医薬品研究開発課 創薬ガイドブック 神経疾患Q&Aナレッジ集
モダリティに限定した回答があったときのみ、独立した回答を作成しました。モダリティについてことわりがない場合は、全モダリティ共通の回答をご参照下さい。
- ① 創薬標的分子の探索・検証、バイオマーカー、スクリーニング
- ② 非臨床試験(薬効薬理、安全性、代謝・薬物動態等)
- ③ 構造最適化、DDS、製造
- ④ 研究計画
- ⑤ 臨床開発(医師主導治験)
- ⑥ 知財取得
① 創薬標的分子の探索・検証、バイオマーカー、スクリーニング
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Q
創薬コンセプトが妥当なことを示すためには?全モダリティ共通の回答
ATPP
need to have
1.創薬コンセプトを明確にすること。すなわち、今後検討する既存治療法のアンメットメディカルニーズが何(薬効、副作用、服薬コンプライアンス)であるのかを明確にし、それをin vitro, in vivoでどのように評価して有用性を示すのか、を明示すること。
2.創薬コンセプトが妥当なことに加え、医薬品開発のためには適応疾患の狙うべきターゲット患者群に対して既に有望な医薬品があるか否か、でも開発をするか否かを決める要因になる。標的分子
need to have
1.「標的分子がどのようにして病態形成を起こすのか」の、詳細な機序の解明が必要。メカニズム解明はヒトで起こりうる機序であるかを確認するためにも重要で、最適な治療標的の選択や臨床でのバイオマーカー候補選定の根拠/判断材料のもとになる。その上で、実際にシーズ候補化合物を用いて妥当性のある病態モデル(疾患モデル動物)(創薬コンセプトが妥当なことを示すためには?/ モデル動物参照)で有効性(発症後投与で病態の進行抑制、運動機能改善、生存率の向上)が示されれば、非常に有望なシーズと言える。
nice to have
1.標的分子を探索する場合、薬効が見込まれ、かつできる限り副作用が最小限にできるターゲットを選択する。例えばシグナル伝達系が疾患にresponsibleな場合、その中で分流するシグナルに与える影響が少ないターゲットを選択する。もちろん薬効が出ることが担保されている必要はある。作用機序
need to have
1.特に新規メカニズムの場合、①標的分子との相互作用➡ ②細胞内の現象の変化➡ ③細胞の表現型変化➡ ④個体レベルでの薬効、が矛盾なく繋がっているかを念入りに検証することが必要である。それらの活性データに加えて、有効濃度の観点から①~④が矛盾なく説明できることが重要である。複数の化合物についてそれらの活性の強弱と薬効の強弱が相関していると更に望ましい。モデル動物
need to have
1.妥当性のあるモデル動物での薬効がヒト患者に対して外挿可能であることのロジックをわかりやすく示す必要がある。モデル動物の妥当性は、表面妥当性(face validity、モデル動物が神経疾患における症状と似た行動異常を示すこと)と、構成妥当性(construct validity、モデル動物が神経疾患の原因に基づいて作製されていること)で判断される。もう一つの妥当性を判断する予測妥当性(predictive validity、モデル動物の行動異常が神経疾患における効果的な治療法によって改善すること)は、多くの神経疾患で有効な治療法がないため、必ずしも必須ではない。モデル動物での評価は、病理組織学的改善,機能改善を検証することおよび用量依存性、血中/脳内曝露と薬効との相関性を検証することである。
2.創薬コンセプトとして、投与タイミングと薬効の観点から、発症前からの投与でしか効果が無いのか(予防効果)、病状がかなり進行しても薬効が期待できるのか(治療効果)も重要なポイントである。神経変性疾患のような進行性疾患では、進行期に対する治療的効果を示す必要がある。
*人への外挿性が高い病態動物モデルが必ず存在するわけではないことにも注意が必要。その場合、ヒトオルガノイドなど、他の手段を考慮すること。
nice to have
1.複数の病態モデル間で有効性に差がある場合には、その理由についての考察と、臨床では有効な患者層を特定できる可能性を示すことが求められる。 -
Q
創薬コンセプトが妥当なことを示すためには?核酸医薬に対する回答
A非臨床POC
need to have
1.細胞レベルの活性と体内動態に優れる複数の候補核酸(siRNA、ASO等)を創製し、非臨床POM試験を行う必要がある。 (1種類しか候補核酸を作らなかった課題で、類似配列のオフターゲット毒性がでて、別配列を作り直したケースがある。)
