創薬企画・評価課 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和5年度 事後評価結果について

新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和5年度終了課題の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査及びヒアリング審査にて事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:令和6年6月10日及び17日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発達成状況
  2. 研究開発成果
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 事業で定める項目及び総合的に勘案すべき項目
  6. 総合評価

6.総評

総合評点は5.5~8.3点に分布し、全24課題のうち19課題が課題が「総合的に計画どおり進捗している(総合的に計画した成果が得られた)」又は「計画を超えて進捗している(計画を上回る成果が得られた)」と評価され、5 課題が「計画どおりに進捗している部分もあったが進捗していない部分もあった(計画した成果と同程度の成果が得られた部分もあるが、下回る成果の部分もあった)」と評価されました。

主な成果を以下に記載します。

①感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究

  • 研究活動で得た分離株、ゲノム情報、病原体-宿主の相互メカニズムの知見は、多様なダニ媒介感染症の病態解析、治療法、ワクチン開発の貴重なシーズ、技術になる。また血清疫学情報は新たな患者の広がりの具体可能性を示し、啓発に繋がる。さらに患者情報解析は、サーベイランスの課題と抗菌薬適正使用に繋がる。
  • 腸管出血性大腸菌の新規分離同定法を確立し、重症例由来株の分離同定とそれらの病原性評価系を構築した。重要な毒素であるStxやSubの阻害剤の開発、機能の解明を行った。カンピロバクターのPenner血清型の抗原性を安定に発現する亜型およびそれらを規定する遺伝子を同定した。
  • 淋菌収集システムを活用し年間1000株以上の分離株の解析結果を厚労省ならびにWHO GLASSへ情報提供した。更に、ゲノム解析、耐性遺伝子検出方法、抗菌物質の開発を推進した。Mycoplasma genitalium感染症の臨床像の理解を深めた。マクロライド耐性遺伝子検出系を考案した。
  • 感染症を媒介する節足動物に関して、衛生昆虫学、ウイルス学、獣医学の方面から包括的に研究を行った。節足動物から分離・同定された新しいウイルスに関して性状解析を行い、野生動物の血清疫学的調査を行った。また、分類・生態、殺虫剤抵抗性、防除の研究も行った。
  • 国内で拡散している薬剤耐性菌の実態を正確に把握するため、医療機関から薬剤耐性菌株を広く収集して耐性遺伝子、耐性メカニズムを明らかにするとともに、臨床におけるリスク評価の試行、簡便な検出ツールの開発、耐性菌の精度管理株の創出、耐性菌バンクパネルの充実、新規化合物の開発を行った。
  • ヒトの最も近くで生活する愛玩動物における人獣共通感染症を調査し、対策をとることが重要である。SFTS、SARS-CoV-2、リッサウイルス、ブルセラ病などの動物由来感染症の疫学調査、予防法の開発、診断法のマニュアル作成などを行い、総合的な研究を実施した。
  • 高齢者(在宅居住者、認知症患者など)の口腔にはMRSAや第3世代セファロスポリン耐性グラム陰性菌の存在を認めた。薬剤耐性菌の存在は細菌叢に大きな変化は生じないが、一部の細菌種には変動が生じる。また抗菌薬投与による薬剤耐性遺伝子の総量の増加傾向が認められた。
  • 迅速かつ網羅的な結核菌薬剤感受性検査が確立され、病態評価バイオマーカーの有望な候補が見いだされた。病原性や毒性に関する重要な転写因子を特定し、さらに必須遺伝子も同定して将来的な創薬に貢献した。ゲノム疫学研究を通じて、病原体サーベイランスの基礎を確立した。

②ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究

  • 副反応の一因である脂質性ナノ粒子に依存しないmRNAワクチンの開発を行った。mRNA単体のジェットインジェクター投与や、高分子ナノ粒子ワクチンにより優れた効果を得た。さらに、冷蔵での長期保存にも成功した。現在、企業導出し臨床開発を行っている。
  • 新しい多剤耐性結核治療本ワクチン(ワクチンX+アジュバントY)を開発し、1例目の多剤耐性結核患者に有効であったがYの作製が困難となった。ワクチン成分の組合せによるキラーT分化誘導機構や蛋白Vの新しいリンパ球活性化機構を発見した。新しい潜在性結核診断法(Z、Wを用いて)の開発を行った。
  • 新型コロナウイルス感染症のパンデミック期間中に、ムンプス、風疹、水痘、帯状疱疹、ロタウイルス、百日咳を含むワクチンで予防可能な疾病について各種サーベイランスを実施し、学際的研究を行った。これらの結果は公的会議体の資料、学会発表、学術論文等として公表され、予防接種政策に関する議論に寄与した。
  • 細胞培養インフルエンザワクチンの実用化に向けた研究を行った。流行に即したワクチン製造株を数多く作製し、ワクチンのHA抗原量を適確・簡便に測定する手法の確立、ウイルス増殖に関与する細胞因子の同定と機能解析を行い、日本における細胞培養インフルエンザワクチン実用化に資する技術的基盤の確立を大きく進めた。

