受賞者年度 | 2016年度 |
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受賞者氏名 | 苅郷 友美 |
受賞研究テーマ | The role of oxytocin and vasopressin in the neural circuit of aggressive behaviors |
留学前所属 | 東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻 岡良隆研究室(日本) |
留学先所属 | カルフォルニア工科大学生物・生物工学科 David Anderson研究室(米国) |
留学期間 | 2015年度~2019年度(現在) |
国際事業課 HFSPフェローシップ受賞者からのメッセージ(2016年度受賞 苅郷 友美さん)
HFSPフェローシップ受賞者からのメッセージ
HFSPフェローシップ受賞者から、これから応募を検討している若手研究者の方に向けてメッセージをいただいています。英語での申請書作成や、ホスト研究者とのコミュニケーションについて工夫した点など、是非参考にしてください。
異なる分野・手法から得られる経験がいかにキャリアに役立つかを意識した申請書を作成
Q1.HFSPに応募した理由
私は、動物が様々な外界要因に適応して体内環境や行動を変化させる柔軟性に興味を持っています。博士課程では、季節に応じてホルモンを介して繁殖状態を制御するメカニズムの神経内分泌的研究を小型魚類を用いて行いました。博士課程が終わりに近づくと、次のステップとしてより神経回路に踏み込んだ研究を行いたいと思い、多くのin vivo研究手法やツールが利用可能なマウスを用いて様々な行動を調節する神経回路の研究を行いたいと考えるようになりました。
博士課程時に国際学会やワークショップに参加した経験から、英語能力の向上やネットワークを広げるため、そして何より新しい世界を見てみたいという好奇心からポスドクとして留学をしたいと考えておりました。留学経験のある先輩方に留学について相談したところ、HFSPの制度を教えていただきました。HFSPは研究分野を変えた留学を推奨しており、自分の目的に合致したフェローシップであることから応募に至りました。
Q2.HFSPのメリット
日本人が留学するために国内で応募できる助成金、特に数年単位の長期的な支援を受けることができるものは、残念ながら非常に限られています。留学先の国で助成金に応募することもできますが、米国では市民権を持っていることが条件になっているもの、あるいは特定の病気をターゲットにした研究に限られたものが多くありました。その点、HFSPは3年間という比較的長い受給期間であり、生命科学分野の基礎研究を含めた幅広い分野を対象にしています。給付内容は現地での生活費に加え、旅費・研究費として使える自由度が高い予算がついており、また着任にあたる引っ越し費用や家族手当といった他の助成金には見られない手厚いサポートもあります。これらのおかげで、関連する分野の本を購入したり自分が興味のある分野の学会に勉強しに行ったりと、財源の心配をすることなく3年間のびのびと研究することができました。
さらに、私自身が日本にいた時にはHFSPのことを全く知りませんでしたが、留学を始めてみてHFSPは国際的に優れたフェローシップとしてとして広く認知されていることを実感しました。海外でも業績として評価されやすい点は、今後のキャリアを考える上で大きなメリットです。
Q3.申請までの準備
現在の受け入れ研究室は、本能的情動行動を調節する神経回路解析を自由行動下マウスで行うパイオニア的研究室の一つで、まさに私がポスドクとして取り組みたいと思っていたことができる研究室でした。教授のことは論文を通して知っていたのみで全く面識はありませんでしたが、博士課程修了目前の頃、教授が来日して講演をされることを知り、メールを送って直接会って話をする機会が持つことができました。その後研究アイディアに関して数回のメールのやり取りの後、教授より採用するとの連絡をいただきました。
私は実はHFSPに2回応募しており、留学開始前に応募した1回目には採択には至りませんでした。応募前には教授とざっくりとした相談をしただけでしっかりと内容を詰めることができず、今申請書を見返してみると現実味のない内容になっていたように思います。留学開始後に応募した2回目は、教授と何度もテーマについて相談し、研究室内の同僚にも意見をもらったり英語の添削をしてもらうことで、十分な準備ができました。さらに、私が一貫して持っている研究興味の連続性を強調しつつ、これまでと異なる分野で異なる実験動物・手法を用いることで得られる経験がいかに今後のキャリアに役立つか、という点を意識して申請書を作成しました。
Q4.海外の研究経験で得られたこと
留学2年目時の研究室集合写真
カルフォルニア工科大学は小規模な大学でありながらも、様々な国からの留学生が多くいる多様性に富んだ大学です。研究室にも色々な国からやって来た異なるバックグラウンドを持つポスドクや大学院生が所属しています。さらに、研究室内にはマウスとハエを用いる2つのグループがあり、動物種が違えども共通する神経メカニズムの解明のため活発に議論を交わしており、非常に刺激的な環境でありました。
カルフォルニア工科大学の神経科学分野には、生物科学的側面だけでなく、ツール開発・数理解析等、多角的に神経科学を研究する研究室があり、研究科内でのセミナー等を通して幅広い分野に触れることができました。研究室間の距離が近く、学内外で気軽に共同研究が始まるというのも特徴的で、異なる分野の研究室との共同研究を通して多くのことを学びました。
このように多様な人々との繋がりができたのは、留学で得た最も大きな財産の一つです。彼らとの交流は研究だけにとどまらず、世界のさまざまな文化や考え方に触れられたことは、私の視野を広げた人生における貴重な経験です。
Q5.今後のHFSPへの応募者に向けたメッセージ
留学をしたいと考えているのであれば、HFSPフェローシップに積極的に応募することをお勧めします。自分で予算を持っているのは、財政状況等ボスの都合に左右されず研究を進めることができるという点で大きな強みです。英語での申請書作成はハードルが高いと思われる方も多いかと思いますが、英語で研究内容を論理的に説明する過程は論文執筆等で研究者として避けては通れない道であり、良いトレーニングの機会です。受け入れ研究室の教授や同僚とよく内容を相談して、英語が得意な人に添削をお願いするのが良いと思います。
留学は大きな変化です。私自身留学を開始する前には、研究する国・言語に加え、モデル動物や研究手法を変えて競争が激しい分野に飛び込むことに不安を抱いていました。しかし実際に留学をスタートさせてみると、研究室内外の多くの人々の助けを得て、もがきながらも楽しい日々であり、留学することで得た経験は代えがたいものであったと思います。
迷っているのであれば、まずは踏み出してみてください。そこから面白い出会いが始まることもあると思います。
最終更新日 令和元年6月28日