児急性肝炎の発生が抑えられていたこと、アデノ随伴ウイルス2型の検出される小児急性肝炎はパンデミック前から散発していたが、そのインパクトは英米の流行と比較して小さいことが判明した。本症では、CD8陽性T細胞やサイトカインの増加がみられる例が多く、これとステロイドパルス療法の効果が関連することが明らかになった。
- 臨床検体中のウイルスゲノムを高感度に解読するNGS法を開発した。呼吸器ウイルスのための高性能なリアルタイムPCR検査系とプライマーの評価モデルを作成した。POC迅速遺伝子診断試作機の開発を進めるとともに、病院で探知した呼吸器感染症のリアルタイムな情報共有システムの強化を図った。
- ウイルス遺伝子の世界最速・非増幅迅速検査法(SATORI法)の実用化を指向すべく、小型自動検査装置を開発するとともに、呼吸器ウイルス感染症を対象とした、後ろ向き多施設臨床性能試験を実施した。
- 糸状菌感染症のなかで最も重要なアスペルギルス症に対して、独自の抗体作製技術を駆使した新規診断法および遺伝子学的手法による薬剤耐性株の検出系の開発を推進した。また、AI病理自動診断システムの開発を進めるとともに、診断支援や疫学情報の発信にも貢献した。効率的かつ効果的なスクリーニング系と薬効評価システムを開発し、アゾール耐性アスペルギルスにも有効な抗真菌薬候補化合物を複数取得した。
③令和4年度追加(3次)公募
- COVID-19パンデミックの原因ウイルスであるSARS-CoV-2と、その他のウイルス感染症に対する経口低分子薬の開発を行い、アモジアキン(抗マラリア薬)のキノリン骨格をキナゾリン環への変換と、上部アミノフェノール部の修飾によって、低毒性かつ高い抗ウイルス活性を有する化合物を発見した。
- 新型コロナウイルスが血管バリアを破綻させるメカニズムの解析を行い、中心的に寄与するサイトカインシグナル伝達系と新型コロナウイルスの構造タンパク質を同定した。また、この知見に基づき、COVID-19の重症病態や罹患後症状の再現モデルに活用できる遺伝子改変マウスを作製した。
- フィロウイルスのNP-NP相互作用領域を標的として転写複製を広く阻害する低分子化合物をIn silicoスクリーニングにより探索した。その結果、異なる3属のフィロウイルスの転写複製を阻害する低分子化合物を取得することに成功した。
- エムポックスウイルスに対する治療薬を開発するために、承認薬ライブラリーを用いてスクリーニングを実施し候補薬(2種類)を選抜した。また、候補薬を評価するためのマウスモデルの開発に成功した。
- 多剤耐性難治性の非結核性抗酸菌症の原因菌(Mycobacterium abscessus)を用いて、マクロファージ内の非結核性抗酸菌のイメージングに基づくex vivo解析とカイコ感染モデルを用いたin vivo解析を行い、化合物ライブラリーからin vivoで治療活性のある化合物を発見した。
- 様々な分子標的のチロシンキナーゼ阻害薬が細胞内寄生抗酸菌に対して、抗菌活性を示すことを明らかにし、宿主標的型治療薬候補となるヒット化合物を複数得た。
- 皮膚におけるMPXVの感染を評価できる皮膚感染評価系を構築し、MPXVの皮膚における感染様式を明らかにした。また、本評価系を用いて、すでに見出している皮膚に塗布可能な薬剤が抗MPXVを示すことを明らかにした。
- 重点感染症や今後発生する新たなウイルス感染症に対する中和抗体薬の迅速な開発研究基盤の整備の一環として、以前に開発した新型コロナウイルス交差中和抗体とスパイク抗原の構造情報を基に計算科学的手法を用いてデザイン抗体配列の改良を行い、複数のオミクロン株亜系統に交差結合性を持つ抗体を取得した。
- ウイルス感染による細胞変性効果(CPE)をオルガネラなどの細胞内微細構造の動的変化のレベルで感知できる高解像位相差顕微鏡システムを目指し、Vero細胞をモデル宿主細胞として用いた高解像位相差顕微鏡観察により、位相差画像上で複数種類の細胞内小器官・オルガネラを判別できることを見出した。さらに、細胞病変パターン画像を指標にすることでウイルス種の判別ができる可能性を示した。
- 非結核性抗酸菌(NTM)症は、大きな健康問題を引き起こしている疾患であるが、原因菌が複数あり、適切な治療を施すための診断技術が不足している。本研究では、特定した各NTMに特徴的な遺伝子と蛋白質を利用して、疾病とその原因菌種を特定する診断キットのプロトタイプを作成した。
- 薬剤耐性菌を腸管に保菌しやすい人を見つけ出すための手段として、Microbiota-based AMR Risk Screening法(MARS法)を開発した。本法は、ESBL産生菌、カルバペネマーゼ産生菌、バンコマイシン耐性腸球菌という主要な薬剤耐性菌の保菌リスクを高感度に検出することが確認された。
- デングウイルスの各血清型を識別するための簡便な診断法を開発し、NanoLucレポーター、スプリット型蛍光タンパク質、および機械学習モデルを利用して、迅速かつ正確にウイルスを検出する手法を開発した。
