疾患基礎研究課 肝炎等克服実用化研究事業(B型肝炎創薬実用化等研究事業)における平成28年度課題評価結果について

平成29年11月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課

事後報告

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
肝炎等克服実用化研究事業(B型肝炎創薬実用化等研究事業)(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査による事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:平成29年 1月 11日

3.事後評価対象課題

平成28年度 事後評価対象課題(平成24年度開始課題;16課題)

4.事後評価委員

平成28年度 課題評価委員(10名)

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況
  2. 研究開発成果
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 肝炎対策の推進
  6. 総合評価

6.総評

本研究事業はB型肝炎の画期的な新規治療薬の開発を目指し、基盤技術の開発を含む創薬研究や、治療薬としての実用化に向けた臨床研究等を総合的に推進することとしており、ウイルス因子の解析、宿主因子の解析、実験モデル系の開発および化合物の探索等、多角的に課題設定をしています。

本研究事業事後評価に際して、研究開発課題を以下のように分類(ウイルス因子の解析、宿主因子の解析、実験モデル系の開発、化合物の探索)し、研究開発期間における特に顕著な成果を記載いたします。

ウイルス因子の解析

  • B型肝炎ウイルス(HBV)の初期感染機構、複製機構、粒子形成機構を解析し、感染複製増殖に関わる因子等を同定した。また、新たに確立したHBV感染感受性細胞株等をHBV研究機関に提供することにより研究の推進に貢献した。
  • HBV生活環を調べることにより、新たな感染必須因子、新規抗HBV標的を見出した。さらに、感染系、HBV pol-RTアッセイ系を用いた化合物のスクリーニングにより、新規抗HBV化合物を約20種類同定した。
  • HBV感染、複製を簡便に評価するレポーターHBVを開発した。本レポーターHBVを用いて低分子化合物、宿主因子のスクリーニングを行い、HBVの生活環を制御する複数の化合物や宿主因子を明らかにした。また、HBVが感染し易い細胞の条件も明らかにしつつある。
  • HBVを糖鎖の側面から解析することにより、HBV分泌を阻害する糖鎖関連遺伝子を同定し、さらに、感染性のあるウイルスに特異的な糖鎖構造を認識するHBV感染阻害抗体の誘導と開発に成功した。また新規HBV検出系の開発へと繋がる成果が得られた。

宿主因子の解析

  • B型肝がんにおいて細胞性自然免疫が発がん抑止に働くこと、すなわちMICA発現増強およびMICA切断阻害がNK細胞の肝がん細胞に対する傷害性を亢進させることを明らかにし、肝がん治療の選択肢の一つとなる可能性が示された。
  • HBVが長期持続感染可能な細胞株の樹立し、抗HBV化合物スクリーニングの基礎を確立した。また、HBV感染によって起こる宿主の免疫学的応答においてRLR、 cGASがHBV制限因子であることを明らかにした。 加えて、HBV遺伝子治療用のshRNA発現アデノベクターを開発した。
  • 新たなB型肝炎ウイルスの培養系を作製し、cccDNAを排除できる新規で有望な標的分子を同定した。また、HBV感染における免疫研究から、HBVを排除するワクチン療法、T細胞レセプター(TCR)療法の基盤となる研究成果が得られた。

実験モデル系の開発

  • HBV持続感染培養システムを構築し、ハイスループット薬剤スクリーニングを実施した結果、複数のヒット化合物を得た。最適化合成した化合物の抗HBV活性、毒性評価、ヒト肝細胞キメラマウスを用いた前臨床試験を開始した。
  • HBV治療ワクチン及び治療薬、病態の解析には正常な免疫系を有し、かつヒトに近く遺伝的多様性を持つ動物実験系が不可欠である。そこで、唯一HBVが自然感染できるツパイをチンパンジーに代わる実験動物として確立させた。
  • 種々のHBV感染マウスモデルの作製に成功した。これら作製したマウスモデルを用いて、HBVゲノタイプによって異なる細胞障害性や、HBV感染に対する創薬標的としてのNTCPの有用性を明らかにした。
  • ヒト肝細胞キメラマウス由来の肝細胞を使用して細胞の80%程度まで感染が成立する初代培養肝細胞の系を構築した。さらに、キメラマウスを改良してヒト血球細胞の移植系を確立、B型肝炎モデルとして利用可能とした。この系を用いて重症肝炎の治療にCTLA4Igが有用であることを見いだした。
  • 主要組織適合抗原クラスI遺伝子がヒト化されたHHBマウスを用い、胎児の卵黄嚢血管経由でヒトiPS細胞由来の肝細胞を移植することにより、ヒト肝臓置換マウスの作製に成功した。また、チンパンジーiPS細胞の樹立に成功し、マウス桑実胚との間でキメラ胚盤胞の作製に成功した。

化合物の探索

  • HIVの逆転写酵素阻害剤の探索研究で得た情報を応用し、エンテカビルなど既存薬に対する耐性ウイルスにも効果を発揮し、毒性も軽微な新規核酸アナログを見いだした。前臨床試験への各種検討を進めている。
  • 非核酸アナログ抗B型肝炎ウイルス薬候補化合物のハイスループット並びにインシリコスクリーニングを行い、ウイルスの侵入や、cccDNA量、遺伝子転写反応、機能的カプシド形成を抑える幾つかの化合物を見いだした。
  • 肝細胞核内のHBV cccDNAとインテグレーションしたHBVゲノムの不活化・排除を達するために、ゲノム編集治療の臨床応用に向けた研究を進め、遺伝子治療用のコンストラクト導入方法はほぼ確立された。
  • metachromin Aとその類縁体の抗HBV活性評価を行い、ウイルスプロモーターを標的とする低毒性の抗HBV剤リードを見出した。また、既存高脂血症薬がB型肝炎治療薬となり得る可能性を示した。


「化合物の探索」及び「実験モデル系の開発」は、全体として評価が高く、特に化合物ハイスループットスクリーニングによる抗肝炎ウイルス薬のシーズの取得が研究期間を通して順調に進んだこと、より肝炎の病態を再現できる新しい動物モデルの開発も行われており、今後の発展が有望である事など、期待通りの進展が認められたと評価されました。これらは肝炎医療を遂行する上で必要性が高い医薬品の開発を目指した研究であり、患者の要求に答える成果につなげていただきたいと実用化が期待されました。

「ウイルス因子の解析」では、課題間で評価に差が見られましたが、HBV の感染複製増殖機構の解明が、研究期間の全過程を通じて順調に行われたなど進捗状況について高い評価がなされました。また、HBVの生活環に基づいた増殖を制御する化合物、宿主因子を明らかにするなど著明な成果が多く創出されたと評価されました。「宿主因子の解析」においても課題間で評価に差が見られ、一部にはやや遅れがあるものの、HBVの動態と免疫状態の役割を明らかにし、そこから得られた成果を基に標的とするHBV制御に関わる転写因子、新分子を標的とする薬物探索を遂行する等、全体として期待通りの進展が認められたと評価されました。

最終更新日 平成29年12月15日