創薬企画・評価課 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の研究開発課題について

中華人民共和国で令和元年12月に初めて報告され、その流行が世界各国へ拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、速やかな研究開発が必要な状況にあります。
この社会的緊急性に鑑み、政府全体の取組の一部として、AMEDは以下の通り研究開発課題を支援することを決定しました。

(1)新型コロナウイルス、COVID-19に関する基礎研究

各研究開発課題の進捗・関連情報については「COVID-19関連研究開発課題情報―新型コロナウイルス、COVID-19に関する基礎研究―」をご確認ください。

開始年度 研究開発代表者 所属機関・役職 研究開発課題名 研究概要
R2 佐藤 佳 東京大学 医科学研究所 准教授 システムウイルス学による新型コロナウイルス感染症等新興感染症の病原性発現および異種間伝播の原理の解析 SARS-CoVとSARS-CoV-2の病原性の差異が、ORF3bとORF6によるIFNを阻害活性の低下・欠失に起因する可能性、および、コウモリからヒトへの異種間伝播の際に、これらの遺伝子がヒトのIFN 阻害活性を新規に獲得した可能性を、ウイルス学実験・細胞生物学実験によって実証する。また、分子系統学・分子進化学的解析から得られた知見をフィードバックすることにより、SARS関連コロナウイルスの病原性発現、および、異種間伝播の原理を解明する。
R2 杉山 真也 国立国際医療研究センター 研究所ゲノム医科学プロジェクト 副プロジェクト長 COVID-19の予後予測因子の開発とその臨床応用に向けた研究 COVID-19の病態は急激に悪化することが知られており、軽症者と重症者を事前に区別することが困難である。本研究では、感染初期の段階で血液検査等によりその区別を可能とする分子マーカーの開発を行う。コホートを2つ用意し、スクリーニングコホートでは因子の抽出を行い、バリデーションコホートでその検証を実施する。
R2 竹内 一郎 横浜市立大学 医学研究科  教授 COVID-19患者層別化による医療資源の最適分配とアウトカム向上 本研究では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の病態把握と、重症化マーカーの探索および絞り込みを行う。具体的な方法は、①患者血清中サイトカイン動態解析および末梢血免疫細胞フェノタイプ解析、ならびに②次世代プロテオーム解析による血清/血漿タンパク質プロファイル解析である。患者の層別化や疾病の活動性モニタリングに資する基礎情報の解明と検査方法の開発を行い、患者の状態の迅速判断と適切な治療の早期提供を可能にすることで、医療資源の効率的な配分による医療体制維持とアウトカム向上を目指す。
R2 山吉 誠也 東京大学 医科学研究所 特任准教授 SARS-CoV-2感染に対する抗体応答と血清疫学調査 ウイルスへの感染歴を特定するのに有用な血清疫学的手法を用い、不顕性感染者を含めたSARS-CoV-2感染の日本国内での広がり、つまり日本におけるSARS-CoV-2流行の全体像を把握する。また、上記の血清疫学調査の結果を正しく解釈するために、SARS-CoV-2に感染した人における抗体応答の解析も進めていく。

(2)診断法開発

各研究開発課題の進捗・関連情報については「COVID-19関連研究開発課題情報―診断薬関連―」をご確認ください。

開始年度 研究開発代表者 所属機関・役職 研究開発課題名 研究概要
R1 鈴木 忠樹 国立感染症研究所 感染病理部 部長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断法開発に資する研究 中国湖北省武漢市を発端とする新型コロナウイルス感染症は、最初の患者の発見からわずか2ヶ月程度の間に感染者数4万名、死者1000人を超える大規模な流行となっており、世界的に迅速かつ有効な対策が求められている。しかしながら、このウイルスの性状や病原性などの解析は未だ十分でなく、ウイルスの病原体検査系に関しても医療現場で使用可能な迅速診断系や血清抗体診断法は未だに確立されておらず、COVID-19疑い患者の病原体検査は極めて困難な状況である。本研究では、COVID-19の迅速診断キット開発に関する基盤技術の開発とプロトタイプキットの開発、血清抗体診断系の開発を行う。COVID-19は世界中に蔓延する可能性が危惧されており、この感染症の実態を把握し適切な医療を提供するためにも、診断法開発は緊急に進める必要がある。
R2 磯部 正治 富山大学 学術研究部工学系 教授 SARS-CoV-2の臨床現場即時検査法開発に関する研究 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による呼吸器感染症であり、世界中で深刻な広がりと多くの人命を奪っている。本感染症の制御を困難にしている最大の理由は、COVID-19の無症状期間が数日~12日間もあり、この間にもウイルスを排出することで、発症前に多くの人々に感染を広げてしまう点にある。また、感染者の8割が軽症でありながらウイルスを排出することも、ウイルス拡散の大きな原因となっている。現在行われているPCR検査は、特定の検査機関でしか診断が行えないため、被験者検体の輸送や検査に、数日間の時間を要している。そこで、被験者からのウイルス排出の有無を臨床現場で直ちに調べられる、迅速かつ低コストの診断法開発が強く求められている。 本研究では、SARS-CoV-2抗原の異なるエピトープに対する抗体を多数取得し、ウイルス抗原捕捉用オリゴクローナル抗体を開発すると共に、化学発光法によるウイルス抗原検出のためのオリゴクローナル抗体を開発する。得られた抗体を用いて、検体抽出液全量からウイルス抗原を簡便に捕捉する方法を新規に開発するとともに、高感度かつ簡便なSARS-CoV-2診断用化学発光検出法の開発を行い臨床現場における迅速なウイルス検出に寄与する。
R2 鵜澤 尊規 理化学研究所 開拓研究本部 専任研究員 生細胞内のウイルスを可視化するBEFペプチドの開発 新興感染症が確認された際、その感染症を知るための第一歩として、症状がある部位の生体サンプルを免疫組織化学染色して観察する方法が挙げられる。現状使われている免疫組織化学染色法はステップ数が多いために最適化すべき要素が多いことから、特に知見が乏しい新興感染症に用いるには十分な経験を有する研究者が細心の注意を払う必要がある。そこで本申請研究では、「ターゲットに結合すると蛍光を発するようになるbinding enhanced fluorogenicペプチド(BEFペプチド)」を用いることで、専門技術者でなくとも簡便に生細胞内のウイルスを可視化できる系の構築を目指す。
R2 丸山 厚 東京工業大学 生命理工学院  教授 感染症関連RNAに対するカスタマイズ性に富む迅速・簡便検出法開発 即時対応可能でかつ簡便で迅速な新興感染性病原体検出法は、水際対策、感染経路探索、治療状態の把握など感染症対策の根底に位置し、その一段の進展や革新が不可欠かつ喫緊な課題である。抗体の樹立を必要とするイムノアッセイ法に比較して、病原体の核酸ベースの検出手法は、PCRやLAMP法などが、より即時対応可能な手法として発展し利用されてきた。しかし、コロナウィルスやインフルエンザウィルスのように、病原体がRNAウィルスの場合、RNA単離、逆転写(RT)反応を含む多段な操作と多くの試薬が必要となり、検査が煩雑・長期化する。また、必要となるプライマー核酸、プローブ核酸の設計と最適化に時間と労力が必要となり、即時対応性でも不十分であることを、昨今のCOVID-19の事例が明確にしている。したがって、新たな原理に基づく手法を構築することが急務である。 本課題では、新規病原体にも容易にデザインできる即時対応性があり、簡便で特別な装置や技能を必要とせず高選択的・高感度に検出でき、かつ、常温保存・オンサイト検出にも展開可能な検出手法として、人工シャペロン強化型アロステリック核酸酵素法を発展させる。
R2 吉見 一人 東京大学 医科学研究所 講師 新規ゲノム編集技術を用いた新興感染症に対する高精度な即時診断法の開発 本研究開発の目的は、新規ゲノム編集技術CRISPR-Cas3を応用して迅速、簡単、高精度な即時ウイルス診断法を開発して実用化につなげることである。第一に、CONAN法を屋外や臨床現場で使用できるように改良し、機器を使用しない迅速かつ簡単なウイルス診断法を開発する。第二に、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス、臨床サンプル等を用いて、本法が新興感染症の即時ウイルス診断法として利用できることを実証する。第三に、新型ウイルス発生時に迅速に対応できるよう、大規模CRISPR-Cas3タンパク質生産基盤を構築する。

