疾患基礎研究課 肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)における平成30年度課題評価結果について

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課

平成30年度「肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)」の事後評価結果を公表します。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。

肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査にて事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:平成31年1月16日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

平成30年度 課題評価委員(10名)
評価委員   所属施設・職名/称号 AMED併任
赤池 敏宏   国際科学振興財団 再生医工学バイオマテリアル研究所 所長  
赤塚 俊隆   埼玉医科大学 名誉教授  
大座 紀子   佐賀県医療センター好生館 肝胆膵内科 部長  
恩地 森一   愛媛大学 名誉教授  
清澤 研道 委員長 社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 消化器病センター 名誉センター長、肝臓病センター 顧問  
中沼 安二   福井県済生会病院 病理診断科 顧問  
林 紀夫 副委員長 関西労災病院 病院長 PS
幕内 雅敏   医療法人社団大坪会 東和病院 院長  
松谷 有希雄   国際医療福祉大学 副学長  
宮村 達男   国立感染症研究所 名誉所員 PD

(敬称略 50音順 平成31年1月16日現在)

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況
  2. 研究開発成果
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 肝炎対策の推進
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

本研究事業は肝炎の予防、診断、治療に係る技術の向上、肝炎医療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる、基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することとしています。
本研究事業の事後評価に際して、研究開発課題を以下のように分類(C型肝炎に関する研究、肝硬変・肝発がんに関する研究、B型肝炎に関する研究)し、研究開発期間(平成28年度~平成30年度)における特に顕著な成果を記載いたします。

C型肝炎に関する研究

C型肝炎に関する研究では直接作用型抗ウイルス製剤(DAA)による治療後を扱った研究、ワクチンを始めとする免疫系の応答に応用した治療法の開発や、新たな作用機序によるHCV感染症治療薬の開発研究が主に進められました。
DAA治療の普及により、C型肝炎ウイルス(HCV)は排除可能になりましたが、ウイルス排除(SVR)後の過栄養(肥満)や肝発癌の問題や薬剤耐性ウイルスの出現による治療不成功の問題が表面化し、その対策が急務となっています。本事業ではゲノムワイド研究等によりC型肝炎の病態に関連する複数の宿主要因が明らかにされ、SVR後肝癌に関連する創出につながりました。また、次世代シークエンス技術を基軸とし詳細なHCV遺伝子情報と病態との関連を検討した結果、DAAの治療効果や肝発癌予測、DAA治療最適化に資する知見も得られています。DAA治療効果に関しては、肝組織でのIFNλ4発現がDAAs治療抵抗性と関連していることが見いだされました。
免疫を賦活化することによりHCVをコントロールする研究が進められています。細胞性免疫を効果的に誘導できるDNAワクチンとHCV遺伝子組換えワクシニアワクチンを組み合わせたPrime/Boostワクチンの手法を用いることで強力な治療効果が報告されました。さらにiPS細胞等から抗HCV効果を有するNK細胞の誘導に成功しHCVが免疫機構により排除され、発癌を抑止し得る免疫細胞療法の確立を目的とした基礎・臨床研究が行われました。
新たな作用機序によるHCV感染症治療薬の開発が進められています。HCVの感染複製に必要な細胞側因子であるシグナルペプチドペプチダーゼ(SPP)とその阻害剤の相互作用部位が明らかにされ、SPP阻害剤が多くの遺伝子型のHCVに対し抑制的な効果を示し、しかも耐性ウイルスが出にくいことが明らかにされました。HCVの粒子形成阻害剤の取得を目指した研究では、ウイルス因子NS2と宿主因子SPCS1の会合を阻害する低分子化合物の同定がなされました。また、新たに開発したHCV感染複製増殖系を用いたDAA薬剤感受性の解析や抗ウイルス薬の組み合わせの至適化が行われるなど、HCV感染症治療の向上につながる研究も成果を上げました。HCV感染によって発症する肝炎や肝癌のみならず、肝外病変や糖尿病、免疫異常に関する研究もおこなわれ、様々な宿主因子の同定とその意義が解析されました。また、in vitroだけでなく、in vivoや臨床検体を用いた解析を進めることで、HCV感染の病原性発症機構の解明が進められました。