③新興・再興感染症の診療体制の確保に資する研究

  • 最高レベルのバイオセーフティ、バイオセキュリティ対策を要求するBSL-4施設を実例に、病原体取り扱い実験室における実践的なバイオリスクを制御する方策を提案した。
  • 肺非結核性抗酸菌症の宿主ゲノム・病原体ゲノムを併せ持つコホートを拡大・整備した。この拡大コホートから新規の疾患感受性遺伝子を同定しただけでなく、日本人肺非結核性抗酸菌症におけるCFTR遺伝子の意義、嚢胞繊維症との病態関連を明らかにした。また、病原体ゲノムを用いた菌株GWASにより、菌側の新規重症化遺伝子を複数明らかにし、このコホートを用いて重症化予測式を確立した。

④感染症に対する診断法、治療法の実用化に関する研究

  • 多剤耐性A.baumanniiに対する次世代ファージ療法の開発に関して、5つの新規のdepolymeraseを同定し、溶菌効果を検証できた。今後は製剤化に向けた取組みを行う。多剤耐性AIECを標的とした改変ファージ療法の確立に関して、AIECに特異的な改変ファージ作成には足場のツール情報の充実が必要である。多剤耐性MRSAに対するファージ製剤の開発、ざ瘡に対するファージ療法の開発は計画通りに進行した。
  • ディフィシル感染症の新規治療法の開発を目指して、毒素を中和するプラスチック抗体の開発を試みた。細胞培養を用いた評価系において、毒素を強く中和するプラスチック抗体の作成に成功したが、動物実験系では効果は不十分であったため、さらなる検討が必要である。
  • へパラン硫酸などのプロテオグリカンがムンプスウイルス感染を抑制すること、N型糖鎖上のシアロ糖鎖が受容体として働くこと、糖鎖だけでなく宿主タンパク質もムンプスウイルスの感染(膜融合)に関わることを明らかにした。
  • 薬剤耐性淋菌、緑膿菌に有効なエネルギー産生系の呼吸鎖酵素を標的とする、狭域スペクトラムのアロステリック新規抗菌剤の開発をすすめ、標的性の検証、複数の感染評価系モデルの構築と新規化合物の創出に成功した。
  • 様々なRNAウイルスの高速リバースジェネティクス系を構築し、GFPやルシフェラーゼを搭載したレポーターウイルスの作製にも成功した。それらの組換えウイルスの応用研究における有用性も明らかにできた。
  • 抗酸菌抗体陽性の地域住民の特徴を記述することができた。抗酸菌脂質特異的T細胞集団を同定できた。抗酸菌免疫抑制受容体の立体構造を明らかにし中和抗体の認識機構を結晶構造解析で示した。治療薬候補化合物を迅速簡便に評価するex vivoスクリーニング系とin vivoカイコモデルを確立し、化合物ライブラリを用いたスクリーニングを行った。
  • 非天然のビルディングブロックをペプチドに導入することで、そのヘリカル構造制御並びに高い抗菌活性を示すペプチドの開発に成功した。本ペプチドは多剤耐性菌に対しても有効性を示し、細菌感染症の新たな治療薬剤候補になりうると期待される。
  • PVL4以上の血漿を用いた抗HTLV-1人免疫グロブリン製剤の製造・規格試験・ウイルス安全性評価及び、ヒト化マウスを用いた感染予防効果・母子感染リスク低減能を確認し、新規に構築したニホンザルSTLV-1の研究基盤を用い、有効性・安全性を霊長類モデルでの検証ができた。各種病原体における母子感染予防法との比較及びHTLV-1キャリアへのアンケート調査等から、製剤化に向けた問題点等を明らかにした。
  • コウモリ由来MERS-CoV様ウイルスが新たな呼吸器感染症となった場合への対処法を開発することを目的として、コウモリ由来MERS-CoV様ウイルスの培養系の確立、感染に重要な分子の同定、動物モデルの開発、検査方法の開発、有効な治療薬提案を行った。

⑤新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究

  • 早期診断と早期治療、およびらい反応への対処が必須であるハンセン病やその近縁疾患について、ハンセン病等に対する細胞レベルでの基盤研究や新規検査法の開発、病態解明に向けた遺伝子解析、サーベイランス等、ハンセン病を含む疾病対策に資する総合的な研究、及びハンセン病制圧を目指した国内外の診断・治療ネットワーク体制の構築を実施した。

最終更新日 令和6年8月5日