(3)治療法開発

各研究開発課題の進捗・関連情報については「COVID-19関連研究開発課題情報―治療薬関連―」をご確認ください。

開始年度 研究開発代表者 所属機関・役職 研究開発課題名 研究概要
R1 竹田 誠 国立感染症研究所 ウイルス 第三部 部長 新型コロナウイルスの増殖機構の理解と治療剤開発に関する研究 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)について、複数のアプローチにより新型コロナウイルス感染増殖を阻害する化合物を同定する。感染機構の解明ならびに構造生物学的データを基盤として、既存承認薬ライブラリーその他化合物ライブラリーのスクリーニングなどを通じて、ウイルス感染を抑制する感染阻害分子の探索を行う。また、ハイスループットモノクローナル抗体単離技術を用いて、SARS-CoV-2に対するヒト型治療用モノクローナル抗体を迅速に樹立する。本研究ではこれらの治療薬の創製を目的とする。現在、感染機構の解析、高純度タンパク精製と構造解析、低分子化合物ライブラリースクリーニング、治療用抗体標的組換え抗原作製とこれら抗原を活用したヒトモノクローナル抗体の研究開発、既存薬のスクリーニング、ウイルス増殖モニタリングシステム用リアルタイムRT-PCR系の開発と天然化合物ライブラリーのスクリーニング、等が進行中である。
R2 米満 吉和 九州大学 薬学研究院 教授 多種新興感染症に即応可能かつ治療ワクチン効果を持つoff-the-shelf型細胞製剤(GAIA-102)の開発 汎用性・即応性(備蓄可能)があり、かつ治療ワクチン機能を有するGAIA-102 (全く新しいNK(natural killer)細胞に類似したフェノタイプの細胞群) を、COVID-19を始めとした各種の新興感染症用細胞製剤として開発するため、コロナウイルスと類似の構造を持ち、げっ歯類に対して致死性の肺炎を惹起するセンダイウイルス(SeV)を中心に、GAIA-102のウイルス感染細胞に対する応答性を明らかにし、その挙動(傷害活性、サイトカイン産生など後述)に基づき臨床上の使用方法の最適化を行う。
R2 奥野 隆行 塩野義製薬株式会社 研究企画部 プロジェクトマネジャー 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する低分子治療薬開発 令和1年12月に中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はその後世界的に拡大し、令和2年6月29日8時時点で確認された感染者は10,072,616人(うち本邦18,366人)、死者は500,306人(うち本邦972人)にまで達している(COVID-19 Dashboard by CSSE at Johns Hopkins)。COVID-19に対する治療薬として、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害する静脈内注射薬レムデシビルが令和2年5月7日に緊急承認されたが、その有効性や安全性については引き続き評価中であり、更なる治療薬の開発が求められている。本研究では、北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターとの共同研究において見出された新型コロナウイルス株に対する有望な化合物群をはじめ、後続の化合物に対する安全性等の探索的な評価を順次実施している。今後は国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所とも連携し、最終候補化合物の選抜に向けた高次探索試験の準備ならびに、その後の非臨床試験、臨床試験を見据えた製法検討等を最速で進めることで、2020年度内の臨床試験開始を目指す。
R2 北野 光昭 株式会社カネカ バイオテクノロジー研究所 基盤・探索研究グループリーダー 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療用ウイルス中和抗体の開発 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因の感染性であるCOVID-19疾患は、2019年12月下旬に中国で確認されて以来、ウイルスのゲノム配列変異(進化)を経ながら世界の公衆衛生と経済に重大な脅威をもたらしている。これまでにSARS-CoV-2ゲノムに対する変異は、Sタンパク質、RNAポリメラーゼ、RNAプライマーゼなどに確認されており、ウイルスの伝染性と病原性の変化に関連している可能性がある。さらに近い将来、このような変異が蓄積した変異体の出現による大流行が懸念される。このウイルス進化に対応した治療薬開発という問題に対し、本課題では、SARS-CoV-2の種々の変異体に対して効果の期待できる広域スペクトルをもった抗ウイルス抗体(中和抗体)の開発を目指している本課題では、ウイルスが細胞に感染する際に必須のSタンパク質を抗体の標的分子とし、抗体取得法としては、申請者ら独自の抗体取得法、“体外免疫によるヒト血液中B細胞からの抗体取得法*)”を用いる。本抗体取得法は、ヒト血液中に存在する抗原特異的なB細胞を体外で増幅/濃縮する技術であり、Sタンパク質のような膜タンパク質に対する抗体の取得に特化した方法である。さらに、血液中に目的とするB細胞がわずかにしか含まれない場合でも、抗原特異的B細胞を取りこぼすことなく増幅し、多様な抗体遺伝子が取得できる。その中から、ウイルス変異体の配列解析やSタンパク質の分子動力学解析による知見も加えて、広域スペクトル抗ウイルス抗体を選抜する計画である。*)抗体取得技術の開発の一部は、AMEDの課題番号JP16im0110422の支援を受けて行われた。
R2 岡村 健太郎 ヒューマンライフコード株式会社 生産技術開発部  責任者 COVID-19に伴う急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対する臍帯由来間葉系細胞(IMSUT-CORD)輸注療法 本研究は、SARS-CoV-2感染に起因するARDSを発症した患者に対して、臍帯由来間葉系細胞(Mesenchymal stromal cells; MSC; 製品コードHLC-001)を多施設共同第Ⅰ相企業治験として投与し、その安全性を確認することを主目的とし、副次的に有効性も確認する。臍帯由来MSCは、骨髄由来MSCと比較して有意に高い増殖力と炎症や組織障害部位へ遊走・集積し、抗炎症効果と組織修復能を発揮する特徴を有す。本研究では、臍帯由来MSCを用いて、COVID-19 重症例に見られる過剰炎症を軽減し、肺の組織障害を修復することで急性呼吸窮迫症候群(ARDS)による呼吸不全を改善し、COVID-19の重症化予防及び致死率の低減に寄与することを目指す。本治験製品であるHLC-001は、AMED「同種臍帯由来MSCを用いた重症急性GVHDに対する医師主導治験(代表 長村登紀子)」にてFirst in Humanでの安全性が確認された製造方法で、東京大学医科学研究所附属病院臍帯血・臍帯バンク(東大医科研臍帯血・臍帯バンク)にて製造する。国内のARDSに対する細胞製剤の開発は、骨髄由来MSC細胞が先行している。しかしながら、新型コロナウイルス感染の広がりと共に、医療関連品の海外依存の高さが日本の医療体制の弱みとして顕在化しており、輸入に依存せず国内で原材料が調達できる国産の臍帯由来MSCを用いた本開発の社会的意義は極めて大きいと考える。
R2 島崎 茂樹 ノーベルファーマ株式会社 研究開発本部 本部長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を対象としたrhGM-CSFの臨床第Ⅱ/Ⅲ相試験の実施 サルグラモスチムは、酵母で産生される組換え顆粒球単球コロニー刺激因子(rhGM-CSF)である。既に米国ではPartner Therapeutics社(以下、「Partner社」)より商品名Leukine®(静注)として急性骨髄性白血病の導入化学療法後の好中球の回復時間短縮による重篤な感染症の抑制等の複数の適応で製造販売されている。国内ではLeukine®は未承認薬であるが、新潟大学の中田光教授らにより、自己免疫性肺胞蛋白症を対象として、Leukine®(吸入)投与によるプラセボ対照第Ⅲ相試験(医師主導治験)が実施され、有効性と安全性が確認されている。GM-CSFは従来知られる多能性造血幹細胞を好中球、単球/マクロファージ、樹状細胞への分化・増加を促進するだけでなく、種々の研究により、ウイルス肺感染時にM1マクロファージの活性化を抑え、M2マクロファージ優位の状態へと誘導することが確認されており、COVID-19に対する新たな治療戦略としての適応が期待される。実際に、現在、ベルギーで実施されているサルグラモスチム吸入の臨床試験の中間解析の結果、サルグラモスチムを吸入した患者で、標準治療群と比較して肺胞気-動脈血酸素分圧較差の改善が示唆されている。本研究は、rhGM-CSFのCOVID-19患者に対する効果の検証を目的とする。そのために、先ず国内の専門医の指導の下で適切な治験実施計画を策定し、PMDAとの事前面談/対面助言を通し最終化を行う。その後、実際に国内医療機関の協力の下にCOVID-19患者に対する本剤の有効性及び安全性を確認する。
R2 塚原 克平 エーザイ株式会社 筑波研究所 執行役 チーフデータオフィサー(兼)筑波研究所長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を阻止する治療薬の開発 Toll-Like Receptor 4(TLR4)経路とフラクタルカイン(FKN)経路は、SARS-CoV-2感染下の肺における炎症の誘導と増幅に深く関与し、急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome: ARDS)や多臓器不全につながるとされるサイトカインストームの発生に直結している可能性が考えられる。そこで、TLR4の活性化を抑制するエリトラン(TLR4選択的アンタゴニスト)とFKN経路を阻害するE6011(抗フラクタルカイン抗体)による治療がCOVID-19の重症化に対して効果的な治療選択肢となることを明らかにするために、以下の研究を行う。エリトランおよびE6011に関して、ARDSマウスモデルやSARS-CoV-2感染非臨床動物モデルおよびSARS-CoV-2感染患者由来臨床サンプル(血液および肺胞洗浄液)を用いて、両治療薬候補による治療コンセプトを検証し、適切な対象患者の選定に有用なバイオマーカーを探索する。
R2 進藤 有一郎 名古屋大学 医学部附属病院 呼吸器内科 助教 軽度呼吸不全を呈するCOVID-19肺炎患者に対するファビピラビル/ステロイド併用療法の多施設共同第II相試験 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行が社会を脅かしており、その有効な治療開発は喫緊の課題である。本研究(臨床第Ⅱ相試験)では、発症早期の軽度呼吸不全を呈するCOVID-19肺炎を対象として、人工呼吸管理を要するまたは気管挿管基準を満たすか否かを指標に、抗ウイルス薬であるファビピラビルに全身ステロイド投与を併用することについての有効性と安全性を検討する。本研究では抗ウイルス薬として本邦で有望視されているファビピラビル(RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤)を使用し、メチルプレドニゾロンによる全身ステロイド療法を併用する。COVID-19の80%程度は軽症であるが、その他の症例は肺炎などのため入院を必要とする(NEJM 2020, JAMA 2020)。入院症例の中で、低酸素血症を呈する肺炎症例の約40%は数日程度の経過で比較的急速に悪化し人工呼吸管理が必要となり、その約半数が致死的な経過をたどると報告されている(JAMA Intern Med 2020)。また現在複数の抗ウイルス薬が開発・検証試験中であるが、抗ウイルス療法のみでは病状悪化を阻止できないケースがある。COVID-19肺炎の重症化における重要な機序は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染により引き起こされるCytokine stormから肺損傷が起きることである。本研究は、抗ウイルス+ステロイド併用療法によりCOVID-19肺炎例における呼吸不全進行阻止、気管挿管・人工呼吸管理の回避効果を評価する目的に立案した。この気管挿管・人工呼吸管理回避ができれば、COVID-19患者がさらに増加した際に、人工呼吸器使用症例を減少させることで医療資源を節減、医療崩壊を阻止するとともに患者予後を改善させることが可能となる。
R2 満屋 裕明 国立国際医療研究センター研究所 難治性ウイルス感染症研部 研究所長・部長 Main proteaseを標的とするCOVID-19治療薬の開発研究 COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は2002年に流行したSARS-CoVと遺伝的に近く、そのゲノム構造から、複製機序もSARSと類似している。代表者はCOVID-19のパンデミックが始まった2月上旬よりCOVID-19の治療薬開発に着手、SARS-CoVのメインプロテアーゼ (Mpro)とSARS-CoV-2のMproのアミノ酸配列が高度に保存され構造学的にも類似していることに注目した。そこでSARS-CoVにMpro阻害活性を発揮することが既知の化合物を選択、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を評価し、現時点ですでに化合物GRL-0920 (EC50  = 2.8 µM)を含め複数の化合物を見出している。薬剤の評価系には種々のin vitro実験系に加え、COVID-19ハムスターモデルを用いたin vivo実験系を用いて臨床的有効性を迅速に評価する。本研究ではGRL-0920およびGRL-0920をリード化合物としてより強力な活性を発揮する化合物を新規に合成・展開、抗ウイルス活性の評価および動物モデルを用いた前臨床試験を実施し、早期の企業導出、第2波、第3波および今後出現する可能性が十分考えられる新型コロナウイルスに有効な薬剤の開発を最終目途とする。
R2 花木 秀明 北里大学 大村智記念研究所・感染制御研究センター センター長・部長 大村天然化合物エバーメクチンを基盤としたCOVID-19治療薬の創製 イベルメクチン(以下IVM)の治療薬としての期待は非常に高いものの、COVID-19治療薬としての構造活性相関の解明、更なる最適化が大きな課題である。このような背景のもと、当研究グループにおいても、独自の発酵技術と効率的な誘導化法を組み合わせることで、エバーメクチン(以下AVM)誘導体合成、構造活性相関研究を長きに亘り行ってきた。例えば、AVM糖鎖部分の4”位ケトンに対し、Horner-Emmons反応を鍵に効率的に種々のアルキリデン誘導体を合成し、新型コロナウイルス感染阻害活性における構造活性相関研究の有用な知見を得ると共にIVMを超える新規誘導体を見出せる可能性がある(Bioorg. Med. Chem. Lett. 2003, 13, 3943–3946. PatentNo.:US6,605, 595B1,US204/087519A1)。さらに、4”位のアルコールに対しロジウムカルベノイドを作用させることで、複雑な構造を有するAVMに対し極めて温和な条件かつ選択的にエーテル化を行う手法を確立し、導入したエステルを足掛かりに様々な誘導体を合成(Tetrahedron Lett. 2004, 45, 2507–2509. Patent No.: US 7,250.402 B2, Patent No.: US 7,144.866 B2)後に、新型コロナウイルス感染阻害活性を評価することでIVMを超える新規誘導体を見出せる可能性がある(Bioorg. Med. Chem. Lett. 2004, 14, 4135–4135)。また、複数の水酸基存在下でも位置選択的なアシル化を可能とする光学活性ピリジン誘導体である川端触媒を利用したAVM類へのアシル化を報告し、通常の反応条件では得ることの出来ない誘導体も合成している(Chem. Pharm. Bull. 2016, 64, 856–864)。一方、IVMとグルタミン酸作動性クロライドイオンチャネル(GluCl)の親和性の低下が示唆されていることから、C25位に親水基を導入することでGluClへの相互作用を制御し、より選択的に新型コロナウイルス感染阻害活性を示す合成計画も可能である。具体的な誘導化方法としては、幅広い誘導化を簡便かつ効率的に行うため、官能基選択性が高く、温和な条件化で進行するクリック反応に着目し、18種の新規トリアゾール誘導体を合成した(Tetrahedron Lett. 2017, 58, 3119–3124)。さらにクリック反応を利用してAVMおよびIVM糖鎖4”位のアシル基を経由したアジド誘導体から簡便に新規トリアゾール誘導体の合成法を確立している(Heterocycles, 2020, 101, 116-125)。以上のような独自の手法によってこれまでに700化合物以上のAVM誘導体を合成している。したがって、独自の発酵技術と自動合成技術を導入することで、新型コロナウイルスin vitroでの活性評価、in vivo感染モデル系での治療効果を検証すれば、高活性エバーメクチン誘導体の安全性及び薬物動態の評価後に開発候補化合物をGLP試験に供することが可能になると考えている。また、IVMのような化学構造が複雑な中分子化合物の開発は容易でない。したがって、COVID-19治療薬としてIVMの研究開発動向や競合状況については情報が無く、新規性の高いCOVID-19治療薬開発の基礎研究であると期待できる。
R2 山岡 邦宏 北里大学 医学部 膠原病・感染内科学 教授 COVID-19対策北里プロジェクト; イベルメクチンのCOVID-19に対する適応追加を目指した医師主導治験 イベルメクチンは放線菌の発酵産物より単離されたアベルメクチン類から誘導された化合物であり、30年以上抗寄生虫薬として全世界で使用されてきた。既知の抗ウイルス作用に加えてin vitroでのSARS-CoV-2増殖抑制効果が公表されたが、現時点では、ヒトへのイベルメクチン投与によりSARS-CoV-2増殖抑制効果を示した研究は報告されていない。イベルメクチンの使用でSARS-CoV-2を抑制でき、COVID-19における重症度進展抑制や早期回復を示すことができれば、イベルメクチンは軽症の治療、重症化の予防として使用できる可能性がある。本研究は、COVID-19患者を対象にイベルメクチンのSARS-CoV-2増殖抑制効果および安全性を明らかにすることを目的とする。COVID-19に対する適応追加を目指した研究であり、医師主導治験として実施する。
R2 前田 賢次 国立国際医療研究センター研究所 難治性ウイルス感染症研究部 室長 COVID-19治療としての回復者血漿療法の基盤整備 本研究開発課題では研究代表者の施設で既に準備・施行段階にあるCOVID-19回復者血漿輸血治療に関する基礎的解析を進め、より効果的かつ安全な血漿療法の確立による重症COVID-19患者の救命につなげることを目的とする。SARS-CoV-2に感染・発症した患者の血液中には回復期になるとSARS-CoV-2に対する抗体(抗SARS-CoV-2抗体)が産生され、この抗体の一部にはウイルスの感染を抑制する作用(中和活性)がある。そこで回復した患者の血清を別のCOVID-19患者に投与(輸血)することによってその患者のウイルスの増殖を抑止できると期待される。一方で、血漿提供者の候補となる回復患者の血液中に含まれる抗体量(抗体価)には症例により大きな差があることを我々は既に明らかにしている。そこで本研究では、回復期にあるCOVID-19患者から得られた血漿について抗体価や中和活性などについて詳細な解析を行い、血漿療法における臨床的治療効果の発現に必要な血漿の条件と提供者の選定を効率的に進めるシステムの構築を行う。さらにこれらの研究から得られた中和抗体の解析はワクチン開発への有用な情報となることが期待される。
R2 津島 健司 国際医療福祉大学 医学部医学科 呼吸器内科学 主任教授、副院長(国際医療福祉大学成田病院) 既存薬多剤併用を用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化制御 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2020年5月9日現在感染者380万人・死亡者27万人を超す地球規模の非常事態を惹起している新興感染症である.本研究は,これまでに世界中で有効の可能性が報告されている複数の既存薬を組み合わせて併用することで,重症化制御・死亡率減少につながる治療法を開発することを目的とする.特例承認された注射薬のレムデシビルは重症例を主体に,近日中に承認が見込まれるファビピラビル(アビガン)は軽症・中等症例に対してベースの薬剤とする.ドラッグリポジショニング手法を用いた複数薬剤を組み合わせた研究を3段階に分けて行い,有効性及び有害事象の発現率について,単剤群 vs. 多剤併用群間で迅速に比較し検証する.初めに胸部X線ないし胸部CT画像において軽症から中等症レベルの肺炎の所見・徴候を有するCOVID-19 陽性患者を対象に,シクレソニド、カモスタットの2剤併用療法をおこない、プラセボと酸素飽和度の改善、胸部画像所見の軽快及びSARS-CoV-2 の陰性化までに要する時間を主要評価項目として,アダプティブ単盲検ランダム化多施設共同比較試験で検証する。次に、胸部X線ないし胸部CT画像において軽症から中等症レベルの肺炎の所見・徴候を有するCOVID-19 陽性患者を対象に,ファビピラビルにシクレソニド,カモスタットを追加した時の治療効果が追加しない場合と比べて上回ることを,酸素飽和度の改善、胸部画像所見の軽快及びSARS-CoV-2 の陰性化までに要する時間を主要評価項目として,アダプティブ単盲検ランダム化多施設共同比較試験で検証する。最後に、胸部X線ないし胸部CT画像において重症レベルの肺炎の所見・徴候を有するCOVID-19 陽性患者を対象に,ファビピラビルにシクレソニド,カモスタットを追加した時の治療効果レムデシビル単剤と比べて上回ることを,酸素飽和度の改善、胸部画像所見の軽快及びSARS-CoV-2 の陰性化までに要する時間を主要評価項目として,アダプティブ単盲検ランダム化多施設共同比較試験で検証する。特に、内服治療のみでどのレベルの肺炎合併例においても奏効する場合、点滴治療と異なり、医療従事者の患者との接触を減らせるメリットが得られるため、そこから得られる研究結果は有効である。
R2 石坂 幸人 国立国際医療研究センター 研究所.難治性疾患研究部 研究所副所長・部長 新型コロナウイルス感染回復者の抗体エピトープ情報を活用した COVID-19標的グロブリン製剤開発 COVID-19感染回復者の血漿を用いた輸注療法は、有力な治療として注目され、申請者らが所属する国立国際医療研究センター(NCGM)でも、感染回復患者血漿を用いた臨床トライアルが進行中である。一方、大手製薬企業によるグロブリン製剤の開発も始まり、将来的にはグロブリン療法が一般の病院でも行われるものと期待されるが、COVID-19スパイク蛋白質(S蛋白質)の抗体の一部が、Antibody-dependent enhancement of viral entry (ADE) 活性を示すことやエピトープのアミノ酸置換で中和活性が失われる可能性が報告されている。そこで、ADE活性フリーの抗S蛋白質抗体からなるグロブリン製剤の開発が望まれる。本研究開発課題では、① 日本人症例のS蛋白質標的中和抗体エピトープを網羅的に同定し、② 複数の抗体エピトープからなるMAP (Multiple antigen peptide)ビーズを用いて、COVID-19特異的グロブリンの精製法を確立する。
R2 岡本 徹 大阪大学
微生物病研究所
教授
COVID-19撲滅を目指した既存薬からなる配合剤および核小体に着目した新薬の開発とそれらの安全性検証 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の治療薬を開発するためには、優れたモデル細胞の開発が不可欠です。我々の研究グループは、ヒト気管支オルガノイドの作製技術を開発し、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)研究に応用できるヒト気管支オルガノイドの作製技術を開発しました。
ヒト気管支オルガノイドは市販の凍結ヒト気管支上皮細胞から作製されます。作製したヒト気管支オルガノイドは、気管支を構成する重要な4つの細胞:基底細胞、ゴブレット細胞、クラブ細胞、線毛細胞から構成されていることを確認しました。また、ヒト気管支オルガノイドは SARS-CoV-2 感染に必須のタンパク質(ACE2とTMPRSS2)を高発現していました。
この作製したヒト気管支オルガノイドをSARS-CoV-2に感染させたところ、細胞内でのウイルスゲノムの複製、培養上清中への子孫ウイルスの放出、ピクノーシス細胞の出現、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の発現、細胞毒性、I 型インターフェロン関連遺伝子の緩やかな発現上昇が確認されました。このような「ミニ臓器」を用いて、既存のCOVID-19に対する治療薬候補の安全性の検討や、我々のグループでこれまでに開発した核小体を標的とする新しい薬による抗ウイルス効果を検討し、副作用の予測や安全な治療薬の処方方法を検討します。
R2 安友 康二 徳島大学
大学院医歯薬学研究部
教授
新型コロナウイルス感染症に対する抗体カクテル療法の開発 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全世界で猖獗を極め、ワクチンや治療法の開発が急務となっている。日本の現状は、比較的感染を抑制できているもののこれから感染者が増加することも想定されてる。COVID-19に対する創薬候補は複数あるが、その中でCOVID-19に対する抗体医薬は感染者を治療できることに加えて、医療従事者や感染者と濃厚接触したハイリスクの方に対する即効性のある予防薬としても用いることができ、COVID-19に対する医療という観点でワクチンや他の治療薬にはない役割をもたらしうると考えられる。以上の背景から、本研究では、相乗的な抗ウイルス効果と今後発生することが予測されるウイルス変異に対抗するために、複数の抗体を混合したCOVID-19に対する抗体カクテル療法を開発することを目指す。
R2 本庶 佑 京都大学
高等研究院 特別教授
COVID-19の重症化を阻止し反復パンデミックを防止する免疫制御治療薬の開発 COVID-19では宿主免疫反応の異常が極めて重要な病態となっている。サイトカインストームや血中のT細胞の減少等、免疫不全を呈することがCOVID-19の重症化において鍵となると考えられる例もあり、非常に混乱した状況の中、有効な治療法を短期間で開発するためには、COVID-19免疫病態の詳細な解析と重篤化メカニズム解明が不可欠である。本研究では、免疫応答、宿主因子解析、治療法開発に通暁した専門家を集結し、免疫制御薬を開発しCOVID-19の反復パンデミックを防止する。COVID-19感染症における免疫応答異常の解明から、PD-1阻害剤に加えBCG等による免疫賦活化薬剤療法やIL6阻害薬等による免疫抑制療法の臨床応用まで一気通貫に研究可能な体制を構築する。IL-6阻害薬トシリズマブ等による免疫抑制剤を投与されたCOVID-19症例等の検体を収集し、その病態を網羅的に解析すると共に発症者と非発症者のDNA分析からCOVID-19発症に関わる遺伝子を同定する。これらの知見に基づき、既知及び未知化合物から獲得免疫と自然免疫の各々に対する免疫賦活薬と免疫制御薬の有効性を確認し、薬剤開発を行う。
R2 張替 秀郎 東北大学 教授 ⼤学院医学系研究科
東北⼤学病院臨床研究推進センター⻑
