疾患基礎研究課 新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点研究領域)における令和4年度課題評価結果について(中間評価)

令和4年度新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点研究領域)の中間評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

1.中間評価の趣旨

中間評価は、研究開発課題について情勢の変化や研究開発の進捗状況等を把握し、これを基に適切な予算配分や課題の中断・中止を含めた研究開発計画の見直しの要否の確認等を行うことにより、研究開発運営の改善及び機構の支援体制の改善に資することを目的として実施します。

2.中間評価委員会

開催日:令和4年11月4日

3.中間評価対象課題

令和4年度 中間評価対象課題(令和2年度研究開始課題:10課題)

4.中間評価委員会

岩田 敏(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院感染症部長)
倉根一郎(国立感染症研究所 名誉所員)
笹川千尋(千葉大学 真菌医学研究センター長・特任教授)委員長
多屋馨子(神奈川県衛生研究所長)
俵木保典(第一三共株式会社サステナビリティ推進部環境経営・グローバルヘルスグループ)
横田恭子(東京工科大学医療保健学部 臨床検査学科教授) (五十音順、敬称略、令和4年11月4日現在)

5.評価項目

  • 研究開発達成状況
  • 研究開発成果
  • 実施体制
  • 今後の見通し
  • 総合評価

6.総評

新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点研究領域)における研究課題は、アジア・アフリカに整備した研究開発拠点に国内の大学・研究機関等に所属する研究者が常駐して現地国の大学や研究機関との共同研究や基幹病院のバックアップの強みを活かして、感染症の患者検体や臨床データ等を迅速に収集し、病原体の分離・解析を行い、感染症病原体の基礎的研究や疫学研究を実施している。
海外拠点のうち、先行事業の感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)において整備された研究拠点では設置後8~18年間を経過しており、令和2年度の公募において新規に開設されたコンゴ民主共和国(DRC)の拠点も含めて、現地国の研究機関等と信頼関係に基づいた円滑な共同研究体制を構築し得ている。
中間評価対象課題は、いずれも現地国の研究機関等との共同研究により、感染症の発生・流行のメカニズムを解析した感染症制御や医薬品開発に資する基礎的な研究成果を創出しており、総じて高水準の評価となった。
さらに、令和2年度からは、新たな公募研究として海外拠点活用研究領域の研究が始まり、海外拠点を持たない国内の大学や研究機関に所属する研究者にも海外拠点機能のオープン利用による受入体制が整備されて、感染症の研究機会を拡大するとともに、海外拠点との間で、リソースや解析手法の共有化による相乗効果が図られている。
また、研究活動と併せて、グローバルな感染症研究フィールドで今後活躍し得る我が国の専門的人材を育成するとともに、現地国の人材育成や公衆衛生面の向上にも大きく貢献しており、現地国側からも高い評価を得ている。

7.課題ごとの評価要旨

中間評価対象課題の10課題はすべて、計画どおりに進捗していると評価された。

(1)ザンビア拠点
ザンビア大学獣医学部(UNZA-VET)に研究拠点を設置。ザンビアにおけるコウモリ、ブタ、ウシ、ダニ等が保有する人獣共通感染症の病原体を単離して、網羅的に解析した。特に、コウモリは、種々の病原体の自然宿主であり、病原体の伝播に重要な役割を果たしているので、長距離飛翔の行動追跡及び保有病原体の解析を実施し、ヒトに致死的な病原体であるマールブルグウイルス等の病原体の分布や伝播の実態を解明し、ヒトへの伝播リスク予想の基盤データを得る先回り研究を行った。ダニに刺咬され発熱や筋肉痛を主症状とした症例から新規オルソナイロウイルスを単離してエゾウイルス(YEZV)と命名した。また、ザンビアの結核患者から分離した薬剤耐性結核菌の変異遺伝子分析により、簡便・安価・迅速な結核菌薬剤感受性試験キットを開発して、感度や精度をザンビアの患者由来検体で検証した。さらに、ザンビアよりも薬剤耐性結核菌が蔓延しているタイにおいて、タイ国立予防衛生研究所(NIH)との共同研究により、同試験キットの性能評価を行い、実用化可能であることを確認した。

(2)フィリピン拠点
フィリピン・熱帯医学研究所(RITM)に研究拠点を設置。ビリラン島での長年にわたるコホート研究において、小児のRSウイルス感染後に家族における感染状況の追跡調査を行い、感染リスクが5歳以上の小児に比べ、5歳未満の小児において有意に高い家庭内感染のメカニズムについて、新たな知見を得た。コホート研究で得られた検体を用いて、ライノウイルスの遺伝子解析を行い、臨床情報と比較し、血清型や遺伝子型による重症度の違いを明らかにした。また、環境水からのSARS-CoV-2遺伝子の検出において、検出方法と回収効率を確認して、ウイルス濃度測定による流行予測モデルを構築した。

(3)ミャンマー拠点
国立衛生研究所(NHL)に研究拠点を設置。政変下における制約はあったが、現地スタッフと頻繁なウェブ会議を行い、引き続きNHLの協力も得て、大学病院や基幹病院との連携関係を維持した上で、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの検体入手先の病院を新規に開拓し、検体を日本に国際輸送して、国内株との比較解析及び系統地理学的な解析を行い、国際的な伝播状況を分析した。また、現地の基幹病院とは、医療従事者の新型コロナワクチン抗体価とワクチンによる発症予防効果の調査に合意した。さらに、現地に患者の多い小児髄膜脳炎における重要な病原体の最近の流行株にPCRアッセイが適応していないことを明らかにして、高感度な新規アッセイ系を開発し、今後、大学関連の小児病院と新たな共同研究を予定している。