nice to have
1.非臨床POM試験の結果をもとに、さらに必要な化合物の最適化(活性向上、体内動態改善等)を行ったリード核酸を創生する。このリード核酸を用いて標的遺伝子のノックダウンや標的タンパクの発現抑制等、その核酸の作用強度と病態改善効果との関連性を確認する必要がある。モデル動物
nice to have
1.ヒトと動物の標的mRNAの配列比較で、同じ核酸が使えない場合がある。標的分子をヒトに変換した遺伝子改変マウスを作製しておくことが薬効比較ではベストシナリオ。
2.霊長類では多くの神経変性疾患において病態モデルを構築することが極めて難しいため、標的ターゲットに介入を加えた場合の薬効、POCはできる限り齧歯類の病態モデル(translatableなモデルでなくても)で取っておく必要がある。薬物動態
need to have
1.リード核酸の組織内濃度がin vitroで有効な濃度に達していること、かつ用量依存性があること(PK/PD相関)、またノックダウン等、その核酸の作用が病態改善効果につながっていることを確認できる必要がある。
2.ミトコンドリアで発現する遺伝子をターゲットとする場合は細胞内での分布の確認も必要である。
nice to have
1.核酸医薬のスクリーニングで劇的な活性・特異性向上の期待ができない場合、効率的なdeliveryと安定した動態の実現を模索する必要がある。 -
Q
創薬コンセプトが妥当なことを示すためには?ドラッグリポジショニングに関する回答
Aドラッグリポジショニング
need to have
1.第一に、既存薬、他疾患で開発中の薬剤、もしくは有害事象以外の理由で中止した化合物(被検薬)の長期投与で想定する薬効が見られるかが、最も重要である。その際に、被検薬の脳内の濃度(薬効がフリー体濃度かトータル濃度のどちらに相関するかは、ケースバイケースとなる)がin vitroで有効な濃度に達していること、かつ用量依存性があること(PK/PD相関)も併せて確認が必要である。さらに、その被検薬の標的分子、メカニズムで薬効を発揮しているのか、従来提唱されているメカニズムとは異なり、全く別のメカニズムで薬効を発揮しているのか確認が必要である。後者の場合、その被検薬がベストな化合物なのか、従来提唱されているメカニズムが臨床で問題にならないか、さらに確認する必要がある。第二に、有効性を示す被検薬の投与量が、臨床で投与可能な(副作用の出ない)量であることが重要である。特にヒトは副作用への感受性が高いので、どれだけ用量(血中濃度)を下げられるか、低濃度で薬効を出せるかが、重要な評価ポイントになる。
2.ドラッグリポジショニングを考える場合、別の疾患に対して標的分子が研究開発されているという事実は重視する必要がある(企業は、特に気にする)。それらに関する前臨床、臨床の情報を最大限集め、例えばその医薬品の適応疾患と神経疾患それぞれにおける標的分子経路の病態生理的意義、先行医薬品の有効性・安全性の差異(があるかどうか)、別の経路の関与の可能性、などについて回答・見解が求められる。
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Q
先行品や他のモダリティの薬に対する優位性を示すためには?全モダリティ共通の回答
A作用機序
need to have
1.標的分子にかかわる複数経路・複数モダリティの阻害剤創製が着想される場合、これらのどこを狙うのが最もクリニカルベネフィットが高いのかの判断が重要である。製薬会社では、各ステップの阻害剤に関する標的難易度、競合状況なども踏まえ、阻害剤創製の可否が判断される。非臨床POC
need to have
1.対象疾患に先行品・競合品がある場合、妥当性のある病態モデル(創薬コンセプトが妥当なことを示すためには?/ モデル動物参照)での非臨床POC試験で明確な優位性(優位性が薬効の場合)を示すことが重要である。非臨床POC試験実施のためには、対象疾患を選定する必要がある。
*妥当な病態動物モデルが無い場合はnice to haveとする。ただし、オルガノイドなどin vitroの系でPOMを確認しても作用機序が異なる場合、最終的な個体レベルの薬効はどちらが優れるか不明である。 -
Q
先行品や他のモダリティの薬に対する優位性を示すためには?低分子に対する回答
A優位性
need to have
1.先行品との比較は、化合物入手が可能であれば、少なくともin vitroでの薬効、ADME評価により、優位性を示すことは必須。妥当な病態動物モデルがあれば、その系で優位性を示すこと。