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)肺炎患者に対するPAI-1阻害薬TM5614の有効性および安全性を検討する探索的第II相医師主導治験 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的な蔓延は、社会的に喫緊の課題です。COVID-19の約80%は軽症で経過しますが、特に高齢者や基礎疾患を持つ患者などでは重症化し、重症の肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に至ります。重症肺炎の患者では、人工呼吸器や人工肺(ECMO)の治療が必要となりますが、パンデミックで急速な患者増に対して人工呼吸器や人工肺が世界的に不足しており、医療崩壊を招いている地域もでてきています。また、隔離のための病床が不足していることから、軽症例の自宅待機の措置がとられてきましたが、発病当初は軽症であっても一部、急速に重症化する患者の存在が問題になっています。このように、肺炎の重症化を防ぐ治療薬の開発は、患者の延命のみならず、医療現場の負担軽減、医療資源の有効活用の上でも極めて重要です。COVID-19による重症肺炎患者では、炎症、線維化など病変が急速に進行することが特徴ですが、特にフィブリン微小血栓が著明に認められるなど凝固系亢進の特徴的な所見が認められます。我々は、線溶系に関与するプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI)-1を特異的に阻害する低分子化合物を開発し、その安全性GLP非臨床試験、ヒト臨床試験第Ⅰ相を終了して、現在がん領域でのヒト臨床試験第Ⅱ相治験を実施中です。国内外の多くの共同研究を通して、PAI-1阻害薬が、様々な肺疾患モデルや老化モデル肺の気腫、線維化、炎症を改善することを見出しました。中程度から重篤の肺障害を呈するCOVID-19肺炎患者にプラスミノーゲンを投与すると肺障害が速やかに改善されることや、COVID-19成人患者では血中t-PA/PAI-1、d-dimer高値であるなど、血液凝固亢進と死亡率が有意に相関することも国外から報告されています。本研究では、COVID-19肺炎に対するPAI-1阻害薬の有効性および安全性を評価するために、国内の大学病院(東北大学、京都大学、東海大学など)で多施設共同での第Ⅱ相医師主導治験を実施します。国内の治験と並行して、米国(Northwestern University)、トルコ(Istanbul Medeniyet University)でも同薬剤、同様のプロトコールで医師主導治験を開始する予定であり(本研究外)、これらの結果を総合的に評価し、次相の治験に繋げ、世界的にも緊急の課題であるCOVID-19の治療薬開発に貢献すべく、早期での実用化を目指します。
R2 神谷 亘 群馬大学
大学院医学系研究科
教授
肺胞細胞増殖および重症化抑制を目指した超多重ガイドRNA発現ゲノム編集アデノベクターとプロテアーゼ阻害剤の併用による抗COVID-19療法の戦略的開発 新型肺炎(COVID-19)は世界の死者が430万人を超える中、科学に立脚した新規治療薬の開発が緊急の課題であり、特に重症化の効果的な抑制が臨床的に極めて重要である。アデノベクターは英国でわずか3ヶ月でワクチンの実用化が開始される等、緊急に作製・実用化できる特徴を持ち、既存技術による創薬への応用も世界的に開始されている。本提案では世界のレベルをはるかに超えた新規アデノベクターにより重症化抑制を主目的としながら、CoVプロテアーゼ阻害を焦点としてアデノベクターと新規阻害剤の両面からSARS-CoV-2の感染増殖を阻止する戦略を我が国最先端の専門家を結集して実行し、日本発の独創的治療薬の早急な開発をめざす。
 研究分担者の中西はアデノベクターの世界的第一人者である斎藤泉博士と共同で、ゲノム編集におけるガイドRNAを8個同時発現するアデノベクターとCas9 nickase高発現ベクターを開発している。このベクターは安全なdouble-nicking法で4個の遺伝子を同時破壊するがん治療用ベクターとして開発され、2つのベクターを混合し共感染させてin vivoで使用できる。一方で斎藤博士は致死的な急性肺損傷治療モデルにおいて増殖因子KGF発現アデノベクターにより肺胞細胞を増殖させ、16匹中11匹(70%)のマウスを生存させることに成功している。本提案ではこの両者を共に搭載する多機能アデノベクターを開発する。このベクターはCoV感染に必須のTMPRSS2遺伝子、重症化経路を担うIL6受容体の遺伝子を破壊しながらKGFを発現する。本ベクターの大きな特徴は、これらの発現を一時的に抑制し肺胞細胞をCoV耐性とし重症化不応とする通常の方法とは異なり、この形質は娘細胞にも受け継がれる結果、この肺胞細胞はCoV存在下で選択的に増殖し優勢となることが期待される。
一方このベクターは更にCoV 3CLプロテアーゼを標的とするsiRNAを2個発現する。プロテアーゼを選択した理由は、SARS-CoV-1およびMERSの治療薬開発の日本の第一人者である分担者の林が世界に先駆けて開発したYH-53を始めとする多数のジペプチド型の3CLプロテアーゼ阻害薬、および分担者今野が開発したSKシリーズの非ペプチド型阻害薬が既に合成されておりin vivo実験が可能なためである。これらの阻害薬はSARS-CoV-2にも有効であることが当然考えられる。アデノベクターによるsiRNA発現とこれらの薬剤が同じ3CLプロテアーゼを標的とすることにより、前者がもたらす酵素の減少と他方がもたらすCoV蛋白切断の阻害は相加的あるいは相乗的効果が期待される。単剤での効果検討も行うが、CoVは他のRNAウイルスの数倍の巨大なゲノム(30kb)を持ち、修復酵素を含めた多数の防御機能遺伝子を持つため、他のウイルスと異なり単剤の作用機作では十分な効果が得られない可能性が考えられる。従って単剤だけでなく作用機序が大きく異なる併用投与の可能性を早期から予想し、日本の技術を結集した治療法の開発を行う。
代表者の神谷は感染研以外で唯一の本格的なSARS研究者であり、集約的薬効評価拠点を構築しこれら独創的創薬の独自進展とその併用療法の可能性を探ることでCOVID-19重症化に対抗する新規治療法確立を目指す。
R2 高折 晃史 京都大学
医学研究科 教授
VHH抗体技術を用いた新規SARS-CoV-2中和抗体の開発 新型コロナウイルスSARS-CoV-2による肺炎症候群であるCOVID-19が全世界で猛威を振るっている。Drug Repositioningを主として治療薬の開発が全世界で急速に進んでおり、本邦で開発されたインフルエンザ薬favipiravirもその一つとして効果が期待されているが、SARS-CoV-2特異的に開発された分子標的療法は未だ存在しない。一方、ワクチン開発も精力的に行われているが、SARS-CoVに対するマウスを用いた実験では、細胞性免疫よりも液性免疫の重要性が明らかにされており(Nature 428:561, 2004, J Immunol 173:4030, 2004)、また、SARS-CoV同様、COVID-19から回復した患者血漿中の抗体の存在より、中和抗体の治療への応用が期待される。
SARS-CoV-2は、SARS-CoV同様、ウイルス膜タンパクSpikeがACE2(angiotensin-converting enzyme 2)を受容体として結合し、ヒト上気道細胞に侵入し増殖する。SARS-CoVに対する中和抗体は、主にSpike内のACE2結合ドメイン(RBD:receptor binding domain)が標的エピトープであり、治療開発への努力が続いている。そのなかで、CR3022などの一部の中和抗体は、RBD中のACE2結合部位と異なる標的エピトープを有し、ACE2の結合阻害することなく感染阻害活性を示す。一方、これらの抗体はSARS-CoV-2のRBDに対しても同様に結合するが、中和活性は示さない。近年、CR3022と同じエピトープを認識するラマVHHが、SARS-CoV-2に対しても中和活性を有し、VHH抗体の優位性が示され、治療への応用が期待される(Cell 181:1, 2020)。
我々はこれまでにアルパカVHH抗体を利用してHIV-1 Envおよび、ヒトCD4、OX40などの白血球抗原に対する特異抗体を作製してきた。本研究ではこのVHH抗体作製技術を基盤としてSARS-CoV-2 Spikeに対するアルパカ抗VHH抗体のライブラリーからそのエンジニアリングにより抗体製剤を作製することを目的とする。HIV-1 Envの抗体作製時と同様に得られたSARS-CoV-2 Spikeに対するVHH抗体ライブラリの配列データを独自の数理モデルを用いてクラスター分類し、クラスターごとのVHHのSpike認識エピトープ・カイネティクス解析・感染中和活性を測定する。これらを組み合わせることでより効率的に中和活性をもつマルチドメイン抗体を作製し、重症COVID-19患者のSARS-CoV-2中和抗体療法の開発を行う。
R2 河本 宏 京都大学 ウイルス・再生医科学研究所教授 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する汎用性T細胞療法の開発 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、汎用性のT細胞製剤を用いた治療法の開発を提案する。ウイルス疾患に対するT細胞輸注療法はごく限られたケースにしか使われて来なかったが、我々が開発した他家移植用のT細胞製剤技術により、それが可能になっている。「抗ウイルス薬」としての汎用性T細胞製剤は、パンデミックに対してこれまでになかったモダリティを提供するものである。本年度は、まずこの戦略がワークすることを示すために、またスピード感を重視して、海外の共同研究者が同定したT細胞レセプター(TCR)を用いた研究を行う。来年以後の発展形としては、本邦で患者から採取されたTCRを用いる体制を整える。ワクチンや抗ウイルス薬などの開発では世界中で熾烈な競争が始まっているが、一方細胞療法を開発する話はほとんど見当たらない。ウイルスを完全に排除するには抗体だけでは不十分で、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)も重要であることはよく知られており、ワクチン開発においてもCTLを誘導できるものが目指されている。申請者らは、T細胞を多能性幹細胞(iPS細胞/ES細胞)から再生する方法を用いて、他家移植用のCTLを量産し、がんの治療に用いるという方法を進めてきた。これまでに、iPS細胞に外来TCR遺伝子を導入し(TCR-iPS細胞法)、そのiPS細胞から高品質なCTLを作製することに成功しており、最近では腎がん患者由来腫瘍組織異種移植モデルマウスで治療効果を示すことを報告した(iScience, 2020)。再生CTLを用いた細胞療法としては我々のグループは世界に対してpriorityを有している。またTCR遺伝子をiPS細胞に導入するという方法(TCR-iPS細胞法)というこの戦略の基本特許とみなせる特許が欧州で成立している(PCT/JP2015/070623)ことも、この戦略における我々の優先性の高さを示している。この方法を、がんの免疫療法を主軸として研究を進めているが、原理的には免疫が関与する疾患に広く応用が可能である。TCR-iPS細胞法の利点は、ウイルス感染症に効果があることが明らかなTCRが同定されたら、それをすぐに組み込むことができるという点、そして量産して即納型T細胞製剤として備蓄しておける事である。今回のようなパンデミック時に、ウイルス特異的TCRを用いた細胞療法に使えることを示したいと考えている。共同研究者のグループではコロナウイルス 特異的TCRの同定が進められている。HLA拘束性の確定までは共同研究者のグループで行われ、TCR遺伝子複数個と、それぞれに抗原提示できるHLAを発現した標的タンパク分子トランスフェクタントが京大に送付される予定である。河本研ではそのTCRを再生CTLに発現させてSARS-CoV-2特異的再生CTLを複数種類作製する。P3実験施設において、特定のHLAクラスI分子発現細胞にSARS-CoV-2を感染させる。感染細胞と、SARS-CoV-2特異的再生CTLを一定時間共培養することにより、再生CTLが有する細胞傷害活性を測定する。
R2 萩原 正敏 京都大学 医学研究科 形態形成機構学教室
教授
新型コロナウイルス感染症 COVID19の病態メカニズム解明と反復パンデミックを防止できる治療薬の開発 新型コロナウイルスSARS-CoV2感染が原因であるCOVID-19は、潜伏期間が1~14日と長いことや体外でもウイルス粒子が感染性を維持することなどが原因となって、ヒトからヒトへの伝播性はきわめて高く、非顕性・軽症感染者からの感染事例も少なくないことから、その制圧は極めて困難である。それゆえ全世界で懸命に、SARS-CoV2に対する予防ワクチンや抗ウイルス薬の開発が試みられているが、COVID-19の病態メカニズムがほとんどわからない現状では、このパンデミックの第2波や第3波から人々を守る効果的な予防法や治療法を見出すことは、困難であると予想される。そこで本研究では、感染者の血液検体ならびに呼吸器など多臓器細胞から、1細胞レベルの網羅的な細胞遺伝子の発現変動を定量的に計測し経時的な病態解析を行うとともに、コロナウイルスの遺伝子改変など種々の解析から、SARS-CoV2の病原性の本態を解明し、効果的な治療薬開発のベースとなる知見を集積して、重症化阻止や感染拡大抑制に繋がるマルチモーダルな治療法の可能性を検討する。また研究代表者が広汎なウイルスの増殖を抑制できる新規抗ウイルス薬として独自に開発してきたFIT039などを用いて、ヒトES細胞・iPS由来の鼻腔上皮/嗅上皮細胞、ならびに、気道上皮細胞/肺胞上皮細胞などのオルガノイド培養系でSARS-CoV2の病原性に対する抗ウイルス効果の評価を行い、効果的に患部に到達させるため吸入薬などを作成し、COVID-19治療薬として実用化することを目指している。
R2 松下 修三 熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター 教授 新型コロナウイルス(SARS-C0V-2)を中和するヒト単クローン抗体の作成 本研究の目的は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)回復期症例の末梢血B細胞から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を強力に中和するヒト単クローン抗体を樹立するところにある。COVID-19の20%は重症化するが、有効性の確立した治療法はない。一方、COVID-19から回復した症例には、SARS-CoV-2を中和する抗体が検出され、このような回復期血漿を用いた治療法の有効性が報告されている(Shen C. et al., JAMA 323: 1582-1589, 2020, Duana K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 117: 9490-9496, 2020)。しかし、回復期症例の血清の量は限られ、多くの症例への応用は困難である。このような状況を踏まえ、我々は、COVID-19回復期症例のB細胞からSARS-CoV-2を中和する抗体遺伝子を単離し、組み換え抗体として大量に生産することにより、中和抗体を用いた重症化抑制の治療法を開発する研究計画を立案した。また、中和抗体の反応エピトープが明らかにできれば、ワクチン候補の評価など、ワクチン開発にも大きな貢献できる。具体的には、以下のようなステップを想定している。
  1.  SARS-CoV-2を強力に中和する抗体が誘導されている症例の同定。
  2. 当該症例の末梢血からB細胞をsingle cell sortingを用いて分離し、重鎖と軽鎖をクローニングして、293T 細胞に再構築し、培養上清中の抗体のSpike蛋白への結合をスクリーニングする。
  3. スクリーニング陽性のクローンに関して、ウイルス中和試験、細胞融合阻止試験などで評価し、中和抗体の反応エピトープを同定する。
  4. 中和抗体関連遺伝子をNGS検索し、重鎖と軽鎖を最適化し、治療用抗体候補を作成する。
  5. 前臨床試験・臨床試験を目指し、共同開発企業をリクルート、臨床試験の企画などを行う。
一方、従来のSARS-CoVの研究で、抗S抗体の中に感染を増強する抗体依存性感染増強活性(antibody dependent enhancement: ADE)が報告されており、抗体やワクチン開発に対して丁寧な解析が求められている(Iwasaki and Yang, Nat. Rev. Immunol.20: 339-341 2020)。我々は、従来の解析に加えて、細胞融合阻止試験や様々な標的細胞を用いた中和試験によって、治療用抗体を慎重に選定する。中和抗体を用いた治療法療に期待される効果は、軽症例の重症化の阻止、重症例の状態の改善に加えて、医療崩壊の引き金になる医療従事者への感染を阻止する予防投与も視野に入る。治療や予防の効果が観察されれば、COVID-19パンデミックを終わらせる切り札となり、その世界へのインパクトは計り知れない。
R2 河岡 義裕 東京大学 医科学研究所
教授
ヒトモノクローナル抗体による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療法の確立 本研究開発では、SARS-CoV-2の増殖を阻害可能なヒトモノクローナル抗体を獲得し、その治療効果を感染動物モデルを用いて評価し、COVID-19に有効な抗体療法の確立を目指す。SARS-CoV-2のS蛋白質は、ウイルスの宿主細胞への侵入に必須な役割を果たす。そのため、S蛋白質の機能を阻害すれば、ウイルスの感染を抑制することができるため、治療用抗体の最適な標的分子である。しかし、抗原性が高いS領域にはアミノ酸変異が比較的導入されやすく、そのため抗原変異が起こることがある。その場合、S蛋白質を認識する抗体は感染阻害活性を失う可能性がある。そこで、アミノ酸配列の保存性が高く、アミノ酸変異が起こりにくい領域を認識するヒトモノクローナル抗体を獲得し、その中からin vivoで感染防御活性を示す治療用抗体の樹立を目指す。アミノ酸変異が起こりにくい領域を標的とすることで、抗体療法が効かないウイルスの出現による治療の無効化を避けることが出来る。
SARS-CoV-2のS蛋白質においてアミノ酸変異による抗原性変化が起こった場合、アミノ酸変異が起こりやすい箇所を認識するヒトモノクローナル抗体はウイルスに結合できなくなり、治療効果が得られなくなる可能性がある。一方、アミノ酸変異が起こりにくい領域を認識するヒトモノクローナル抗体は、抗原性変化が起こっても治療効果を維持出来る。
R2 馬場 昌範 鹿児島大学
ヒトレトロウイルス学共同研究センター
センター長(特任教授)
新型コロナウイルス感染症の治療に有効な新規アモジアキン誘導体の開発 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染による肺炎(COVID-19)の世界的蔓延は人類の存在を脅かす重大な脅威である。SARS-CoV-2感染に対するワクチンや専用の治療薬は現時点で存在せず、これらの一刻も早い開発が渇望されている。それまでの間、別の目的で開発された既存の薬剤の中から、COVID-19の治療に転用しようとする動きがある。しかし、これらの薬剤はSARS-CoV-2に対して「最適化」されている訳ではなく、通常の投与量では効果が不十分なことや、副作用の問題などを解決する必要がある。そこで、本研究では、研究開発代表者がマダニ媒介の致死的ウイルスである重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)とエボラウイルスの増殖を抑制する薬剤として同定し、さらに最近、抗SARS-CoV-2効果を持つことを確認した新規アモジアキン誘導体について、その薬理学的性質を詳細に検討することで、広域スペクトラムを有する新興・再興ウイルス感染症治療薬として臨床開発につなげることを目的とする。本研究では、これまでに選択的なSARS-CoV-2の増殖抑制効果を有することが確認されているアモジアキン誘導体(表1)に加え、さらなる誘導体の合成展開を行い,培養細胞を用いてそれらの抗SARS-CoV-2効果を検証する。同時にマウスを用いた薬物動態および毒性に関する予備試験を実施し、最終的な開発候補化合物の絞り込みを行う。開発候補化合物が決定したら,今後の非臨床試験や臨床試験のために、GMP下での大量合成法や製剤処方の確立、並びに規格・試験法の開発を進めるとともに、試作製造を行う。また,薬物代謝試験及び毒性試験項目については,ヒト臨床試験開始までに必要となる試験項目を特定するため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)との対面助言を実施する。併せて、開発候補化合物の初期の薬物代謝特性を見極めるために,in vitro代謝動態試験を行う。本計画において、CMC(原薬・製剤)開発,薬物代謝特性検討、薬物動態および安全性試験については,主に本研究開発を分担する製薬企業が実施する。これらの研究開発を通じて、好ましい結果が得られた場合には、所定の前臨床試験を経て、数年後には第Ⅰ相臨床試験を開始することを目標とする。表1.新規アモジアキン誘導体の抗SARS-CoV-2効果(未発表データ)
薬剤名 50% 有効濃度(μM) 50% 毒性濃度(μM)
新規アモジアキン誘導体の1例 5.1 ± 1.8 > 40
ファビピラビル > 40 > 40
レムデシビル 1.1 ± 0.5 > 40
50% 有効濃度はSARS-CoV-2の感染による細胞の死滅を50% 抑制する薬剤の濃度.
50% 毒性濃度はウイルスに感染していない細胞の死滅を50% 抑制する薬剤の濃度.
R2 増富 健吉 国立がん研究センター
研究所 がん幹細胞研究分野
分野長
RdRP阻害剤による抗SARS-CoV-2戦略 新型コロナウイルス(以下、SARS-CoV-2)を含むコロナウイルスはC型肝炎ウイルス(HCV)、インフルエンザウイルス、エボラ出血熱ウイルス、ポリオウイルスなどとおなじくRNAをゲノムとして持つRNAウイルスである。これらの「RNAウイルス」に共通する生物学的特徴として、ゲノム複製にRNA依存性RNAポリメラーゼ(以下、RdRPとする)を用いるという特徴があり、いいかえれば、「RdRPはRNAウイルスの種を超えてlife cycleに必須の酵素」である。すなわち、「RdRP阻害は抗RNAウイルス戦略として極めて合理的科学的戦略である」といえる。昨今、報道その他で話題の、「インフルエンザウイルスに対するファビピラビル」や「エボラ出血熱ウイルスに対するレムデシビル」の「SARS-CoV-2への適応拡大」に関する根源的な科学的根拠は前述の如くより、これらの薬剤は、標的ウイルスこそ異なるが、いずれもウイルスRdRPを標的とした薬剤であるという共通点がある。一方、我々がこれまで、研究の中心に見据えてきた、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(human telomerase reverse transcriptase: hTERT)は遺伝学的にも構造学的にもRNAウイルスのRdRPに極めて類似性の高い酵素であることがしられている。我々のグループはhTERTには、RdRP活性があることを世界にさきがけ報告した(Nature, Maida et al, 2009)。さらには、このhTERTのRdRP活性が造腫瘍能の維持に極めて重要な役割を果たしていることを報告してきた(Nature Communications, Yasukawa et al, 2020)。以上の科学的根拠を基に、「RNAウイルスのRdRP阻害剤をreferとして、抗がん戦略に応用可能なRdRP阻害剤の探索を理化学研究所とすすめてきた」。「hTERT-RdRP阻害剤:RKシリーズ」(以下これを、RKシリーズと記載する)はdrug repositioningの概念を利用し、早期に実用化の可能性が大いに期待される薬剤であり、抗SARS-CoV-2ウイルス薬としての開発が十分に見込める薬剤である。本研究計画では、1年以内に抗SARS-CoV-2ウイルス薬としてヒトへの投与が可能かどうかの非臨床的な判断を行うための結果を得ることを目指す。
R2 北村 和雄 宮﨑大学 医学部 内科学講座循環体液制御学分野
教授
COVID-19による機械換気を要する重症肺炎の治療薬開発-Phase IIa試験 世界的にCOVID-19が蔓延しており、約20%の患者は重症化するといわれており、重症患者を救命することは非常に重要な課題である。肺炎が重症化して機械換気が必要となった患者の死亡率は高く、現在研究が進められている抗ウイルス薬だけでは対処できない状況が存在し、世界では既に40万人以上の死亡例が出ている。また、患者数は世界で900万人をこえている。機械換気は、重症呼吸不全の患者に対し、酸素化の維持・換気量の維持・呼吸仕事量 の軽減を目的として行われる。しかしながら、機械換気は呼吸不全の治療として行われるものでありながら、機械換気を続けていると肺傷害が進行し、呼吸不全が 悪化するケースがあることも知られていた。1970~1980年代には動物実験で不適切な換気 設定により肺傷害を生じることが示され、人工呼吸器誘発性肺障害(Ventilator-induced lung injury: VILI)と呼ばれている。肺炎が進行すると内皮細胞のバリアー機能が破壊され、透過性が亢進して組織浮腫や炎症反応が急速に進行し、呼吸不全状態になる。この場合、人工呼吸器による機械換気が必要となるが、これに伴うVILIにより肺の障害がさらに進行して重篤な急性呼吸窮迫症候群(Acute respiratory distress syndrome: ARDS))となり、さらには過剰な炎症反応(サイトカインストーム)に伴う多臓器不全が進行し、死に至る。重症COVID-19肺炎患者では、血漿中の各種炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-2、7、10、G-CSF、MCP-1(MCAF)、MIP-1αなど)の濃度が著増しており、サイトカインストームが発生していると考えられている。これらのサイトカインをターゲットしたいくつかの新規治療薬の開発が進められ、効果があることも報告されているが決定的なものはなく、COVID-19による機械換気を要する重症肺炎の治療薬はアンメットメディカルニーズである。本研究代表者等は、COVID-19肺炎重症化阻止薬となりうる化合物に着目し、臨床試験を計画した。候補薬剤は、基礎研究において疾患モデルで有効性があることが報告されている。また、治験開始に必要な非臨床試験も実施されており、治験薬の確保もできている。本研究ではCOVID-19により機械換気が必要となった重症肺炎患者に対し、候補薬剤を使用することで、患者の重症化を防ぎ、患者の予後改善に貢献できることを証明するPhaseIIa医師主導治験を実施する。候補薬剤の作用機序は、これまでに取り組まれているCOVID-19治療薬の作用機序とは全く異なっており、わが国のアカデミア発のFirst in classの医薬品となることが期待できる。
R2 沢村 達也 信州大学 学術研究院医学系
教授
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化治療薬の開発 SARS-CoV-2感染の多くが不顕性あるいは軽症であるが、一方で軽症から急速に重症化する例や、重篤な例が決して少なくない。その重症化の割合は感染の全貌が不明なため必ずしも明らかではないが、感染者の2割程度と見積もられている。そして、重症例では、凝固能亢進の指標であるD-dimerの高値が観察されるといわれている。実際に、中国の剖検例では、肺小動脈に多数の血栓がみられており、単純な肺炎だけでなく、このような血栓による肺梗塞が急速な呼吸不全の原因である可能性も示唆されている。また、臥床に伴う深部静脈血栓症の多発や脳梗塞、末梢動脈の血栓・塞栓の頻発も認められている。これらの変化が呼吸不全の加速や多臓器不全につながり予後に大きく影響していることが示唆される。そこで本研究では、特に管理が必要となるCOVID-19の重症化に関連した病態を小動物及びカニクイザルを用いて解析し、その治療薬の開発に向けた基礎研究および非臨床研究に向けた試験を行う。
R2 小田口 浩 北里大学 東洋医学総合研究所
所長
感染初期のCOVID-19患者の重症化を防止する新規生薬エキス製剤の開発 新規生薬エキス製剤の原料生薬Yは日本薬局方収載の医薬品であるが、副作用を惹起するため、使用上注意が必要である。我々は、副作用成分を除去した安全性の高い新規生薬エキスXを開発し、元の生薬エキスYと同定度の抗ウイルス作用を有することを確認した。さらに最近、この新規生薬エキスXがSARS-CoV-2のVero細胞への感染を阻害することを見出し、COVID-19治療薬として応用できる可能性が高いことが示唆された。さらに、我々は、新規生薬エキスXの活性成分として、高分子のXYを見出した。XYは立体構造を有し、タンパク質との親和性が高く、新規生薬エキスXの薬理作用を担う成分であると考えられる。しかし、安定性が低いため、単離して医薬品化することは困難である。新規生薬エキスXの推定される作用メカニズムとして、Xに含まれるXYが、SARS-CoV-2が宿主細胞へ侵入する2つの経路を阻害し、感染初期患者の重症化を防止すると考えられた。なお、ウイルス感染を完全に阻害するには、この2つの経路を抑制する必要があるとされている。そこで、本研究では、基礎研究によって、新規生薬エキスXのSARS-CoV-2感染阻害効果、及び、推定される作用機構を検証し、臨床研究(医師主導治験)により、SARS-CoV-2感染初期患者に対する有効性と安全性を明らかにする。そして、新規生薬エキス製剤をSARS-CoV-2感染初期患者の治療薬として早期に医薬品化することを目指す。
 
