国際事業課 HFSPフェローシップ受賞者からのメッセージ(2011年度受賞 佐田 亜衣子さん)

HFSPフェローシップ受賞者からのメッセージ

HFSPフェローシップ受賞者から、これから応募を検討している若手研究者の方に向けてメッセージをいただいています。英語での申請書作成や、ホスト研究者とのコミュニケーションについて工夫した点など、是非参考にしてください。

申請書の本質は英語能力ではなく、研究への熱意、アイデア、計画性等分かりやすく人に伝える能力

受賞者年度 2011年度
受賞者氏名 佐田 亜衣子
受賞研究テーマ Epigenetic regulation of stem cell fate acquisition in mouse skin
留学前所属 総合研究大学院大学相賀裕美子研究室(日本)
留学先所属 コーネル大学Tudorita Tumbar研究室(米国)
留学期間 2011年度~2016年度
写真1枚目

Q1.HFSPに応募した理由

私がポスドク先を探し始めたのが、2010年4月。博士課程修了予定の1年前のことでした。Tumbar博士とは面識もなかったのですが、彼女の研究内容に惚れ込み、祈るような気持ちでメールを送りました。同年6月、幸いにも面接に呼ばれ、その場で採用の返事をいただきました。


コーネル大学キャンパス

Tumbar博士から「あなたを雇うためのグラントは十分あるが、今後のことは分からないし、なによりキャリアアップのためには、自分でフェローシップを獲得した方がよい。」との助言を受け、HFSPを含む国内外4つのフェローシップに応募しました。そのうち3つから内定をいただきましたが、期間の最も長いHFSPの助成を受けることに決めました。

HFSPは、研究分野の転向が、応募の条件になっています。私の場合は、生殖細胞の発生から、皮膚幹細胞の研究へと分野を変えました。科学の世界では、いかに人と違うことをするかが肝です。新しいことを始めるのは大変ですが、長い目で見ると、自分の強みになると思い、学生時代とは異なる研究分野を選びました。

Q2.HFSPのメリット

私の考えるHFSPのメリットとしては、次のことが挙げられます。①国際的な知名度が高いので、海外でも業績として評価されやすい。HFSPを持っているポスドクというと、一目置かれることも多い。②助成期間が3年間と、ポスドクのフェローシップとしては最長である。支給額も、他のフェローシップと比較して高額である。③応募時に、研究テーマへの制約が少ないこと。基礎研究への理解があること。④生活費に加え、研究費・旅費が支給されること。これらは使途の制約が少なく、使いやすい。⑤ライフイベントへの理解があること。例えば、出産・育児などで、一時的に研究を中断する必要が生じた場合、その間もフェローシップが支給され、さらに助成期間の延長も可能である。⑥米国でも研究費の獲得は厳しい状況が続いている。特にポスドクは不安定な立場にあるので、自分でフェローシップを獲得することで、ある日突然解雇される心配がなくなる。

Q3.申請までの準備

面接の際、自分の研究テーマについて、Tumbar博士と話し合い、大まかな研究の方向性を決めました。その後、メールでのやりとりを通じ、細かい内容を詰めていきました。

新しい研究テーマは、自分が今までやってきたこととは異なる分野であったため、申請書を書き始めると、自分の知識不足が露呈しました。そこで、まずは文献を探しては読み・・・と地道に勉強することから始めました。またHFSPに申請した時点では、英語のライティング能力にも不安がありましたが、分かりやすい言葉で、論理的に書くことを心がけました。Tumbar博士に、恐る恐るドラフトを見せると、意外にも「非常によく書けている」とお褒めの言葉をいただき、心からうれしかったのを覚えています。

申請の準備から完成までおよそ2ヶ月。時間に余裕を持って取り組めたので、自分で満足する形まで申請書を練り上げることができたと思います。

Q4.海外の研究経験で得られたこと


初年度ラボパーティー

ポスドク時代に行った研究は、最初は良い結果が出なくて苦労しましたが、辛抱強く2年3年と実験を進めていくうちに、面白いことが分かりはじめ、最終的には良い形でまとめられたと自負しています。海外でのポスドク経験は、私にとって、研究面ではもちろん、自分の人生においても、非常にプラスになったと思いますし、視野が広がり、価値観が変わりました。特に、自分と異なるバックグラウンドを持つ人達とディスカッションしながら、新しいものを生み出していく過程は、自分にとって貴重な経験となりました。

日本のサイエンスは、個性があって面白い反面、日本人研究者の英語能力は決して高いとは言えず、それ故に損をしている部分も大きいように感じます。英語圏で5年間ポスドクをしたことで、自身の英語は格段に上達しました。特に論文の書き方に関しては学ぶことが多かったです。

Q5.今後のHFSPへの応募者に向けたメッセージ

HFSPに応募した当時、私は英語に全く自信がなく、「ダメもと」という気持ちでチャレンジしました。申請書が英語であることに躊躇してしまう人も多いと思いますが、本質は、研究への熱意、アイデア、計画性、論理的思考と、分かりやすく人に伝える能力だと思いますので、まずは書いてみてください。研究開始前に計画を練っておくことは、たとえ採択されなかったとしても、必ずプラスになりますし、自分の力をのばす絶好のチャンスでもあります。

若手研究者にとっては厳しい時代が続いており、海外に出ることで、日本人研究者とのつながりが薄くなり、将来ポジションを得るのが難しくなるのではないかとの懸念の声もあります。私も留学中の5年間は、日本人研究者と関わる機会が減り、帰国できるか心配していました。しかし実際には、きちんと研究成果が出せている限り、帰る先に困ることは意外と少ない印象です。海外でポスドクをやることには賛否両論ありますが、個人的には、留学で得られるものは本当に大きいと思いますし、迷うようならぜひトライしてほしいです。

最終更新日 平成30年5月25日