以下微妙に異なる回答を得たが、非侵襲的であることは患者の苦痛の低減、安全性につながる。
2.第一義的に薬効もしくは安全性における優位性を示すことが必要。それ以外の優位性として利便性における優位性があることは望ましいが、こちらは二次的なもので一義的な優位性があれば必須ではない。
3.抗体や核酸医薬と比較すると、経口投与が可能な薬剤を創出できれば非侵襲的に投与可能となり差別化が容易になる。遺伝子治療を含めても製造原価が安く、薬効が同等であれば、優位性を示す必要はない。(嚥下機能に障害があったり、意識がはっきりしていない場合は経口投与は厳しくなるため、どんな場合でも優位性があるわけではない。)
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Q
独創性の高い治療薬であることを示すためには?全モダリティ共通の回答
A優位性
need to have
1.新規標的分子、メカニズムで、妥当性のある病態モデルにおいて治療効果を示す、進行を止められる、あるいは遅らせる効果を示す。
*人への外挿性が高い病態動物モデルが必ず存在するわけではないことにも注意が必要。その場合、ヒトオルガノイドなど、他の手段を考慮すること。
2.既知標的、メカニズムの場合には、高い有効性が期待できる患者選択法を保有していることや、既存標的に作用することで問題となる副作用がある場合、その回避方法を有している。DDS
nice to have
1.非侵襲的に被検薬を標的組織、細胞へ送達できる技術を保有している。 -
Q
独創性の高い治療薬であることを示すためには?核酸医薬に対する回答
② 非臨床試験(薬効薬理、安全性、代謝・薬物動態等)
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Q
安全性の高い薬を作るためには?全モダリティ共通の回答
A安全性
need to have
1.標的に対する特異性を担保した(可能な限り複数骨格の)化合物を用いて、有効濃度よりも十分に高い濃度において細胞レベル・個体レベルで問題となる表現型が出ないことを確認する必要がある。まず、最適化の元になる化合物(HTSで見いだした化合物など)について、他の蛋白質には作用しないこと、培養細胞レベルで有害な現象を引き起こさないことを、早い段階で確認する必要がある。
2.神経疾患の場合、長期的な投与が必要となるため、患者が服薬を負担に感じない副作用の少ない有効な薬物を見出すことが、臨床試験を完遂するためには必要である。また、脳室内投与などは患者への負担を考えるとできるだけ避ける方が好ましい。
nice to have
1.疾患動物モデルで非臨床POCを取得した上で、安全性、体内動態、物性にクリティカルな問題がないか、実際の臨床において現実的な用法用量が想定できるか、充分な安全性マージン(セラピュティックウィンドウ)が確保できるか、などが評価のポイントとなる。
2.一般的に医薬品と標的タンパク質は"分子認識"による特異的な結合を介してnMレベルの親和性を示すことで投与用量を下げている。親和性目標設定の際には、現状とヒトの臨床試験を想定した場合の予想投与量と対比させることで、標的タンパク質との親和性をどの程度高めることが必要か見込める。
3.製薬企業においては、開発候補化合物について、個体レベルで、オンターゲット(標的から予測可能な毒性)とオフターゲット(想定外の毒性)両方のリスク評価を実施する。評価に用いる動物の種差にも留意する。 -
Q
安全性の高い薬を作るためには?核酸医薬に対する回答
A安全性
need to have
1.動物では配列の違いからオンターゲットの副作用が検出できない場合は、iPSC由来細胞などヒト由来の細胞を用いたin vitroでの評価が、より重要になる。もしくは対象動物の配列に対するツール核酸を準備し、オンターゲット作用を検証する。(選択された核酸の相同性に起因するオフターゲット作用は適切なヒト細胞を選択した上で、transcriptome解析を行いcriticalな遺伝子に作用していないか確認しておく。)
2.配列非特異的な、核酸の物性面のオフターゲットイベントの解析であれば、どの種を用いても問題ない。
3.臨床投与ルートでのin vivo有効性と安全性評価による安全マージン(セラピュティックウィンドウ)の確保が必要である。
nice to have
1.非臨床安全性試験は、核酸医薬の場合でも、通常げっ歯類1種、非げっ歯類1種を用いた評価が治験届出までに求められる。非げっ歯類としてはサルが汎用される。令和2年の厚労省の「核酸医薬品の非臨床安全性評価に関するガイドラインについて」(https://www.pmda.go.jp/files/000234603.pdf)を参照のこと。(核酸医薬品の非臨床毒性試験で、相同配列選択の観点からイヌを選択することはない。これまでの開発品はすべてサルを用いている。)
