疾患基礎研究課 エイズ対策実用化研究事業における平成28年度課題評価結果について
平成29年10月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課
平成28年度「エイズ対策実用化研究事業」の中間評価及び事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。
中間評価
1.中間評価の趣旨
エイズ対策実用化研究事業(以下、本研究事業)では、効率的かつ効果的な研究開発を推進し、限られた原資を有効に活用し、研究開発支援を適切に実施すること等をねらいとし、本研究事業における中間評価の評価項目に沿って、書面審査及び対面審査(研究開発初年度課題は書面審査のみ)にて中間評価を実施しました。
2.中間評価委員会
3.中間評価対象課題
4.中間評価委員
5.評価項目
- 研究開発進捗状況
- 研究開発成果
- 実施体制
- 今後の見通し
- HIV/エイズ対策の推進
- 総合評価
6.総評
本研究事業はHIV感染症の予防、診断、治療に係る技術の向上、HIV/エイズ治療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することとしています。
本研究事業中間評価に際して、平成28年度における研究成果について以下のように分類(新規ワクチン・治療薬開発に関する研究、医薬品シーズ探索に関する研究、HIV感染の機構解明に関する研究、HIV関連病態の解明と治療法開発に関する研究)し、特に顕著な成果を以下に記載致します。
新規ワクチン・治療薬開発に関する研究- HIV Env三量体改変抗原発現センダイウイルスベクターおよびHIV Env三量体改変抗原搭載ウイルス様粒子VLP(特許出願済)を構築し、これらの併用ワクチンのサルへの接種実験にて、高いEnv特異的抗体誘導能が示された。
- CD4/CD8両陽性T細胞からの分化誘導をT細胞受容体刺激の点から改良し、増殖能とサイトカイン産生能の向上したT-iPSC-CTLの作製に成功した。また、T-iPSC-CTLのHIV感染ヒト化マウスへの移植実験では、限定的ではあるがCD4細胞の減少を抑制する効果を確認した。
- HIV中和抗体の活性を増強するCD4-mimicの最適化が行われ、YIR-821が見いだされた。サルで、YIR-821の急性毒性と体内動態が検討された結果、YIR-821は20μMまで安全であることを明らかにし、サルでの中和抗体とYIR-821の併用POC試験実施の目処がたった。
- SIV断片連結抗原発現センダイウイルスベクターワクチンを接種したサルに、SIVをチャレンジするとSIVの複製制御が認められ、長期有効性の検証が始められた。また、経時的な腸管感染免疫学的解析に向けて、T細胞機能評価系並びにマクロファージ・樹状細胞の同定法を確立した。
- ダルナビル耐性HIV株にも強力な抗ウイルス活性をもち、良好な中枢移行性をもつ新規化合物が複数見いだされた。HIV 関連神経認知障害の治療への応用が期待された。
- 侵入阻害に加え、免疫を賦活させる新規なbifunctional Env阻害物質が見いだされ、特許についても出願準備している。
- 既存薬とは異なる作用機序をもつ化合物を探索するために、スクリーニングが実施されており、Vif阻害剤では、in silico スクリーニング及びVif阻害活性の評価を実施した結果、カンプトテシン誘導体2化合物を見いだした。また、HIV-1RNaseH阻害では、リード化合物NACME (5-nitro-furan-2-carboxylic acid carbamoyl methylester)誘導体を有機合成展開し、ヒトRNaseH1に対して、選択性のある化合物を見いだしている。
- NanoBRET法を用いて細胞内Gag多量体化効率の測定系並びにGag結合因子の網羅的探索系の開発が行われ、HIV複製機序の解明と新しいクラスの創薬シーズ同定が促進された。
- 13種類のHIV-1をコントロールする細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte:CTL)クローンを樹立し、これらすべてのCTLが強くHIV-1増殖を抑制することを示した。また、このうち12種類は不変領域を認識するか、変異領域も認識できることを明らかにした。さらに、HLAに相関した変異(HLA-AM)の解析により、新しいCTLエピトープを同定し、このHLA-AMがCTLによる逃避変異であることが示された。
- 初代培養を含めた細胞に対して、TAR TALEN包埋ナノ粒子の単回添加により、HIVプロウイルスのLTRの切断を誘導し、ウイルス遺伝子を不活性化させることが可能であることを示した。
- アカゲザルに効率良く感染・増殖し、持続感染することができるCCR指向性HIV-1(R5-HIV-1rmt)の構築に取り組み、増殖能が大幅に向上した馴化ウイルス2種を得ることに成功した。