(4)中国拠点
中国科学院微生物研究所(IMCAS、北京拠点)及び中国農業科学院ハルビン獣医研究所(HVRI、ハルビン副拠点)に研究拠点を設置。中国での新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の発生及び世界的流行を受け、原因ウイルスSARS-CoV-2のハムスターを用いた感染動物モデルをいち早く確立した。また、感染伝播性や病原性の解明及び変異株の性状を解析して、感染予防及び治療につながる可能性のある抗ウイルス薬や抗体薬などの基盤的な研究を行い、SARS-CoV-2制圧につながる知見を得た。また、院内感染対策上、重要な薬剤耐性菌の中国での流行状況を解析し、疫学情報収集体制を構築した。

(5)ガーナ拠点
ガーナ大学野口記念医学研究所(NMIMR)に研究拠点を設置。媒介蚊に関して、ガーナ国内の異なる環境下で採集したネッタイシマカ4系統を樹立し、DENV-1及び-2に対する感染感受性及び感染播種性を調べた結果、ガーナ系統のほとんどで対照としたベトナム系統に比べ両性質とも劣っていた。この結果は、媒介蚊の特性がガーナでデング熱が顕在化しない要因の一つになっている可能性を強く示唆するものであることを明らかにした。薬剤耐性菌の研究では、臨床検体から分離された大腸菌の世界的流行系統の薬剤耐性因子や伝播拡散機構等の遺伝的特徴を明らかにした。また、病院排水からカルバペネム耐性の大腸菌及びアシネトバクター属細菌の拡散状況を培養法で解析して、基盤データを得た。ブルーリ潰瘍の患者が多く発生している河川流域で、環境水から、起因菌が有する遺伝子を検出した。

(6)タイ拠点
タイ保健省医科学局国立予防衛生研究所(NIH)及びマヒドン大学熱帯医学部に研究拠点を設置。タイ保健省医科学局及び疾病制御局と連携してタイ全土の下痢症アウトブレイクを調査し、起因病原体候補の同定と検出病原体のゲノム解析を行った。バンコク及びタイ・ミャンマー国境地域におけるフィールド調査やタイ国全土を対象とした薬剤耐性菌の調査、現地で得られる検体を用いた蚊媒介性ウイルスの基礎研究等で研究成果が得られた。また、カルバペネム耐性菌のゲノムサーベイランスでは、新規のカルバペネム耐性増強メカニズムを明らかにした。

(7)コンゴDRC拠点
キンシャサ国立生物医学研究所(INRB)に、令和2年度に、研究拠点を開設し、キンシャサ特別州及びカサイ州の主要医療機関とのネットワークを形成した。重症マラリアに寄与する分子マーカー探索のプロトコルを構築し、現地国保健省の倫理承認を受け、検体サンプリングを行い、日本国内に臨床検体や臨床情報を送付して、より詳細な解析を行った。COVID-19の市中感染やワクチン接種後の血清疫学調査を行い、自然感染とワクチン接種による免疫応答の違いを明らかにした。これまで感染症情報収集の空白地域であったコンゴDRCに拠点を設置した意義は大きい。

(8)インドネシア拠点
アイルランガ大学熱帯病研究所(ITD)に研究拠点を設置。ノロウイルスのゲノム解析により、遺伝子型の多様性を解明するとともに、家族内伝播例における分子系統樹解析で小児による他家族への伝播を明らかにした。重症デング及び軽症デングの患者検体から、RNAseq用のcDNAライブラリーを作製して、複製に影響する宿主因子の候補を複数同定した。新型コロナウイルスについては、アイルランガ大学から大量のデルタ株及びオミクロン株の陽性検体の提供を受けて、血清検体の全ゲノム解析により、変異株を含む遺伝進化学的流行動態メカニズムの実態解明に資する解析を行った。

(9)インド拠点
インド国立コレラ及び腸管感染症研究所(NICED)に研究拠点を設置。NICEDと共同して下痢症患者周辺の健常者(患者家族や近隣住民)から採取した糞便のメタゲノム解析によってコレラ菌の無症候性キャリアの存在を明らかにした。また、コレラ菌の環境水での生存にコルカタ市の環境水に豊富に含まれているミネラルが重要であることやプロテアーゼ曝露により環境水中での存在形態である休眠型菌から栄養型菌に復帰することを見出した。さらに、キチン分解系が外来遺伝子の取込みを促進し、環境水での新型コレラ菌等の新しい病原菌が発生するプロセスの一端を解明した。

(10)ベトナム拠点
国立衛生疫学研究所(NIHE)及びバクマイ病院に研究拠点を設置。蚊媒介性感染症、下痢性感染症、呼吸器感染症や新型コロナウイルス感染症を含む人獣共通感染症等を研究対象とし、各種感染症の流行・疫学・病原性のメカニズムの解明や感染予防に関連する研究に取り組んだ。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の対策として、SARS-CoV-2遺伝子を検出するLAMP法による早期診断法を開発した。また、Nタンパク質を抗原とした抗体の迅速診断キットをNIHEと共同開発し、ベトナム国内で社会実装し、公衆衛生対策として検査体制の確立と感染拡大防止に貢献した。

以上

最終更新日 令和5年11月13日