2.治療標的そのもの(オンターゲット)や治療標的以外の遺伝子配列との相同性に起因する副作用が予測され、ヒトとの配列類似性の観点で、サルでしか評価できない場合は、サルを用いる必要性がある。
3.げっ歯類とサルでは髄腔内投与の場合でも毒性のみならず、薬効の出方が大きく違う。また標的以外のRNAに関するヒトとの配列類似性の観点からも、ヒトに近いサルで検証を行っておくことは重要である。薬物動態
nice to have
1.核酸医薬(特に長期の薬効発現が重要となる疾患)では毒性を示さない用量で薬効を持続させることが最大のポイントになる。このため、効率的なdeliveryと安定した動態の実現が見通せる必要がある。
③ 構造最適化、DDS、製造
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Q
治験をスムーズに進めるためには?全モダリティ共通の回答
A優位性
nice to have
1.モダリティは製剤化(安定性)、製造コスト、特異性などの観点から選択する。新規モダリティは開発ハードルが高いため、選択する場合には前記のような観点における優位性を示す必要がある。 -
Q
治験をスムーズに進めるためには?低分子に対する回答
A優位性
need to have
1.一般に製造コストの点では低分子にアドバンデージがある。また、細胞治療と比較すると、製造段階での規格設定は優位となる。
④ 研究計画
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Q
企業導出を進めるために、企業がアカデミアに期待していることは?全モダリティ共通の回答
ATPP
need to have
1.TPP(Target Product Profile)の作成。TPPに、対象疾患(治療ライン)、創薬コンセプト、MOA、非臨床データ(薬効・薬物動態・安全性)、用法・用量(含む剤型情報)、市場性、競合品情報、費用対効果、知財戦略、タイムラインなどを明らかになっている範囲で盛り込む事で、現在の研究状況の立ち位置と、今後の研究計画および目標値などが明確化できる。またアカデミアサイドが主体的に実施する事と企業側に求めたい事も明確になる。標的疾患
nice to have
標的疾患の選定は企業によってアプローチが異なるため、両論併記した。
1.臨床ニーズは高いが臨床試験実施面でのハードルが高く難しい疾患(投薬期間や症例数が多く必要で高額の)よりも、投薬期間が短かったり効果のアウトプットが明確な他のtranslationが比較的容易な疾患への適応の方が向いている場合があり、メカニズムの理論構築(メカニズムの理論構築はアカデミアが担うべきneed to have)に力を入れて、他の疾患で基礎技術として導出を考えるのも一手である。臨床ニーズが高い疾患は、後で効能追加として適応を取得する方法が良い場合がある。
2.疾患の発症メカニズムに着目し、疾患全体の軽減を狙うのではなく、一部の機能障害の改善のみに着目し、それが上手くいった場合には、他疾患での同様の機能障害への適用へ拡大していくという戦略もある。
3.複数疾患での適応可能性が考えられる場合の戦略は、企業ごとに異なる。非臨床で評価しやすいオルガノイドや病態モデルでいずれかの疾患でのコンセプトが確認できていれば臨床試験に入ることができる。まず臨床に入れることが大事。ヒトに投与可能な状態になっていれば、そこから他疾患へ拡げていくハードルはそれほど高くない。
4.適応症の提案、臨床試験における患者のリクルートに関する提案、どのくらいの人数で臨床試験を実施すれば効果が期待されそうかなど、ある程度、具体性(提案)が有ると、関心を持ちやすい。
*アカデミアで治療したいと考えて研究している疾患の実用化のハードルが高いと考えられる場合は、AMEDへの相談が望ましい。ハードルが高さの原因により、対応策は変わる。モデル動物
nice to have
1.病態モデルを用い、機能改善作用を検証したデータがある方が好ましい。さらに予防的投与ではなく、治療的投与で薬効がでていることが求められる。優位性
nice to have
1.医薬品開発のためには競合品やその疾患、狙うべきターゲット患者群に対して既に有望な医薬品があるか否か、でも開発をするか否かを決める要因になる。研究開発しようとしている医薬品のクリニカルベネフィットを考えることが肝要である。企業導出
