疾患基礎研究課 エイズ対策実用化研究事業における令和3年度課題評価結果について

令和3年度「エイズ対策実用化研究事業」の事後評価結果を公表します。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開および事業運営の改善に資することを目的として実施します。

エイズ対策実用化研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を下記の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、書面審査で事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:令和4年1月26日

3.事後評価対象課題

開始年度 終了年度 研究開発代表者名 所属機関名 研究開発課題名
2019 2021 佐藤 賢文 国立大学法人熊本大学 高精細核酸解析技術と先駆的ウイルス動態解析技術との融合による HIV潜伏感染克服へ向けた新規治療標的創出研究
2019 2021 野村 拓志 国立感染症研究所 SIV複製制御サルモデルにおける潜伏細胞排除を目指した研究
2019 2021 松下 修三 国立大学法人熊本大学 中和抗体によるHIV感染症の治癒を目指した研究開発
2019 2021 門出 和精 国立大学法人熊本大学 HIV-1 Gagタンパク質を標的とした薬剤スクリーニングシステム構築
2019 2021 小谷 治 国立感染症研究所 HIV複製と創薬研究を推進する革新的な構造生物学研究基盤の創成
2019 2021 菊地 正 国立感染症研究所 国内流行HIV及びその薬剤耐性株の長期的動向把握に関する研究
2019 2021 木村 公則 東京都立駒込病院 血友病合併HIV/HCV重複感染に起因する肝硬変に対する抗線維化治療薬の開発
2019 2021 石井 洋 国立感染症研究所 HIV感染増強に結びつくワクチン誘導免疫に関する研究
2019 2021 近田 貴敬 国立大学法人熊本大学 LC-MS/MSを用いたHIV根治療法に関わるT細胞の同定
(順不同)

4.事後評価委員

氏名 所属・役職
味澤 篤 東京都立駒込病院 感染症科非常勤
今村 知明 奈良県立医科大学 公衆衛生学講座 教授
神奈木 真理 関西医科大学 医学部 微生物学講座 客員教授
谷 裕美子 株式会社 バイオジェン・ジャパン メディカル本部 中枢神経領域 部長
中島 典子 国立感染症研究所 感染病理部第3室 室長
山本 直樹 国立国際医療センター 特任部長
横幕 能行 〇 国立病院機構名古屋医療センター エイズ総合診療部 部長
〇:委員長(五十音順、敬称略、令和4年1月26日現在) 

5.評価項目

  1. 研究開発達成状況について
  2. 研究開発成果について
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. HIV/エイズ対策の推進
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

治療薬の進歩により、HIVに感染しても致死的状況を回避できるようになりましたが、HIV感染症自体は治癒することはなく、現在のHIV感染の治療には長期の薬剤服用が必要となります。そのため、感染者のQOLの向上、医療経済上の負担軽減から、治癒を目指した研究が重要な課題となっています。

本研究事業では、HIV感染症の根本的解決につながるHIV感染症の根治療法に資する研究について、基礎から実用化に向けて一貫して推進しています。あわせて、HIV感染症について感染機構や関連病態などの解析を進め、患者QOLの向上や医療経済上の負担軽減を目指しています。

令和3年度事後評価を実施した9課題(3.事後評価対象課題)について、特に顕著な成果について記載いたします。

  • 新規タイマーHIV潜伏動態解析システムは、HIV治癒へ向けた治療薬の新規評価系としての有用性やウイルス潜伏化に関する未知のメカニズム解明につながる事が期待される。潜伏維持のメカニズム研究から見出したMAPKKはその分子を阻害する薬剤を同定することで、従来の薬剤よりもウイルスに選択性の高い薬剤シーズになることが期待される。
  • 複製制御に寄与するワクチン誘導SIV特異的CD8陽性T細胞の性状を明らかにし、CTL依存的な長期複製制御維持に必要なCD8陽性T細胞の性質を解明した。また、組織中のウイルス抗原特異CD8陽性T細胞の分布および動態を指標として分析することで、機能的な潜伏感染細胞を含む組織・細胞分画にかかわる新規の知見を得た。
  • 中和モノクローナル抗体(1C10)は、SHIVに感染した非ヒト霊長類(NHP)を用いた研究で、7頭中6頭に「HIV感染寛解」の誘導という効果を示した。中和抗体の活性を飛躍的に増強するCD4 mimicであるYIR-821の長半減期化に成功し、臨床開発への道筋を明らかにした。
  • HIV-1放出阻害剤のスクリーニングシステムを開発することに成功した。このシステムを使うことで、HIV-1放出を阻害する候補化合物を発見することに成功している。
  • HIV Pr55Gag全長構造モデルの構造情報を起点に、Pr55Gag構造生物学研究と創薬研究を補完的に推進する計算科学/ウイルス学の異分野連携研究基盤を創成した。この基盤を活用して、Pr55Gag不定形領域によるアロステリック調節機構を見出し、新しい創薬標的を同定した。
  • 日本で新規に診断されるHIV感染者・AIDS患者の約40%の臨床・疫学情報とHIV遺伝子配列情報を長期間継続的に解析し、分子疫学研究と伝播クラスタ解析を行い、伝播性薬剤耐性の動向、国内流行HIV株の動向、国内伝播クラスタの動向とその疫学的背景を詳細に明らかにした。
  • 血友病合併HIV/HCV重複感染に起因する肝硬変に対する抗線維化治療薬の開発を進めており、2種類の投与量(1140および2280 mg/m2/4hr)の薬物動態の評価を含めた安全性・忍容性を検討することを目的に、医師主導治験(Phase I試験)を実施している。治験薬を投与した4例の安全性に関しては、現時点までに重篤な有害事象の発現は認められていない。
  • SIV特異的CD4陽性T細胞が高いSIV感染感受性を有することを示すとともに、ウイルス複製抑制への寄与が小さいCD8陽性T細胞の性状を明らかにした。また、予防ワクチンおよび治療ワクチンにおいて、有効な抗原特異的CD8陽性T細胞の選択的誘導が有用な戦略となり得ることを示した。
  • LC-MS/MSによって同定された単一のHIV感染HLA発現細胞に提示されるHLA結合ペプチドを評価し、HIVエピトープを効率よく同定できることを示した。本方法により、HIV潜伏感染細胞排除のためのワクチン開発において、有望なエピトープ候補の同定が期待される。

事後評価委員会では、すべての研究課題について、計画を超えて進捗、または計画通り進捗しており、『国内競争力がある成果/我が国の健康医療の発展に大きな貢献が期待される成果』と評価されました。

抗HIV療法の進歩により、HIV感染者の予後は向上されましたが、未だ根治療法は完成しておらず、抗HIV薬の長期服用が必要であり、薬剤耐性ウイルスの出現、QOLの向上などが重要な課題として残っています。

本研究成果は、これら課題の克服に向けた新しい抗HIV薬、根治療法の創出、HIV関連疾患における課題克服に資するものであり、本事業では今後もHIV治療薬・治療法の開発・実用化に向けてさらなる基礎および臨床研究を推進します。

最終更新日 令和4年4月4日