肝硬変・肝発がんに関する研究

C型慢性肝炎から線維化、発がんに関与する機序を明らかにし、新たな診断および治療法を開発するための研究が進められました。
肝臓の炎症、線維化にかかわる細胞と分子を対象に、動物モデルを用いた解析が行われ、肝臓の線維化にかかわる分子を標的とした比較的早期に肝がんを診断する方法、および肝臓の炎症と線維化を標的とした新しい治療法開発に資する分子が明らかとなりました。肝蔵の線維化が原因の肝硬変症例に対する自己骨髄移植の臨床トライアルが国内でも行われているなか、内在性遺伝子発現を誘導できるタンパク質で線維芽細胞から肝臓細胞への分化を促進できるシステムの有効性が動物実験で確認され、肝再生療法の可能性が広がるものと期待されています。肝蔵の線維化と関わりが深い肝星細胞(HSC)におけるサイトグロビン(Cygb)過剰発現がHSC活性化を阻害し肝線維化を抑制することが明らかにされ、Cygb誘導剤のマウス肝線維化モデルでの治療効果が確認されました。一方で、肝炎ウイルス別に肝発癌機構が異なることや肝細胞癌のドライバー遺伝子が明らかではない事をふまえ、肝発癌に至る病態に注目した肝発癌機構の解析が進められました。その結果、ミトコンドリア品質管理機構が肝発癌抑制に重要な役割を果たすことや、鉄代謝がミトコンドリア品質管理を制御する分子機構が明らかにされました。

B型肝炎に関する研究

B型肝炎に関する研究では、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染複製増殖過程に着目し、その治療を目指した研究や、基盤研究が進められました。
HBVは、その複製過程に逆転写を行います。HBVが持つPOL蛋白(HBV-POL)は、RNA鋳型へのプライミング活性、逆転写活性、プラス鎖DNAポリメラーゼ活性、RNaseH活性という4つの機能を併せ持つ複合酵素であり、HBV-POLを完全に阻害できていれば、原則的には、HBVは排除されると考えられます。本事業では、これまで困難であったHBV-POLの全長発現に成功し、かつ酵素活性が保持されていることが確認できました。HBVのRNAに着目した研究も進められています。HBV-RNAと相互作用する宿主因子を網羅的に同定したうえで、HBVのライフサイクルや肝癌発症・予後に関わる因子などが新たに解明され、核酸アナログの免疫チェックポイント機構への作用、HBV完全閉環二本鎖DNA(cccDNA)からのウイルスRNA転写を阻害する化合物が見いだされました。HBV感染の治療を困難にしている要因の一つであるcccDNAの排除を目的として、CRISPR/Cas9系におけるガイドRNAを8個同時に発現する「一体型」アデノウイルスベクターを構築し、ダブルニッキング切断によるHBV ccDNAの安全で効果的な破壊、および動物実験が可能なベクターの作製に成功しました。このようなHBVの感染複製増殖過程に着目した創薬を進めるためには感染実験系が不可欠であり、多様な遺伝背景の肝細胞を使用した廉価で汎用性の高いHBVの感染・複製系の開発が求められています。そこで、感染効率改善のために、HBVが感染するヒトiPS由来の肝細胞、類洞内皮細胞、星細胞による肝スフェロイド培養系が樹立されました。この培養系は、肝細胞単独の培養系に比べて、HBVの感染に必要な因子の高い発現が認められており、HBVの感染系として有望とされています。

評価委員会では、「C型肝炎に関する研究」に対して、全体として評価が高く、それぞれ期待を大きく超える進展があったと認められました。また、「B型肝炎に関する研究」においては、大規模な疫学調査や治療法開発に資する成果が高く評価され、その他の研究開発分野でも概ね期待を超えた進展が認められたと評価されました。「肝硬変・肝発がんに関する研究」は主に肝再生に関する研究であり、実用化に向けた治験等の開始に向けて、既に準備できている点、欠けている点を明確にすることとの要求がありましたが、概ね計画通りの進捗があったと評価されました。今後の臨床応用、実用化へ向けた一層の努力が期待されます。

掲載日 令和2年1月10日

最終更新日 令和2年1月10日