R2 武部 貴則 東京医科歯科大学 統合研究機構
教授
腸換気法を用いたCOVID-19 関連重症呼吸器合併症に対する治療薬開発 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺炎、および、急性呼吸窮迫症候群は、致死的な合併症であり、治療薬の開発が急務である。現在、最重症例については、体外式膜型人工肺を用いた換気法が適応されるが、救命率は著しく低く、さらに、高齢者など適応除外例が存在するなどの課題が存在していた。また、医療機器の不足や、管理する医療人材の不足も顕在化しつつあり、広く適応することは困難である。
研究代表者らは、肺呼吸に非依存的な画期的な換気メカニズム、「腸換気法」が、哺乳類において実現可能であることを世界に先駆けて発見した。すなわち、ドジョウなどの一部の生物で利用されている腸を介した酸素のやりとりを通じた換気メカニズムを応用することにより、呼吸不全モデルマウスにおいて、末梢臓器の低酸素症状の解除、動脈血酸素濃度の著名な改善、行動学的所見・生存率の大幅な上昇、など次々と呼吸不全症状が改善されることを見出した。本研究では、医学史上初の試みである腸換気法を用いて、COVID-19関連重症呼吸器合併症を対象とした治療法実現へ向けた非臨床試験を遂行する。すなわち、動物モデルにおいて腸換気法のプロトコルを最適化し、用いる液体製剤や投与デバイスの安全性の評価を実施することを通じて、将来の臨床応用を見据えた換気技術の構築を試みる。
将来的に本提案による治療概念が確立されれば、重症呼吸器合併症の集中治療において指摘されている、経気道換気に伴う様々な有害事象(気道粘膜障害、サイトカイン産生等)を避け、重篤な低酸素血症から生じる多臓器不全等を回避することを通じて、患者救命に資する治療技術となる可能性がある。さらに、近年患者が増加しつつある慢性呼吸器疾患による呼吸不全患者等にも広く適応可能であると予測され、呼吸器領域の治療の新たな中核をなす革新技術となることが大いに期待される。
R2 松岡 佐保子 国立感染症研究所 血液・安全性研究部室長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等新興・再興感染症に対する新規抗ウイルス薬の開発 HIVインテグラーゼ阻害剤としてMerck&Co.が設計したMK-2048はRaltegravirの誘導体で、Raltegravirの4倍以上のインテグラーゼ阻害作用を持つ。RaltegravirやMK-2048はHIVと同じレトロウイルスであるHTLV-1に対しても in vitroでインテグラーゼ阻害作用を示すことが報告されているが、最近我々はMK-2048がHTLV-1感染細胞特異的に小胞体ストレスの活性化を介してアポトーシスを引き起こすという新規抗ウイルス作用機序を明らかにした。MK-2048は難溶性であるため、我々は経口製剤化のために6種のMK-2048誘導体を設計し、新規抗HIV薬および抗HTLV-1治療薬候補としてMerck&Co.(日本法人MSD)と協力して開発をすすめてきた。COVID-19のパンデミックは世界中で社会的、経済的に多大な損害をもたらしているが、未だ有効な治療薬はない。ドラッグリポジショニングの観点から主に既承認薬を中心にCOVID-19治療薬が探索されている。SARS-CoV-2蛋白の結晶構造に基づいたin silico構造解析の結果が複数の研究グループから報告されているが、COVID-19治療薬候補としてSARS-CoV-2同様RNAウイルスであるHIVの治療薬が多く報告されており、RaltegravirやEltegravirなどのHIVインテグラーゼ阻害剤も候補化合物としてしばしば挙げられている。しかしHIVインテグラーゼ阻害剤をCOVID-19新規治療薬候補として開発をすすめている研究報告は未だない。国内外の研究グループの多数は薬剤の作用機序から抗HIV薬の中でも特にプロテアーゼ阻害剤に着目しているが、我々は前述のようにHIVインテグラーゼ阻害剤MK-2048がインテグラーゼ阻害作用とは異なるメカニズムでも抗ウイルス作用を示すことを見出しており、さらにpreliminary in vitro studyにてHIVインテグラーゼ阻害剤Dolutegravirがコントロールの約5倍のSARS-CoV-2による細胞障害抑制効果を示すことを確認した。本研究では、MK-2048誘導体を含めたHIVインテグラーゼ阻害剤をCOVID-19治療薬候補として開発する。①MK-2048誘導体を精製し、マウスモデルを用いて薬物動態や安全性を確認する。②SARS-CoV-2感染VeroE6/TMPRSS2細胞株にCOVID-19治療薬候補HIVインテグラーゼ阻害剤を作用させ、ウイルス増殖による細胞障害抑制効果を検討する。③SARS-CoV-2感染動物モデルを作成し、in vitroで有効性が認められたHIVインテグラーゼ阻害剤の抗ウイルス作用をin vivoで検討する。④COVID-19治療薬における新規in vitro評価法を開発し、治療薬候補の有効性を再評価する。⑤HIVインテグラーゼ阻害剤の抗ウイルス作用についてin silico解析や新規in vitro評価法を用いて作用機序の解明をはかる。
R2 仁尾 泰徳 武田薬品工業株式会社 T-CiRA Discovery organoid medicine project
主席研究員
長期間作用型抗補体因子抗体を用いた重症COVID-19合併症に対する治療薬開発 人類に未曾有の被害をもたらしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、重症肺炎・ARDSによる呼吸器症状のみならず、全身性の血栓形成に基づく多臓器不全が致死的な合併症となる。最近の報告では、SARS-CoV-2に感染した重症患者のうち16-49%に血栓が、肺内に確認されることが報告されている(Lancet 395, 497-506(2020))。さらに、肝臓や腎臓などあらゆる臓器にも血栓・塞栓が発見されつつあり、多臓器不全(MOF)を生じることが報告されている。一方、ヒト細胞やオルガノイドをもちいた実験の結果、SARS-CoV-2がACE2を介して細胞内にエントリーすること、ACE2発現する細胞である血管内皮細胞に対して障害を引き起こすこと(Cell 181, 905-913 e907(2020))、障害を受けた血管内皮細胞が凝固系を活性化して、微小血管障害(TMA)を引き起こすことなどが次々と報告されている(Nat Rev Immunol 20, 343-344(2020))。現時点において、血栓・塞栓症には抗凝固を中心とした対症療法が中心であるが、出血リスクなどの合併症が多いことから、原因療法としてその上流のメカニズムを標的とする治療概念を開発していくことが急務である。SARS-CoV-2感染の炎症・血栓形成における病態として、主に肝臓から生成される補体が、その中核を担う可能性が指摘されている。すなわち、重症COVID-19例においては、補体の活性化により肺内の炎症細胞浸潤・活性化が促進されARDS病態が促進されることや、全身性血管炎と続く凝固活性化が血栓形成によりMOFが進行することが報告されている(Nat Rev Immunol 20, 343-344(2020))。ごく最近、SARS-CoV-2感染後の血栓形成は、典型的な播種性血管内凝固ではなく補体性疾患に類似した病像を示すことが報告された(Nature Reviews Rheumatology 16,581–589(2020))。我々は霊長類特異的な補体因子に対する抗体を創出することに成功した。本抗体は、すでにサル試験において補体抑制作用が1-2週間程度持続する長期間作用型であることが確認されており、COVID-19患者において1度の皮下投与による抗炎症・抗凝固作用を通じ、後の重篤な合併症および死亡リスク低減に供するブレークスルー治療となり得る候補である。レムデシビルなど既存抗ウイルス剤や抗凝固剤、炎症抑制剤と経路が異なるため、併用可能な重症化予防薬として画期的なSARS-CoV-2新薬となることが強く期待される。
R2 松浦 善治 大阪大学 微生物病研究所教授 メカニズムに基づく抗SARS2-CoV-2薬の創薬を目指した研究 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミックにより2020年10月時点で世界で100万人以上が死亡し、未だ感染の封じ込めは困難な状況にあり、収束には時間を要することが予想される。これまでに、クロロキンなど別の感染症で承認された薬剤の転用によりSARS-CoV-2の制御を試みたが、芳しい成績は得られておらず、安全で効果的な抗SARS-CoV-2薬の開発が急務である。パンデミック以前の生活スタイルおよび経済活動に戻るには、インフルエンザウイルスと同様に作用機序が明確な抗SARS-CoV-2薬の開発が必須であると考えられる。
他の抗ウイルス薬の事例を踏まえると、SARS-CoV-2に対する有効な薬剤の開発には、ウイルス由来の酵素であるプロテアーゼやポリメラーゼ等の複数の創薬標的が必要である。また、薬剤耐性株の出現を考慮して、宿主因子を標的とした創薬も有効な戦略だと考えられる。
研究代表者らは SARS-CoV-2のプロテアーゼ阻害剤を既に同定しており、それと併用可能なポリメラーゼ、イオンチャネル、宿主を標的とした治療薬候補の探索を完了しつつある状況にあり、研究期間中早期に候補薬剤の薬理効果を評価することが可能である。そこで本研究では、迅速な抗ウイルス薬の開発につながる研究を推進するために、ウイルス因子および宿主因子を標的とした創薬を目指した研究を行う。
具体的には次の3点について検討を進める予定である。
(1)抗SARS-CoV-2薬候補の評価:すでに種々のコロナウイルスに効果的なプロテアーゼ阻害剤を同定しており、SARS-CoV-2への詳細な抗ウイルス効果の検討を早急に行う予定である。ポリメラーゼに関しては精製タンパク質をすでに準備し、ポリメラーゼと結合する分子が同定されつつある。また、ウイルスの粒子形成ならびに放出に関与するイオンチャネルEタンパク質の活性をモニターできる独自のレポーター細胞を作製し、チャネル活性を阻害する化合物の探索が行われている。宿主因子に関しては、標的が明らかな Drug-to-Targetライブラリーをin vitro 感染系を用いてスクリーニングを行い、これらの検討から得られた候補薬剤の2次スクリーニングを開始する段階にある。
(2)候補薬剤の抗ウイルス機構の解明:プロテアーゼ、ポリメラーゼおよびイオンチャネルを標的とし て抗ウイルス効果を示した薬剤に関しては、構造情報解析により薬剤との結合部位を決定する。また、宿主因子を標的とした薬剤に関しては、薬剤処理による遺伝子発現への影響をトランスクリプトーム解析で検討し、パスウェイ解析により抗ウイルス機構を解析する。
(3)in vivoモデルの確立と薬理効果の検討:候補薬剤の抗SARS-CoV-2活性を、SARS-CoV-2の感染に重要なヒトACE2とTMPRSS2のトランスジェニックマウスとハムスターを用いてin vivoで評価する。
R2 大曲 貴夫 国立国際医療研究センター  国際感染症センター センター長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療法を確立するための研究 本研究の目的はCOVID-19に対して、高濃度免疫グロブリン製剤の安全性、忍容性、有効性を検証することである。
COVID-19に罹患後に回復し、SARS-CoV-2に対する中和抗体を発現したヒト血漿に由来する高度免疫グロブリン製剤(hIVIG)は、COVID-19に有用な治療手段となる可能性がある。臨床症状が進行し始め、末端臓器不全が生じる前に、抗SARS-CoV-2 hIVIGを用いた受動免疫療法を用いてヒト免疫(抗体)応答を増強することによって、その後の疾患進行及び死亡リスクが抑制されると思われる。本研究では相互に排他的な重複のない7つのカテゴリーでの順序転帰を使用して、追跡調査期のDay 7にhIVIG投与群とプラセボ投与群の臨床状態について比較を行う。
COVID-19に対する治療方法の確立は喫緊の課題であるため、研究計画書が固定された段階で可及的速やかに治験審査委員会への申請とPMDAへの治験届提出をおこなう。その後、諸手続きが完了次第、症例登録を行う。本研究の予定被験者数は500名であり、現在の世界的な流行状況を加味すると、1カ月以内に症例登録が完了する可能性が高いため、迅速な体制構築と研究予算の確保が重要である。
本治験はhIVIGの投与がさらなる疾患進行のリスクを低減するという仮説を検証するために実施されるが、hIVIGの投与により、本治験に参加する個々のCOVID-19患者でこの臨床転帰を回避できるか否かは不明である。しかし、本治験へを実施することにより治験薬について、さらに疾患の自然経過についても新たな情報が得られることから、社会における利益は存在する。世界中でCOVID-19の感染が発生しているこの状況の中、安全かつ有効な治療薬が特定される可能性があるのであれば、社会にとっての大きな利益となる。
またCOVID-19に対して有効な治療方法が限られているなかで、有効性が証明された場合、治療水準の向上に寄与し、公衆衛生上大きな役割を果たす。さらにNIHを主体とした国際研究チームと企業コンソーシアムの協力により実施される本研究に参加することは、日本の学術的なプレゼンスを高めるうえでも重要であると考えられる。
R2 竹下 勝 慶應義塾大学 医学部
特任教授
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する中和抗体医薬の開発 本研究の目標はSARS-CoV-2の中和能を持つ抗体医薬の開発である。世界的には中国及び米国等で同様の研究が行われており、複数の論文報告が出ているが、現在の所、国産での報告はない。これまで、モノクローナル抗体としてヒトにおける治療効果を証明した報告はないが、海外でモノクローナル抗体製剤の複数の臨床治験が行われており、また、同様の機序で効果を期待した回復者血漿を用いた治療法の有効性が示されたことから、抗体の効果は期待できる。
研究代表者は膠原病患者の病変組織由来のB細胞から多数の抗体を作製する研究を行っており、ヒト臨床検体から効率的に抗体を作製する技術を持っていた。日本で3-4月にCOVID-19患者が増加した際、慶應義塾では大学・大学病院が一丸となりCOVID-19を克服するための、基礎と臨床両面を備えた慶應ドンネルプロジェクトが発足した。研究代表者は同プロジェクト内で既存の技術を生かしたSARS-CoV-2中和抗体の作製を開始した。まず、回復患者の血清中和抗体価を測定し、高力価な患者の末梢血から複数の方法でB細胞を採取し、300種類以上の抗体を作製した。その中から中和能を持つ抗体をスクリーニングし、有望な候補を複数得た。これらの抗体はウイルスの受容体結合ドメイン(RBD)に対する親和性も強く、生ウイルスを用いた中和試験でも低濃度で細胞への感染を阻害した。
本課題では、動物を用いた感染実験、薬物動態試験、物性安定性評価、構造解析によるエピトープ同定、ウイルスの変異耐性評価とそれによる複数抗体の混合製剤への可能性の検討を行い、実用化に向けて研究を推進する。将来的には、SARS-CoV-2感染患者が重症化した際、もしくは担癌、糖尿病、肺疾患の既往などのハイリスク患者の重症化予防のためのキードラッグとなると期待される。
R2 藤田 雄 東京慈恵会医科大学 内科学講座呼吸器内科
助教
COVID-19重症肺炎・ARDSに対する吸入エクソソーム医薬品製造および実用化 COVID-19感染症全体の14%に発症する重症肺炎や、5%に発症する重篤な肺炎に伴う急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、生命に関わる致死的な病態である。特にARDSは65歳以上の高齢者や基礎疾患を有する患者の発症率が高く、重症COVID-19に対する創薬開発の社会的必要性が極めて高い。エクソソームは、全ての細胞から分泌され、細胞間コミュニケーションにおいて重要なツールとして大きな注目を集めている。エクソソームは、脂質二重膜に覆われた直径100nm程度の生体内でも安定性の高い小胞であり、内部に由来細胞特異的なmicroRNAなどの核酸やタンパク質を内包し、受けて細胞に取り込まれることにより細胞間コミニュケーションツールとして生体内における様々な生理学的、病理学的な機能が明らかとなっている。細胞が分泌するエクソソームには、組織修復作用およびサイトカインストーム抑制作用がありARDSに対する効果が期待される。そこで我々は、エクソソームがCOVID-19における治療薬となることを明らかにするために、臨床応用可能な吸入エクソソーム医薬品製造および前臨床試験を遂行する。吸入療法は、局所投与で副作用が少なく理想的なデリバリー法である。将来的に医師主導治験を計画し、吸入エクソソーム薬の日本初の実用化・薬事承認を目指す。有効性、安全性を確認した臨床データをもとに企業との連携を図り、革新的医薬品の早期実用化に取り組む。
R2 青柳 哲史 東北大学 医学系研究科
准教授
COVID-19重症例に対するエトポシドおよびコルチコステロイドを使用したHLH-94プロトコルによる有効性・安全性評価のための第Ⅱ相臨床試験 【研究背景】COVID-19患者の5-15%でICU管理が必要となり、ICU入室例では多くがARDSを合併し30-45%と死亡率も高い。COVID-19重症化に、マクロファージ活性化によるサイトカイン放出症候群の可能性が指摘されており(Lancet.2020)、最近COVID-19剖検例で肺、リンパ節および骨髄で血球貪食像を認めるとの報告がある(Blood.2020)。以上よりマクロファージ異常活性の結果引き起こされる二次性血球貪食リンパ組織球症(HLH)がCOVID-19重症例の治療ターゲットとして考えられる。
【これまでの研究】EB virusや悪性腫瘍、自己免疫疾患による二次性HLHの治療にエトポシドおよびコルチコステロイドを使用するHLH-94プロトコルが用いられ有効性が証明されている。基礎的検討で、本研究代表者らは世界で初めて二次性HLHを伴う重症ARDS動物モデルの作成に成功し(Aoyagi T. et.al. Int Immunol. 2011;23:97-108.)、本モデルを用いてエトポシドとコルチコステロイド併用療法が死亡率の改善、肺傷害の軽減を確認した(Aoyagi T. et.al. Shock 2019;52:83-91.)。一方、臨床的検討では、2009H1N1インフルエンザウイルス感染により人工肺(ECMO)管理の必要な重症ARDSを合併した例に対して、HLH-94プロトコルによる治療が有効であった1例の症例報告のみである(Lacnet.2010)。また、本研究代表者らはCOVID-19でARDSを合併し人工呼吸器管理が必要な例に、HLH-94プロトコルによる治療が有効であった例を経験し論文投稿中である。以上の基礎的検討および数例の臨床的知見から、COVID-19重症例に対してエトポシドおよびコルチコステロイドを使用するHLH-94プロトコルは有用と考えられ、安全性・有効性を評価する多施設共同研究を行う。
【世界の研究動向】米国でCOVID-19重症例を対象にエトポシド単独投与の臨床研究が開始されている(NCT04356690)のみである。本申請者らの動物実験の結果で、エトポシド単独投与では肺傷害および生存率の改善を認めずHLH-94プロトコル(エトポシドとコルチコステロイド併用療法)が推奨される。
R2 新城 裕司 ひむかAMファーマ株式会社 代表取締役 COVID-19関連重症肺炎治療薬の開発(治験薬製造法の検討) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全世界で蔓延しており、重症患者の救命は非常に重要な課題である。特に肺炎が重症化して機械換気が必要となった患者の死亡率は高く、世界では多くの死亡者を出している。このような重症肺炎に対しては、現在開発が進められている抗ウイルス薬だけでは対処ができず、新しいアプローチが必要である。
本申請課題は、分担研究者らが実施するCOVID-19関連重症肺炎治療薬開発に向けたPhase2a試験と並行するものであり、COVID-19関連重症肺炎の後期臨床試験を早期に実施できるよう、上市を見据えた治験薬のCMC開発を行い、薬剤の国内生産体制を構築することを目的とする。
具体的には、以下の項目を実施する。①原薬製造プロセス検討及びスケールアップ検討。②原薬の分析法の開発及びバリデーション。③上記①で製造した原薬の品質評価試験。④製剤の品質項目の分析法構築。
R2 横田 耕一 株式会社ステムリム 医薬研究部
部長/執行役員
COVID-19肺炎患者を対象とした生体組織再生誘導医薬開発 重度のCOVID-19肺炎患者では、2型肺胞上皮や肺胞血管内皮細胞が不可逆的に障害を受ける結果、ウイルスが消失した後も換気障害が後遺症として残存することが問題となっている。抗ウイルス薬や抗炎症薬では障害組織の再生は得られないことから、肺胞組織の再生を促進し後遺症を軽減する新たな治療法の開発は喫緊の課題である。
株式会社ステムリムは、大阪大学・玉井克人教授との共同研究により、生体内において骨髄内間葉系幹細胞を炎症・損傷組織へと集積させ、間葉系幹細胞の持つ抗炎症作用、抗線維化作用、組織再生作用により損傷組織の再生を誘導しているhigh mobility group box 1(HMGB1)蛋白の機能ドメインを見出し、そのペプチド医薬としての開発を進めてきた。本申請研究は、HMGB1ペプチドにより誘導された間葉系幹細胞がCOVID-19肺炎で損傷した肺胞上皮や肺胞血管内皮組織の再生誘導効果を発揮し、既存の治療では困難な障害肺組織の再生により後遺症を軽減する、他に類を見ない全く新しい作用メカニズムに基づくCOVID-19肺炎治療薬の開発を目指すものである。
具体的には、これまでに確立した骨髄由来間葉系幹細胞による組織再生評価系を利用して、HMGB1誘導性間葉系幹細胞の損傷肺組織再生誘導効果を確認し、COVID-19肺炎後の肺機能回復効果(後遺症抑制効果)を証明する。また、シングルセルRNA-seq解析を用いて、HMGB1ペプチド投与により肺に集積した間葉系幹細胞による抗炎症作用、抗線維化作用、肺胞組織再生作用のメカニズムを解明する。
これまでにHMGB1ペプチドに関しては、健常成人男性を対象とした第I相試験および重度の皮膚損傷が生涯続く遺伝性皮膚難病である表皮水疱症患者を対象とした第II相医師主導治験において、その安全性および組織再生誘導医薬としての有効性が示されている。また、現在、株式会社ステムリムからライセンスを受けた塩野義製薬株式会社において、急性期脳梗塞に対する第Ⅱ相臨床試験が進められているほか、変形性膝関節症に対する医師主導治験の準備が弘前大学において、慢性肝疾患を対象とする医師主導治験の準備が新潟大学において進められている。本申請研究によって、HMGB1ペプチドのCOVID-19肺炎に対する有効性の証明と薬効発現機序の解明を加速することで、できる限り速やかにCOVID-19肺炎患者を対象とした臨床試験の開始に繋げることを目指している。
R2 金城 武士 琉球大学 大学院医学研究科
助教
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者における低用量コルヒチンによる宿主過剰炎症反応予防に向けた抗炎症治療の医師主導治験による開発 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬は抗ウイルス薬、抗炎症薬、抗凝固薬が用いられる。現時点では、酸素投与が必要な状態になれば、抗ウイルス薬としてレムデシビル、抗炎症薬としてデキサメタゾンが投与されるが、肺炎があっても酸素投与が不要な場合には抗ウイルス薬としてファビピラビル(あるいは、これに加えてナファモスタット)が投与され、この段階では抗炎症薬は使用しないのが一般的である。しかし、重症化リスクを有する患者では高率に肺炎が悪化し、最終的には酸素投与が必要な状態となることが多い。コルヒチンはCOVID-19による過剰炎症の元凶と考えられているNLRP3インフラマゾーム活性を抑制することから、病初期から内服しておけば重症化を抑制できる可能性がある。本研究では、入院中の重症化因子を有する軽症および中等症ⅠのCOVID-19患者を対象に、コルヒチン初日1.5mgまたはプラセボ、翌日から0.5mgまたはプラセボを1日1回4週間経口投与したときの高感度CRPを指標にした炎症反応亢進抑制作用を検討する。研究デザインは、低用量コルヒチンとプラセボを比較する二重盲検、プラセボ対照、ランダム化比較試験である(第2相試験)。対象患者は100名の患者を対象とし、無作為にコルヒチン群とプラセボ群に割り付ける。主要評価項目は、治験薬投与開始後1、2、3、4週後における血清高感度CRPのベースラインからの変化量の曲線下面積である。CRP以外のバイオマーカー、また臨床的エンドポイントは副次的評価項目としている。安全性評価としては心血管イベント、呼吸不全、人工呼吸器装着、死亡といったイベント、重篤な有害事象、そしてコルヒチンで報告が多い下痢を評価する。
R2 南川 典昭 徳島大学 大学院医歯薬学研究部 (薬学域) 教授 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 等新興・再興感染症に対する核酸代謝拮抗剤の開発 新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) をはじめとするRNAウイルスは、ヒト細胞への吸着→侵入→増殖→出芽の経路を経て宿主であるヒトに多大な健康被害をもたらす。このウイルスの生活環の中で、感染患者の重症度を左右する増殖のプロセスは、ウイルスが独自にコードするRNA依存性RNAポリメラーゼ (RdRp) が担っている。この酵素は、全てのRNAウイルスの増殖に必要不可欠であり、尚且つ変異が少ないことから抗RNAウイルス薬開発の格好の標的と考えられている。SARS-CoV-2に対して効果が報告されているレムデシビルやファビピラビル (アビガン) などの核酸代謝拮抗剤もそれぞれ細胞内で代謝活性化を受け、生成した各々のヌクレオシド三リン酸体がRdRpの基質となることで不完全なRNA複製を誘起し抗ウイルス活性を示す。しかしこれら三リン酸体は、宿主であるヒトのRNAポリメラーゼの基質にもなるため重篤な副作用をもたらす。これが多くの核酸代謝拮抗剤が、非臨床・臨床試験においてドロップアウトする原因となっている。本研究では、徳島大学ならびに共同研究先の北海道大学のグループでそれぞれ見出した抗ウイルス化合物をリードとして抗ウイルス活性の増強を図り、さらに宿主に対する毒性を回避する独自の創薬テンプレートを組み合わせることで、早期に医薬品化可能な候補化合物の創出をめざす。
R2 和田 健彦 東北大学 多元物質科学研究所・大学院理学研究科 教授 高活性触媒的標的RNA消化機能付与型新規核酸医薬による感染症治療基盤創出 本研究では、我々がこれまで開発した「高活性触媒的標的RNA消化機能付与型新規核酸医薬」を活用し、新たなSARS-CoV-2等の新興感染症治療法としての汎用性を有するプラットフォーム治療戦略としての展開を目指す。SARS-CoV-2は、感染者に重篤な肺炎を生じて高い頻度で死に至らしめる一本鎖RNA含有ウイルスであり、肺胞などの細胞表面のACE2受容体タンパク質をレセプターとして感染する。本研究では次世代の分子標的薬として期待されている核酸医薬を用い、ウイルスの持つ一本鎖ゲノムRNAならびにレセプタ−コーディングRNAを標的とした機能抑制、また重篤化抑制による感染症治療法としての確立を目指す。特に核酸医薬の実用化に向けた深刻な課題である、極少ない細胞内導入量に起因する低い治療力価課題解決に向け、RNase Hの標的RNA選択的切断・消化機能を活用する。我々の提案する新規核酸医薬は、RNA型人工核酸とDNAのハイブリッド型キメラ人工核酸構造を有し、RNase Hによる標的RNAの位置選択的消化機能を有し、標的RNAの触媒的消化と顕著なターンオーバー数増加により、効率的に標的RNA消化を実現し、薬剤力価の向上が期待される。
R2 松尾 タケル 株式会社SENTAN Pharma 
研究開発部
主席研究員
微粒子吸入剤による新型コロナウイルス(COVID-19)無症・軽症患者向け治療薬の開発 本研究開発では、新型コロナウイルス(COVID-19)治療薬となる微粒子吸入剤の実用化を目指す。
研究開発代表機関である株式会社SENTAN Pharmaは、独自のナノ粒子化技術を有する。本製剤のナノ粒子化及び一次粒子化の技術及び権利は、SENTAN Pharma独自のものであり、他社が同様の製剤を調製することは困難である。抗SARS-CoV-2活性を有する既知の化合物を本研究の技術でナノ粒子化することによって生体内での吸収率を向上することが可能となる。
本研究開発では、上述のナノ粒子に添加剤を加えて一次粒子を作製し、吸入剤としての製剤化検討を行う。吸入剤は医療従事者の関与なく患者自身で投与が可能であり、呼吸器粘膜に直接吸入剤が付着し薬効を発揮する。本製剤は肺胞表面に滞留し、感染初期における重症化を防ぐことに特色を持つ。重症患者を減少させることよって、パンデミック発生時の医療崩壊を阻止し、医療現場の逼迫を解決することが期待される。
これまでの検討結果から、既に高い空気力学的粒度測定結果を示す一次粒子の作製に成功し、現在は上記結果をさらに上回るナノ粒子設計を行っている。今後、分担研究機関と共同し医薬品添加剤と本ナノ粒子とを組み合わせ、最終製剤の最適設計及び吸入デバイスの検討を実施予定である。
また、本研究では上記ナノ粒子製剤設計に加え、研究分担者によって、2021年3月までに当該製剤の肺局所投与における非臨床の薬物動態及び毒性を確認する予定である。また、アカデミアの全面協力のもと、薬効・薬理試験に関する助言・指導を受けながら、SARS-CoV-2に対応したバイオセーフティレベルを有する動物実験施設を利用し、経肺投与における非臨床薬効評価を行う予定である。
さらに、研究分担者らは臨床試験を来年度に計画中であることから、本研究において原薬及び治験薬の製造準備を今年度に並行し進めていく予定である。同時にSENTAN Pharmaの技術をCMOに移管し、GMP製造体制を構築する。
R2 小比賀 聡 大阪大学 大学院薬学研究科 教授 新型コロナウイルス感染症に対するアンチセンス核酸医薬の開発と オフターゲット毒性の予測・評価法の確立 現在COVID-19の治療薬として検討されているものの多くは、SARS-CoV-2ウイルスの侵入・増殖抑制、あるいは炎症反応を制御することで症状の改善を目指したものであり、ウイルスそのものを分解させる働きを持つものは少ない。これに対してアンチセンス核酸は、細胞内に移行後、ウイルスのゲノムRNAやmRNAに配列特異的に結合し、RNaseHと呼ばれるヌクレアーゼの作用によりRNAを分解する。アンチセンス核酸は細胞内で繰り返し働くため、感染初期はもちろんのこと、爆発的に増えたウイルスをも分解・減少させることが可能である。これに加え、in silicoでの綿密な配列設計が可能であり、オフターゲット毒性を最大限抑制するための方法論が確立されている点は、アンチセンス核酸の大きな特徴であると言える。
アンチセンス核酸の効果は、生体内での安定性や標的RNAとの結合親和性など様々な要因に左右される。我々は世界に先駆け標的RNAとの結合親和性を大きく向上させる人工核酸技術(架橋型人工核酸)の開発に成功してきた。また、これら人工核酸を利用することで、各種疾患治療に有効なアンチセンス核酸の開発を進めている。今回、これら技術や知見・経験を駆使することで、ヒトの遺伝子(pre-mRNA、mRNA)には作用せず、SARS-CoV-2のRNAにのみ働きその機能を抑制するアンチセンス核酸の開発を進め、有効でかつ安全性の高いCOVID-19治療薬の創出を目指す。
一方、アンチセンス核酸は種特異性が極めて高く、オフターゲット効果に起因する毒性(オフターゲット毒性)については動物を用いた試験では評価できないとされている。規制科学的観点から、これをいかに予測・評価するかという点は非常に重要な課題である。研究分担者の井上らは、オフターゲット遺伝子を特定するための手順を整備し、技術的ガイダンスとして取りまとめてきた。また、「オフターゲット効果による発現抑制で毒性発現が懸念されるヒト遺伝子(以降、リスク遺伝子)」のリストを整備・公開している。今回、上述のリスク遺伝子(約1700遺伝子)のリストをさらに整備し、組織分布の情報を付与する。これにより、オフターゲット遺伝子のリスク評価を効率よく実施することが可能となる。
以上、本研究開発では、有効かつ安全なSARS-CoV-2に対するアンチセンス核酸の創出を目指すとともに、核酸医薬の規制科学において重要な発現組織を考慮したオフターゲット毒性の予測・評価法を確立する。
R2 岩谷 靖雅 独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染・免疫研究部 部長 SARS-CoV-2に対する抗体ミメティックを活用した治療薬開発 現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症治療をめざして、ヒトあるいは他動物種の免疫グロブリンを用いた中和抗体あるいは中和抗体吸入薬の開発は活発に行われている。本課題では、従来の免疫グロブリンとは異なる、抗体ミメティック、いわゆる人工中和抗体monobodyに焦点を絞る。2020年、分担研究者である村上と申請者との共同開発により、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質(CoV-2 S)に対するmonobodyの候補(9種類)を作出することに成功した(Science Advances 2020)。これらのmonobodyは、CoV-2 Sに対して高い親和性ならびに中和活性を有していた。本研究では、これら独自のmonobodyを活用した吸入治療薬を開発するため、in vitroおよびin vivoにおける「独自のmonobodyの物性特性、安定性、抗原性ならびに安全性」を評価し、改変・最適化を推し進める。これらの研究により、SARS-CoV-2感染症治療薬の開発だけにとどまらず、呼吸器系ウイルス感染症における抗体ミメティック治療薬の開発にもつながる基礎学術的および実学的基盤を創出したい。
R2 長瀬 剛 大塚製薬株式会社 創薬化学研究所 所長 標的タンパク質分解誘導法に基づく新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による世界的パンデミックにより,人類の健康と社会生活が深刻な危機にさらされており、新たな治療薬の開発が喫緊の課題となっている。そこで我々は、SARS-CoV-2によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して著効を示す治療薬の開発を目指し研究開発を行うことを決定した。これまでに、SARS-CoV-1、および、SARS-CoV-2を対象にした創薬研究が数多く実施されてきた。しかし、複数の阻害剤が報告されているものの、阻害活性(IC50)は低いとは言えず、より高活性な薬剤の開発が望まれてきた。また、標的タンパク質のアミノ酸変異によって阻害活性が著しく減弱してしまう恐れもあることから、ウイルス変異に対抗できる治療薬の開発が強く求められてきた。
このような背景のもと、我々は治療薬研究の戦略を立案するに当たり、以下の指針を立てた。すなわち、1)特徴的な作用機序に基づく高い活性、2)ウイルス変異にも対抗できる柔軟性、3)多種のコロナウイルスに対する適合性、という指針である。これらを考慮し、近年新たなモダリティとして期待されているPROTACによる標的タンパク質分解誘導法を適用することとした。PROTACは、標的タンパク質に結合するリガンド、E3リガーゼを結合するリガンド、これら両リガンドを連結するリンカー、という3つの構成要素からなる化合物の総称であり、標的タンパク質分解による高い活性が期待できる。また、標的タンパク質の変異が起こった場合においても活性が保持される傾向があり、我々の基本指針と合致すると考えた。PROTAC型治療薬の開発成功により、特効薬として多くの患者を救えることが期待できる。また、複数種のコロナウイルスに対する効果も見込まれるため、新たなコロナウイルスによる脅威に対しても人類が備えることができ、世界的パンデミックに至る前に早期に沈静化できる可能性がもたらされる。さらに、新たな創薬モダリティであるタンパク質分解誘導法がウイルス治療薬開発における有効な手段として確立され、他のウイルス治療薬開発への波及効果も期待できる。
R2 土屋 政幸 株式会社Epsilon molecular Engineering      創薬開発部 取締役 創薬開発部長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する多価VHH抗体薬の開発 Development of multivalent VHH antibody drug for SARS-CoV-2 infection (COVID-19) 抗体医薬は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して期待される治療法の選択肢の一つである。しかし、従来型のIgG抗体の全身暴露では、上気道や肺に局在化する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して十分な抑制能が期待できないばかりか、抗体依存性感染増強(Antibody-dependent enhancement; ADE) によって感染症病状を悪化させる懸念がある。
我々は、次世代抗体の一つであるVHH(シングルドメイン抗体)の創薬研究に取り組んでおり、COVID-19治療薬として高い治療効果と安全性が期待できる多価VHH 抗体薬の開発を進めている。既に、SARS-CoV-2のSタンパク質を抗原としたcDNAディスプレイスクリーニングと独自の網羅的セレクションによって、非常に強い結合能を示す複数のVHHを取得し、強力な中和活性能を有する数種類のVHHの他、異なるエピトープを認識する複数のVHHの獲得に成功している。本研究開発では、複数のVHHをタンデムに結合させ、より中和活性を高めた多価VHH抗体へと最適化し、非臨床試験、臨床開発のための体制整備を進める。
 