- HIV動向調査の本ネットワークは、2016年上半期の時点においてエイズ動向委員会で報告される新規HIV/AIDS症例の4割近くを網羅しており、本邦におけるHIV/AIDSの動向を反映していることが示された。
- AAVベクター基礎技術とCRISPR/Cas9を組み合わせ、ベクター単回投与によるマウス血友病Bのin vivoゲノム編集に成功した。通常の遺伝子治療と異なり、ゲノム編集の治療効果は新生仔投与でも認めた。
- 服薬アドヒアランスの向上において、二次元バーコード(Code-EX)を用いる事で安全なデータ交換方式を構築した。
- ART早期化と長期化に伴う日和見感染症への対処に関する研究では、本邦におけるHIV感染者の日和見感染症や腫瘍の動向調査結果をホームページや冊子で公表し、データ提供者のみならず関係者にも還元できた。
- 日本人に最適化されたエイズ関連悪性リンパ腫の包括的医療体制の確立において、アジア株のカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)全塩基配列を世界で初めて報告し、欧米・アフリカ株と異なるLANA配列を見出した。
- 本邦におけるエイズリンパ腫の発症動向の継続的把握と臨床研究のベースとするため、日本血液学会疫学調査「血液疾患登録」に登録した。
「新規ワクチン・治療薬開発」では、大半の研究において着実な成果が得られており、独創性が高く今後の展望が期待されると評価されましたが、一部の研究ではやや成果が不十分との評価もありました。「医薬品シーズ探索に関する研究」では、概ね期待通りの進捗と評価されました。「HIV感染の機構解明に関する研究」では、一部の研究で進捗の遅れが認められたものの、その他の研究では、進捗も十分で有り大きな成果が得られました。「HIV関連病態の解明と治療法開発に関する研究」においては、研究の性質上、進捗評価が難しいと評されたものの、実臨床に即したものであり、臨床現場への還元が多く、研究意義が高いと評価されました。
以上より、得られた研究成果は本研究事業の趣旨に相応しく、また進捗も研究継続するに適うと評価され、今回中間評価の対象となった17課題全てを平成29年度も継続することを決定しました。
事後評価
1.事後評価の趣旨
事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
エイズ対策実用化研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、書面審査及び対面審査にて事後評価を実施しました。
2.事後評価委員会
開催日:平成29年2月18日
3.事後評価対象課題
4.事後評価委員
- 平成28年度 課題評価委員(9名)
5.評価項目
- 研究開発達成状況
- 研究開発成果
- 実施体制
- 今後の見通し
- HIV/エイズ対策の推進
- 総合評価
6.総評
本研究事業はHIV感染症の予防、診断、治療に係る技術の向上、HIV/エイズ治療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる、基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することとしています。
本研究事業事の事後評価において、特に顕著な成果を記載致します。
- カニクイザルを用いたHIV-1長期潜伏感染霊長類モデルを初めて確立し、本モデルの解析により、潜伏感染期においては優勢な獲得免疫応答によりHIVが制御され、それに対して逃避変異によりHIV潜伏感染が維持されること、さらに濾胞性ヘルパーT細胞がHIV感染の場となっていることを示唆する知見が得られた。
- Tenofovir(TDF)投与後早期の尿中β2-microglobulinの測定が腎機能の長期的予後の予測に役立つことが示された。また、抗HIV療法で一年以上安定的にコントロールされている患者の一部では、骨密度が低下していくことが明らかとなり、その予知因子となるマーカーとして血清bone-specific alkaline phosphatase(BAP)と尿中N-terminal telopeptide of typeⅠcollagen(NTx)の重要性が明らかにされた。
HIV感染症の根治に向けた基盤的研究について、HIV-1長期潜伏感染霊長類モデルは、入手が容易なカニクイザルを用いた長期潜伏感染モデルであり、今後の応用研究の展開に期待できると評価されました。
また、適正な抗HIV療法開発のための研究について、評価委員会ではTDFによる腎障害の解析結果は、新しい抗HIV薬であるtenofovir alafenamide (TAF)副反応の指標となり、臨床成績と基礎検討を結ぶ優れた研究結果と評価されました。
いずれの研究も期待どおりの成果であると結論づけられました。
最終更新日 平成29年11月22日