need to have
1.企業側は、物質の作用機序、病態改善機序、特異性、選択性、安全性(遺伝毒性、一般毒性)、薬物動態特性、治療薬ニーズ/ポジショニング、対象患者数/想定市場規模/競合状況、自社方針適合性等を踏まえて総合的に協業形態を含めて、ご相談にのる。(上記がすべてそろっている必要はない。)
2.新規の物質を獲得する場合、モダリティの選択、特許戦略などアカデミアだけでは難しいため、アカデミアでは標的分子の妥当性検証、対象疾患を十分に精査頂いた上で、企業に紹介するのがよい。臨床サンプルを用いた検証実験は、臨床予見性の観点で意義がある。共同研究開始前に成果の取り扱いを十分協議すること。
3.臨床試料評価に基づく考察を含め、サイエンス面で用途の面をアカデミアにて、作用物質の最適化を企業にて、特許の出願形態は要相談、という建付けは一つの例として想定してほしい。
nice to have
1.新しい治療アプローチを提案する場合は、ヒトへの応用に道筋をつけるデータを取得してほしい。
2.製薬企業の研究では、神経変性と表現型の改善につながらない時点で研究中止となる可能性が高い。一方、アカデミアであればメカニズム解析など、さらなる研究を実施できる。製薬企業のできない研究で、新たな可能性を見いだしてほしい。
3.企業で実施困難と判断される理由は化合物が取得できないという場合がままある。創薬コンセプトに加えて、化合物取得実現性を感じさせる評価系がセットで提示された場合にアセットの魅力がアップする。知財戦略
need to have
1.既存特許との差別化や特許技術の専有性情報を明確に示してほしい。
2.スクリーニングを企業と共同で実施した場合、知財も共願となることが多い。このため企業との共同研究や技術導出をする場合、あらかじめ企業と権利関係を明確にしておく必要がある。
3.既存の企業・アカデミアの共同研究の枠組みに、新たな製薬企業とのコラボレーションを行う場合、どのように権利関係を住み分けられるのかといった点が明確に整理されないと、新たな共同研究を開始することは難しい。
⑤ 臨床開発(医師主導治験)
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Q
治験をスムーズに進めるためには?全モダリティ共通の回答
ATPP
nice to have
1.初回申請時の適応症(適応層)選択が、できるだけ明確な効果有無判定に向けて極めて重要で、プロジェクトの成否を決定づける重要課題になる。治療への満足度、疾患の重篤度、臨床POC取得の容易さ、適切な動物モデルの有無など、さまざまな角度から慎重に検討する必要がある。
2.少数例であったとしても、有効性を実証するためには家族歴のある患者層など絞り込んだセグメント(家族性)で変異に基づく発症とその治療の関係を明確にした上で、患者を拡大していく「急がば回れ」戦法が最終的に有効となる場合がある。また、変異を導入した細胞系・動物系の実験効果を基に臨床試験をデザインすることが有効である。モデル動物
nice to have
1.手間はかかるが、複数の動物モデルで薬効を試し、高い有効性が得られるモデルから疾患を選定することもあり得る。バイオマーカー
nice to have
1.神経変性性疾患など難病の場合、診断バイオマーカーが欠如していても、薬効を明確に評価できるのであれば、臨床試験のデザインは可能である。海外の臨床KOLの意見 としても、必ずバイオマーカーが必要ということではない。認知症などでは臨床スコアなどを指標とする。
2.一方、作用機序から一部の患者層にのみ有効であると考えられる等の場合には、患者層別化マーカー、薬効予測マーカー、画像診断マーカー(PETなど)などがないと、臨床試験のデザインが組みづらい。
3.ウェアラブルデバイスや画像AI判定など、ちょっとした表情や行動の変化を指標として組み合わせることで、診断の精度、診断の時期を改善させることも工夫されつつある。
4.利用可能な公開医療ビッグデータ(ゲノム情報、マルチオッミクスデータやPHR、RWDなどの臨床情報ほか)の中には患者データも蓄えられており、これらを活用した解析から診断バイオマーカーの同定や早期診断につながる手がかりを得ることが可能な場合もある。
5.in vitro 実験と動物モデルと臨床材料を組み合わせてtranslatableな血中もしくはCSF surrogate のバイオマーカーを見つけて、これで臨床試験をしていく道筋は可能である。 -
Q
治験をスムーズに進めるためには?核酸医薬に対する回答
A標的疾患
nice to have