R2 星野 温 京都府立医科大学 大学院医学研究科 助教 高親和性改変ACE2によるウイルス変異抵抗性SARS-CoV-2中和製剤の開発 新型コロナウイルスの治療選択肢の一つとしてウイルス中和タンパク製剤がある。通常はウイルスのスパイク(S)蛋白質に対する患者由来もしくは合成抗体が用いられるが、新型コロナウイルスはこのS蛋白質を介して細胞上のangiotensin converting enzyme 2(ACE2)を受容体として感染するため、ACE2の細胞外ドメイン(可溶性ACE2)を中和タンパク製剤として用いる戦略も考えられる。可溶性受容体をFcとの融合蛋白質化し、おとり(デコイ)として利用したタンパク製剤はこれまでにも関節リウマチ等の治療薬で使われている。可溶性ACE2タンパク質は新型コロナウイルスの感染阻害効果が報告され、臨床試験も行われているが、ウイルスとACE2の結合力は当初報告されたほど強くなく、ACE2を野生型配列のまま用いるのでは治療効果が十分に期待できないと考えられる。
R2 大岡 伸通 国立医薬品食品衛生研究所遺伝子医薬部 室長 COVID-19に対する蛋白質分解医薬の開発とオフターゲット評価法の構築 私達はE3リガーゼIAPの活性を利用して標的蛋白質を特異的に分解する化合物SNIPER(Specific and Non-genetic IAP-dependent Protein Eraser)を独自に開発してきた。SNIPERや海外のグループが開発したPROTAC(Proteolysis-targeting chimera)は標的リガンドとE3リガンドを繋いだキメラ化合物であり、細胞内で標的蛋白質とE3リガーゼを架橋し、標的蛋白質をユビキチン・プロテアソーム系により分解する。標的リガンドの置換により任意の蛋白質を狙って分解する化合物を合理的にデザインして開発できることから、SNIPERやPROTACは新たな低分子薬の創薬モダリティ(蛋白質分解医薬)として、製薬業界を中心に大きな注目を集めている。一方私達は先行研究において、高い抗SARS-CoV-2ウイルス活性を示す新規化合物 Xを既に見いだしており、これを蛋白質分解医薬に活用することで、さらに飛躍的な抗ウイルス活性を示すCOVID-19治療薬を開発できる可能性がある。この様な背景のもと本研究では、(1)新規化合物 Xを標的リガンドに利用することで、COVID-19に対する蛋白質分解医薬の開発を目指す。また、(2)蛋白質分解医薬に特有の安全性評価法(オフターゲット評価法)の開発を行い、当該モダリティ開発の規制科学的な環境整備を実施する。これまでにCOVID-19の治療を対象とした蛋白質分解医薬の開発に関する報告や企業の動向は国内外でほとんどないことから、本研究の独創性・新規性は非常に高いと考えている。
蛋白質分解医薬は触媒作用で標的蛋白質を分解して除去するため、従来の低分子薬と比べて飛躍的に高い活性を示す化合物を開発できる可能性がある。薬物送達システムが不要な点、経口投与も可能な点に優位性があり、また、低コストで錠剤として大量製造できることから開発途上国を含む全世界への安定した供給が可能なモダリティである。本研究の最終的な成果としては、COVID-19に対する革新的な治療薬のシーズを特許として企業に導出できる共に、今後起こりうる新興再興感染症の蔓延に迅速に対応できる新規モダリティ(蛋白質分解医薬)の開発環境整備に寄与することにより医療分野の進展が期待できる。
R2 前仲 勝実 北海道大学 薬学研究院 教授 立体構造解析を基盤にした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への革新的抗体医薬の開発 COVID-19感染症への治療薬として、モノクローナル抗体医薬の開発ニーズは高いものの未だ実用化には至っていない。抗体医薬の実用化には、薬理効果の高い抗体シーズを利用することが極めて重要であるが、我々は先行研究から高い薬理効果を期待できる2種類のヒト抗体シーズを単離することに成功している。それぞれの抗体シーズの特徴を生かすため、2種類を併用した抗体医薬を第一世代のオリジナル抗体シーズと位置付け、SARS-CoV-2ウイルスに限らず、変異ウイルスや他のコロナウイルスにも有効な抗体医薬の創製を目指す。本研究では、この第一世代抗体シーズの実用化に向けた薬理評価(非臨床試験)と、その改変を目指す基盤構築(基礎研究)を行う。薬理評価では、小動物モデルを用いた解析を行う。さらに、第一世代シーズの抗体・抗原の分子認識機構を立体構造解析から解き明かすことで、薬理効果の作用機序に科学的根拠を提供する。この立体構造データをもとに抗体パラトープの改変を行い、薬理効果が改善された第二世代抗体シーズの開発に向けた基盤を構築する。本研究では、競合抗体と比べて活性の優れた抗体シーズを出発材料として早期の実用化を目指す一方、立体構造データに基づいた薬理効果の作用機序を解き明かすことで、科学的根拠に基づきデザインされた革新的抗体医薬の開発を可能にする研究基盤を構築する。
R2 真板 綾子 株式会社キュライオ 研究開発部 研究員 タンパク質-DNAアプタマー複合体のクライオ顕微鏡構造解析による COVID-19 治療薬候補分子の探索 本研究では新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を標的とした低分子創薬を目指す。まず、リンクバイオ社が保有する、磁性粒子キャピラリー電気泳動と組み合わせた試験管内分子進化法(MACE-SELEX法)により、標的タンパク質に特異的に結合するアプタマー群を短期間で高確率に獲得する(図1-②)続いてキュライオ社が保有するクライオ電顕単粒子解析技術により、獲得したDNAアプタマーと標的タンパク質の複合体構造解析を試みる(図1-④)。このアプタマーを新たな創薬マーカーとし、標的タンパク質の触媒部位および活性制御部位の詳細な構造、ならびにアプタマーとの相互作用を分子レベルで解明し、最終段階で計算創薬技術を導入することによりSARS-CoV2標的タンパクの特異的な医薬品候補化合物の同定を目指す
 