- 薬剤耐性菌に対する新たな治療戦略が必要である一方、薬剤耐性菌を選択的に殺菌可能な技術の開発が遅れている。この課題に対して、人工的遺伝子発現駆動システムであるRNAセンサーを利用して、薬剤耐性遺伝子を認識して、病原性細菌を検出・殺菌する新規生物学的製剤を構築した。
- カルバペネム系薬耐性菌感染症については、現在簡便な検査法がないが、臨床上も、院内感染対策上も、簡便な診断法が必要である。そこで、カルバペネム系薬耐性菌感染症診断のための、簡易迅速診断キット開発を目指し、基盤技術検討を行った。
- COVID-19罹患後症状の中で記憶力低下に注目した解析を行い、それに関連する遺伝子多型と血中因子の同定を行い、それらの関係性について詳細な解析を進めた。記憶力低下に関連する遺伝要因ノックアウトマウスを用いた解析において、記憶力低下を確認することができた。
- 薬剤耐性菌のサイレント・パンデミックが国際的に深刻化しており、多剤耐性を示すアシネトバクターなどへの新しい対応策が求められている。抗菌薬を含む既存治療法からの脱却を目指して、本研究では感染病態を重症化させる特異的な炎症応答に着目した新規治療法を考案した。
- 現在社会的に問題になっている劇症型レンサ球菌感染症の発症機序について、劇症型感染症では感染者の体内で、複数の変異を持つ菌が混在し、親株から派生した変異株が高病原化していること、また、この変異は細胞内に侵入することで変異誘導されている可能性が高いことを示した。
- 保有するSARS-CoV-2感染マウスモデルを用い、T細胞機能への介入がSARS-CoV-2重症肺炎を抑制することを示し、COVID-19重症化抑制の機序の一端を明らかとした。
- 細胞内侵入した病原細菌による翻訳動態の撹乱を最先端のトランスレイトミクスツールであるRibosome profilingを用いて網羅的に調べた。その結果、翻訳動態の撹乱は、病原細菌の細胞内での生存を阻害する宿主免疫を回避するために重要なプロセスであることが明らかとなった。
- 重症熱性血小板減少症症候群(SFTS)モデルとして、ヒト症例と類似した症状進行、リンパ組織病理や感染標的B細胞が観察されるフェレットが有用であることがわかった。さらに、感染標的B細胞マーカーをヒト及びフェレットで同定し、症状進行の評価に利用可能と考えられる。
- 新型コロナウイルス特異的な記憶B細胞をDNAバーコードを付加した複数の変異株ウイルス抗原プローブ、細胞表面抗原抗体で染色し、シングルセルRNA-seqを行うことで、交差反応性と抗体遺伝子情報、細胞表現型を紐づけたデータを網羅的に収集する技術を確立し、抗体応答の性質に応じた新たな記憶B細胞の亜集団の表現型を明らかにした。
- 長期間気管切開が施された患者の気道検体におけるMycobacterium abscessus species (MABS)の検出状況に関する全国調査を行った。結果として約10%(118/1118例)から検出され、23%(9/42施設)において同一施設において複数の患者から検出された。現在、複数例に検出された施設を対象にして、環境調査を通して感染経路の特定を進めている。
- 今後実用化されるCOVID-19ワクチンは、mRNAワクチンで免疫を獲得しているところにブースターワクチンとして使用されることが想定される。そこで、本研究では祖先株のS蛋白質をコードするmRNAワクチンで免疫したマウスに、SARS-CoV-2の様々な株のS蛋白質を抗原とする組換え蛋白質ワクチンでブーストしたときの抗体応答を解析することで、各株間の抗原性および抗原原罪の影響を評価した。その結果、抗原原罪の影響をあまり受けず、幅広い株に対する抗体を誘導できる株が見つかり、ブースター抗原として有用となりうる可能性が示唆された。
- 多施設共同研究及び単施設後ろ向き研究により、日本におけるエムポックスの臨床的疫学的特徴を明らかにすることを試みた。また、迅速抗原及び抗体検査の有用性も調査した。
- SARS-CoV-2変異株ブースターワクチンにより誘導される変異株特異的な中和抗体応答に関して検討し、BA.5株抗原に2回感作されることで、B細胞が刷込みを解除され高いBA.5中和活性をもつよう迅速に進化するメカニズムの詳細が明らかとなった。本研究で得られた知見は、変異株ウイルスに対する今後のワクチン接種戦略を考える上で重要な基礎情報となる。
- 病原体がその臓器向性を深部臓器へと転換し、感染症の劇症化を招く現象には、感染ストレスへの宿主応答が寄与していると考えられる。本研究では心筋炎等をモデル疾患に、患者血液を循環する情報伝達因子に対し、独自最適化したリキッド・バイオプシーを適用することで、劇症化と病態運命決定を担う細胞外小胞因子を同定し、その機能解析を進めた。
本研究事業は感染症から国民及び世界の人々を守り、公衆衛生の向上に貢献するため、感染症対策の総合的な強化を目指します。そのために国内外の感染症に関する基礎研究及び基盤技術の開発から、診断法・治療法・予防法の開発等の実用化研究まで、感染症対策に資する研究開発を切れ目なく推進することとしております。
最終更新日 令和6年12月11日