1.まず動物モデルでの標的validationを行い、有望な適応疾患の選定を行う。高優先の疾患に適した投与方法(髄腔内投与など)も確立する必要がある。
*人への外挿性が高い病態動物モデルが必ず存在するわけではないことにも注意が必要。その場合、ヒトオルガノイドなど、他の手段を考慮すること。構造最適化
nice to have
1.核酸医薬のように新技術を強みとするモダリティの場合、競合品がない疾患よりも、あえて完成度が不十分な先行品・競合品がある疾患を選定し、その先行品をリファレンスとしてそれに対する優位性を示していくというストラテジーもある。 -
Q
治験をスムーズに進めるためには?ドラッグリポジショニングに関する回答
Aドラッグリポジショニング
nice to have
1.ドラッグリポジショニングの場合、モデル動物での薬理効果の検証ができ、標的分子制御が対象疾患治療に有効なことを説明できる scientific rationaleが策定できれば、安全性の担保を取ったうえで、できるだけ早く特定臨床研究や医師主導の臨床試験を実施して、ヒトでの効果を見極めるといった計画が立てられるとよい。モデル動物での臨床予測性が低い場合でも、臨床試験で薬効を確認するという方法もありうるが、非常に難しい試験になると予測される。
⑥ 知財取得
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Q
知財を取得する際に考慮すべきことは?全モダリティ共通の回答
A知財戦略
need to have
1.出願国は日本、US、欧州、中国を中心に考えれば良いが、特許であれば当初はPCT出願としておくことが肝要。これにより一定期間は出願国の追加も可能となる。出願後出来るだけ早期に企業の知財部門と協議を進められると良い。
2.アカデミアのみで実用化までの開発ができない場合には、共同開発者への権利譲渡などが想定される。アカデミアが保護すべき知財もある可能性があり、必ず専門家に相談すること。
3.論文投稿した場合、論文が受理され、原稿が公開されてしまったら公知なので特許は取れない。出版まで原稿が絶対に開示されないジャーナルに限定するか、出願するタイミングを早める必要がある。
4.出願済み特許で今後の研究が邪魔されないようにするという観点も必要。
5.対象疾患以外への適用可能性検討も必要である。(特許出願時に範囲をどこまで広げてクレームを立てるかを判断するために必要)。
nice to have
1.need to haveの1は出願国の範囲としてミニマムリクワイアメント。市場予測性を考慮し、市場の大きい国を優先することが標準だが、もう少し範囲を広める場合には、ブラジル、ロシア、インド、カナダ、韓国、オーストラリア、メキシコ、台湾が候補になる。
2.それぞれのモダリティや標的分子の特性に応じた出願戦略を精緻に検討することが価値最大化に重要。PCT出願後早期に経験値の高い共同開発先の企業知財部門との協議すること。
3.物質に主眼をおいて初回特許出願し、その後は、ライフサイクルマネジメント戦略として、状況や特徴を加味した内容で出願するという戦略もある。
4.知財戦略は競合状況見合いで決まり、外部要因が大きい。また、技術特許と物質特許では自ずと考え方も異なる。技術的な特許は協業開始までに取得した方が協業の条件が良くなるのが一般的。一方企業視点では、物質特許は協業以降の化合物展開が予想される場合には必ずしも必要ではない。先々の競合でより良い化合物を得た場合に、先行特許がより良い化合物の知財化の障害になる可能性もある。 -
Q
知財を取得する際に考慮すべきことは?ドラッグリポジショニングに関する回答
A知財戦略
need to have
1.ドラッグリポジショニングの場合、企業へのコンタクトのタイミングは、以下のように様々な意見がある。まずはアカデミアの知財部門に相談してほしい。
a. 用途特許を出願してから当該企業にコンタクトをとるのがよい。(企業と話し共同研究に発展した段階で、一旦その用途特許を取り下げるのも選択肢)。
b. 開発企業へは、動物モデルでの薬理効果が確認でき、その用途特許出願の準備を始める段階で、コンタクトするのがよい。
c. 現時点で一度、該当企業に相談してみるのも良い(特に知財の出願については、企業ごとにポリシーが異なる場合が多いため)。
d. 既存薬の物質特許が10年で消滅するのであれば、必ずしもコンタクトする必要はない。当該企業が対象疾患(あるいは疾患領域)の治療に興味がある場合は、用途特許出願後にコンタクトするのが良い。
2.ドラッグリポジショニングの場合、早めに既存薬(モデル動物とクロスしなければ同等品)で薬効を確認し、用途特許を出願してください。