R2 斎藤 嘉朗 国立医薬品食品衛生研究所    医薬安全科学部 部長 適切な治療のための、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎のバイオマーカー探索 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、その重症化が最も問題となっている。重症患者では、過度の炎症等による急性呼吸促迫症候群(ARDS)等によって呼吸不全となる。COVID-19では、自覚症状があまりない状況から急速に呼吸困難になる事例が多く知られており、問題となっている。COVID-19による肺炎では間質の傷害が認められ、ARDSでは最も重篤なびまん性肺胞傷害(DAD)のパターンを示すとされ、救命できない場合は死亡、救命できても肺構造が破壊(線維化)された状態が残る。従って、その適切かつ早期の診断は非常に重要である。これまでに間質性肺炎の診断マーカーである血清中KL-6が、人工呼吸器等を必要とする重症例で上昇すること、さらにはステロイド不応性のマーカーになる可能性が症例報告から、それぞれ示されている。しかし、いまだ症例数が少なく、臨床的有用性は確立されていない。申請者らは、これまでに薬剤性間質性肺炎及び特発性間質性肺炎症例の解析から、間質性肺炎マーカーを複数見いだしている。また、敗血症マーカーであるPresepsinが、KL-6よりも早期に上昇し、また変化率も大きいCOVID-19重症化マーカーとなり得ることを見いだしている。
本研究は、KL-6に加え、SP-Dという既存の間質性肺炎マーカーやPresepsin、さらに新たな間質性肺炎マーカー及び最近COVID-19の重症患者における変動が報告されたバイオマーカー候補について、COVID-19患者における変動を確認し、COVID-19肺炎(人工呼吸器等による呼吸器管理が必要な重症、及び/または酸素療法が必要な中等症以上)のマーカーとしての有用性を評価し、臨床における将来の診断利用につなげることを目的とする。具体的には、軽症の肺症状を呈する試料、酸素療法が必要な中等症、さらに人工呼吸器等が必要な重症の肺炎試料間のマーカー測定値の差や治療法との関連性等を評価して、マーカーとしての有用性を評価する。重症群(及び重症+中等症群)と他群との比較から重症度の診断に用いうるか、経日的な採血試料の測定値と臨床データとの関連解析から重症化予測や治療効果のモニタリングに用いうるか、等を検討する。本研究の成果は、迅速な入院が必要な患者の選択やステロイド療法の必要性の判断、さらには治療効果のモニタリング等、治療方針決定に役立つと考えられる。
R2 黒沢 亨 Meiji Seika ファルマ株式会社 医薬研究開発本部 執行役員 医薬研究開発副本部長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療用抗体の研究開発 SARS-CoV-2)により引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界中で爆発的に感染が広がり続け大きな社会問題となっている。SARS-CoV-2による犠牲者を抑制するためには、有効な治療薬の開発が必要である。治療薬の創出においては、SARS-CoV-2ウイルス増殖抑制作用を有する化合物の創製と共に、ヒトが本来有する獲得免疫機構において重要な働きをする抗体を活用するアプローチが有用である。実際、SARS-CoV-2を感染モデル動物であるハムスターに感染させ、回復後に得た血清にウイルスを中和する活性があり、その血清を用いた治療(血清療法)により、感染ハムスターの体重減少およびウイルスの呼吸器での増殖を著しく抑制できることを明らかにしている。つまり、中和活性を持つヒトモノクローナル抗体は、COVID-19に対して有効な治療法となり得る。
本研究では、既に進めているSARS-CoV-2に対して感染防御活性を示すヒトモノクローナル抗体の解析により得られた抗体の中から、開発に進める治療用抗体を決定すると供に、非臨床試験薬・臨床治験薬の製造方法の検討を実施する。
R2 長袋 洋 ARTham Therapeutics株式会社 代表取締役社長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化予防と長期予後改善のための治療薬とコンパニオン診断薬の開発 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、軽症患者が短期間で重症化し死に至ることがあり、重症化を事前に予測するバイオマーカーの同定と重症化を予防する治療法の開発が喫緊の課題である。本研究開発課題ではCOVID-19重症化予防薬として新規ホスホジエステラーゼ4型(PDE4)阻害薬であるART-648とそのコンパニオン診断薬として尿中肝型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)検査キットを開発することを目的とし第II相試験を計画、準備する。
COVID-19の重症化は過剰な炎症反応に起因するサイトカインストームや血栓症との関連が示唆されている。血栓症については、好中球の活性化による好中球細胞外トラップ(NETs)の放出が重症COVID-19重症患者において上昇していることが報告されており、NETsに起因する血液凝固系活性化の関与が示されている。
PDE4阻害薬は、マクロファージやT細胞などに作用し、TNFα、IL-6、IL-17等の炎症性サイトカイン産生を抑制することにより、広範な抗炎症作用を有する知られている。また、PDE4阻害薬は、NETs形成を抑制し、凝固促進を引き起こす組織因子の発現を抑制することも報告されている。これらのことより、提案者らは、PDE4阻害薬がCOVID-19の重症化を予防する効果を有するとの仮説を立てるに至った。ART-648は、現在第I試験において、健康成人における安全性・忍容性、薬物動態、薬力学的効果を検証中である。実施済みの単回及び反復投与試験の結果より、過去のPDE4阻害薬に比べ非常に優れた忍容性が確認されている。
また最近、我々は尿中L-FABP濃度がCOVID-19の重症化リスクの予測に適用できること、特に軽症患者の重症化を高い精度で予測できることが明らかにした。尿中L-FABP濃度を用い重症化リスクの高い患者を同定し、ART-648を予防的に投与することは、サイトカインストームと血液凝固系の活性化の抑制を介して重症化を防止し、かつ予後改善に寄与する可能性が高いと考えられる。軽症者が80%を占めるCOVID-19において、重症化リスクの高い患者をバイオマーカーにより抽出し、安全で広範な抗炎症作用を有するPDE4阻害薬を予防的に投与することは、これまでのCOVID-19治療法にはない革新的なアプローチである。
今年度の本事業においては、以下の項目の完了を目的とする。
1)尿中L-FABP濃度測定キットとART-648の臨床開発計画の策定
2)治験実施体制の構築と治験届提出の準備
3)治験薬製造(タブレット)
4)後ろ向き観察研究により尿中L-FABP値と、デキサメタゾン等の治療、肺炎の重症化指標等との相関を解析
R2 木戸屋 浩康 大阪大学 微生物病研究所情報伝達分野准教授 COVID-19に対する抗ウイルス薬の効果改善を目的とした血管保護剤の開発 COVID-19は肺炎だけでなく全身性疾患を引き起こすが、その発症過程には血管内皮細胞の障害による血栓形成やサイトカインストームの誘導が関与すると考えられている。このような血管障害は様々な後遺症の原因となる可能性が報告されており、抗ウイルス薬に加えて血管を保護する薬剤の開発が求められている。本研究開発では、COVID-19に対する治療戦略として抗ウイルス薬と血管保護剤の併用療法を提案し、その実現に向けた効果検証と薬剤開発を進める。
血管保護剤の候補となるのは申請者の研究グループにて機能解析が進められたX分子(特許取得のため非公開)である。我々はこれまでにX分子が血管に対して安定化を誘導し、炎症などから血管機能を保護するというユニークな作用を示すことを明らかにしてきた。これまでに、X分子アゴニストのように血管の安定化を強力に促進する薬剤は発見されておらず、COVID-19における血管炎に対する有効な治療薬の候補と考えられる。本研究では、血管内皮細胞に特異性が高いLX分子アゴニストについて、抗ウイルス薬との併用処置によるCOVID-19に対する治療効果を検証する。解析には申請者が開発した3次元ヒト血管培養系を用いるが、この系は一般的な血管オルガノイドと比較して生体内の血管を高度に再現できておりX分子アゴニストによる血管保護効果の正確な評価が可能である。ウイルス感染による血管保護効果の評価はバイオインフォマティクスによって詳細に解析し、臨床データとの比較検討を進めることで安全性や毒性を評価する。また、申請者の所属する微生物病研究所ではSARS-CoV-2を用いた動物感染実験を遂行可能なABSL3施設を有しており、動物モデルを用いた薬剤評価も遂行する。具体的な研究開発項目を以下に示す。
〈研究開発項目1〉3次元ヒト血管培養系でのSARS-CoV-2感染実験系の構築
様々な組織由来の血管内皮細胞にて3次元ヒト血管を作成してSARS-CoV-2を感染させ、感染率の計測と血管内皮細胞の障害の程度を解析する。
〈研究開発項目2〉培養系でのX分子アゴニストによる血管保護作用の検証
3次元ヒト血管での感染実験系を用いて、X分子アゴニスもしくは抗ウイルス薬との併用処置が血管内皮障害を軽減させるかを検証する。
〈研究開発項目3〉感染動物モデルでのX分子アゴニストによる治療効果の検証
実験動物にSARS-CoV-2を感染させ、X分子アゴニストと抗ウイルス薬の併用療法により血管内皮障害や血栓形成が抑制されるかを検証する。
 
R2 山原 研一 兵庫医科大学 医学部 准教授 COVID-19によるサイトカインストームに対する羊膜間葉系幹細胞治療の至適化 COVID-19の重症化につながるサイトカインストームに対する治療として、炎症・免疫抑制効果を有するMSC投与による治療が期待されている。これまでに我々はオリジナルの羊膜MSCを開発し、他のMSCと比較し、免疫抑制関連液性因子(PGE2,HGF)の分泌能が高く、リンパ球・単球に対する高い抑制能を認め、その強力な免疫抑制能を証明し、急性GVHD・心筋炎・腎炎・炎症性腸疾患・肝硬変・乾癬モデルといった各種難治性免疫関連疾患における治療効果を報告してきた(J Dermatol. 2019, Am J Transl Res. 2017, Transplant Direct. 2015, Cell Transplant. 2015・2014・2013, PLoS One. 2014, J Mol Cell Cardiol 2012・2010, Cytotherapy. 2012, Am J Physiol Renal Physiol. 2010, Stem Cells 2008)。我々は、羊膜MSCが、一般的な骨髄MSCと比較し、①医療廃棄物であり侵襲性がない、②短期間で大量培養ができる、③免疫調整能力が高い、ことを提示し、その臨床応用における有用性を示してきた。更に、AMED革新的医療技術創出拠点プロジェクト橋渡し研究戦略的推進プログラム・再生医療実用化研究事業のもと、羊膜MSCのGLPでの非臨床安全性試験を経て治験製品化、また、急性GVHD・クローン病に対する医師主導治験として治験届を出すに至っている。
一方で、現在、様々な組織由来MSCを用いたCOVID-19に対する臨床試験が行われているが、その至適投与法・投与タイミング、バイオマーカー、安全性に関するデータが不足しており、MSC治療が至適化されているとは言いがたい。そこで、本研究では、多くの特許を有する我々オリジナルの羊膜MSCを使用し、調製した治験製品を用いたモデル動物により、①至適なMSC投与法・投与タイミングを検討、②MSC投与前後における候補バイオマーカーの評価、③肺の病理組織学的評価・理学的所見の検討、を実施し、これら疑問を解決する。更に、我々の試験結果に基づき、来年度からの治験実施を目指し、再生医療を専門とする各研究開発分担者とともに治験準備・規制当局対応を行う。

(4)ワクチン開発

各研究開発課題の進捗・関連情報については「COVID-19関連研究開発課題情報―ワクチン関連―」をご確認ください。

開始年度 研究開発代表者 所属機関・役職 研究開発課題名 研究概要
R1 長谷川 秀樹 国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター センター長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発に関する研究 中国湖北省武漢市を中心に新型コロナウイルス(2019-nCoV)の感染患者が報告され、最初の患者の発見からわずか2ヶ月程度の間に、世界中で4万名を超える感染者と1000人を超える死亡者が報告されており、世界的に公衆衛生上の非常に大きな問題として早急な対策が求められている。一方で、このウイルス感染症に対する治療薬及び予防法は確立されていない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中に蔓延する可能性が危惧されており、その予防の為のワクチン開発が必須である。本研究では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発を目的とする。
R1 河岡 義裕 東京大学 医科学研究所 教授 新型コロナウイルス(2019-nCoV)の制圧に向けての基盤研究 本研究では、2019-nCoVに対する有効な治療薬とワクチンを開発することを目的として、1)2019-nCoV感染症の動物モデルを確立する。2)2019-nCoV感染患者から樹立した2019-nCoVに対するヒトモノクローナル抗体が治療用抗体として有用であるのかどうかを動物モデルで検証する。3)コロナウイルスの感染防御抗原であるスパイク(S)蛋白質をコードする遺伝子ワクチンを作製し、同ワクチンの感染防御効果を動物モデルで検証する。
R2 伊藤 靖 滋賀医科大学 医学部 教授 カニクイザルモデルを用いた新型コロナウイルスに対する組換えワクチンの開発 新型コロナウイルス感染症COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV-2の霊長類モデルにおける病原性の解明と感染実験によるワクチンの開発が目的である。WHOはCOVID-19のパンデミックを宣言し、迅速な感染拡大の抑制と予防法・治療法の開発が喫緊の課題である。そのために、SARS-CoV-2の生体内における分布と体内からの排泄経路を知ることが周囲への拡散防止に重要である。また、ワクチンによるSARS-CoV-2に対する免疫の獲得が、感染抑制に直結するため、世界に迅速に供給可能なワクチンを開発することが必要である。そのために本計画では、霊長類モデルを使い、人では解析の困難なウイルスの体内の分布と排出経路を明らかにし、前臨床試験としてワクチンの有効性と副反応を感染実験により解析する。SARS-CoV-2の霊長類モデルが確立するとワクチンのみならず、抗ウイルス薬の開発研究にも応用でき、臨床試験に進む前に有望な予防法、治療法を迅速にスクリーニングでき、COVID-19対策に貢献できると考えられる。
R2 田中 義正 長崎大学 先端創薬イノベーションセンター 教授 COVID-19に対するワクチンの開発 2019年12月中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされたCOVID-19は、瞬く間に世界中に広がりパンデミックとなった。新興感染症の場合、ワクチン開発の初期段階においては、安全性や有効性よりも開発速度が重視される。次の開発段階では、有効性と安全性に重点が置かれ、一般健常国民を対象としたパンデミックワクチン開発が行われる。本研究の目的は、中国での組み換えタンパク質ワクチン開発のノウハウと長崎大学先端創薬イノベーションセンターのタンパク改良技術を相乗的に活かした、より強力で安全性の高い次世代組換えタンパク質ワクチンを開発することである。
R2 森田 英嗣 弘前大学 農学生命科学部 准教授 蛋白質ナノ粒子を用いた粘膜免疫誘導型SARS-CoV-2ワクチンの開発 天然・人工蛋白質ナノ粒子にSARS-CoV-2のS (スパイク) 蛋白質の全長もしくはRBD (レセプター結合領域)を融合させた蛋白質ナノ粒子を作製する。哺乳動物発現系を用いてナノ粒子を発現させ、粒子形成について種々の生化学的方法にて確認し、各種カラムクロマトグラフィーを用いて精製する。また、コロナウイルス感受性細胞表面への粒子の結合能や、粒子安定性についてのデータ収集を行う。さらに、それぞれのナノ粒子構造の動的構造を解析し、粒子表面にペプチドをディスプレイさせることが可能な領域についても検討する。また、SpyCatcher-SpyTagシステムを用いた配列特異的共有結合誘導系を用いた抗原蛋白質の蛋白質ナノ粒子へのカップリング方法についても検討する。
R2 渡部 良広 金沢大学 附属病院 特任教授 感染責任部位エピトープ舌下ワクチンによる新型コロナウイルス感染防御法の開発 本研究開発では、これまで研究開発代表者が構築してきたペプチド(エピトープ)抗原の作製技術を用いて、種々の感染症に適応可能な、感染防御能の高いIgAおよびIgG抗体を効率的に誘導する舌下ワクチンの開発法を確立する。特に本研究では、緊急性の高い新型コロナウイルスSARS-CoV-2を対象とし、SARS-CoV-2 感染責任部位エピトープを同定し、感染防御能を有するエピトープワクチンを開発する。

(5)臨床開発研究

各研究開発課題の進捗・関連情報については「COVID-19関連研究開発課題情報―治療薬関連―」をご確認ください。

開始年度 研究開発代表者 所属機関・役職 研究開発課題名 研究概要
R1 湯澤 由紀夫 藤田医科大学 大学病院 病院長 SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験およびファビピラビルを投与された中等症・重症患者における臨床経過の検討を目的とした多施設観察研究 ファビピラビルは、富山化学工業株式会社 (富士フイルム富山化学株式会社) が創製した抗ウイルス薬であって、効能・効果を「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症 (但し、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る)」に限定して、2014年3月に厚生労働省の承認を受けている。その作用機序は、生体内で変換された三リン酸化体 (T-705RTP) が、ウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害するものであることから、インフルエンザウイルス以外のRNAウイルスへも有効性が期待されるものの、SARS-CoV2感染に対する有用性を示すエビデンスはなかった。
本研究は、特定臨床研究によりSARS-CoV2感染無症状・軽症患者に対するファビピラビルの有用性およびファビピラビルを投与された中等症・重症患者の臨床経過を明らかとすることを目的とする。
 

(6)COVID-19を含む感染症にかかる基盤的な研究・環境整備

各研究開発課題の進捗・関連情報については「COVID-19関連研究開発課題情報―COVID-19を含む感染症にかかる基盤的な研究・環境整備―」をご確認ください。

開始年度 研究開発代表者 所属機関・役職 研究開発課題名 研究概要
H30 森島 恒雄 愛知医科大学 小児科 客員教授 ウイルス性重症呼吸器感染症に係る診断・治療法の研究 本研究はインフルエンザ(特に新型インフルエンザ)、中東呼吸器症候群(MERS)および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺傷害のウイルス学的・病理学的解析に基づき、診断法・治療法の確立、新規治療薬の開発を目指す。インフルエンザ等の重症例において、サイトカイン・ケモカイン・酸化ストレスなどによる血管内皮細胞の障害が生じている。その結果、血管透過性の亢進による脳浮腫(脳症)や肺水腫(ARDS)が惹起され病態の悪化に大きく関与している。これらの血管透過性の亢進の機序の解明と抑制薬の開発は、重症の病態の治療に繋がる。COVID-19の治療としては、抗ウイルス活性を示す吸入ステロイドであるシクレソニドを見出し、臨床試験が開始されており、本薬剤を用いた治療法の確立を目指す。また、シクレソニド以外の既存薬の中で有効な抗ウイルス効果を持つ薬剤の探索を行う。一方、診断薬として、唾液を用いた新たな核酸検出法の確立にも取り組んでいる。
H31 鈴木 忠樹 国立感染症研究所 感染病理部 部長 病理学的アプローチによる先天性感染症・原因不明感染症診断法の開発 本研究では、多数の患者検体から得られたSARS-CoV-2ゲノム情報により、病原性や抗原性そして迅速診断法の基盤となる配列情報を提供できると考える。さらに、COVID-19患者のゲノム、免疫レパトア、宿主免疫応答に関する多角的な情報を収集する。クラスターと集団の疫学研究では、人口レベルでの接触者・重症患者および血清疫学調査などを通じて新規および既存のクラスター対策を確立する科学的基盤の提供に取り組む。また、クラスターのつながりや接触者追跡情報を基に、無症状病原体保有者の出現頻度やその感染性などに関する調査と数理モデルによる統計学的推定・評価も同時に行うことで、真の感染者数の推定や年齢別の死亡リスクの推定など自然感染の特性を明らかにし、それを基にして学校閉鎖の是非などへの評価へと繋ぐ。
R2 荒瀬 尚 大阪大学 微生物病研究所 教授 新型コロナウイルス感染症の重症化予防法・治療法の開発 SARS-CoV2は、非常に重篤な肺炎を引き起こす一方、無症状、もしくは軽症の患者も多く認められる。なぜ特定の感染者のみが重症化するかを解明することは、重症患者の治療法、重症化の予防法の開発に必須である。そこで、本研究では、SARS-CoV2感染症の重症化機構を、免疫学的、ウイルス学的な双方の研究からの解明し、重症化の予防法、治療法の開発を行う。特に、本研究は、SARS-CoV2による肺炎発症機構、SARS-CoV2感染防御に有効な抗体のエピトープ、SARS-CoV2ウイルスの免疫逃避機構の解明を行い、重症化メカニズムの解明を通じて、有効なワクチン開発や治療法の開発を行う。
R2 岩見 真吾 九州大学 理学研究院 准教授 ウイルス非特異的感染動態定量化に基づいた治療最適化プラットフォームの開発 新興感染症発生時に即時対応可能な“ウイルス非特異的”な感染動態定量化アプローチを駆使した汎用的な治療薬探索プラットフォームを構築する。そして、研究開発期間中に治療薬候補の中からSARS-CoV2に対して高い抗ウイルス効果を持つ薬剤の探索し(ドラッグリポジショニング)、それらを用いた最適な治療方法を提案する。
R2 笠原 勇矢 医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 創薬デザイン研究センター サブプロジェクトリーダー COVID-19の診断・予防・治療を目指した人工核酸アプタマーの開発 本研究では、① Sタンパク質/ACE2の相互作用様式を解析し相互作用に重要な官能基の位置と種類の情報を抽出、② 抽出した情報を元にデザインした人工核酸を用いてSタンパク質に対する人工核酸アプタマーを作製、③ PPI阻害能や、培養細胞や受容体ヒトACE2を高発現させたマウスを用いたCOVID-19感染モデルで感染制御能を評価することでCOVID-19の診断・予防・治療に応用可能な人工核酸アプタマーを開発する。
R2 鈴木 幸一 帝京大学 医療技術学部 教授 あらゆる新興感染症にすぐに対応可能で特別な装置や技術を要さない核酸迅速診断法のための基盤技術開発 本研究では、新興感染症病原体のゲノム情報が明らかになった時点で、プライマーの設計を行うだけですぐに応用可能なall-in-one型キットのプロトタイプ作成のための基盤技術を創出するための検討を行う。先ずDNAの増幅に関して、LAMP法を初めとする数種の等温増幅法についてその効率と、検出系として用いる核酸クロマトグラフィーのバッファー系との適合性などについて検討し、最適な酵素を選定する。次いで、DNA増幅反応に用いる酵素等の試薬を固着乾燥させ、溶解後に酵素反応を起こすための素材と反応条件について検討する。さらに、増幅産物を核酸クロマトグラフィーに移行させるための液体の流路、および等温増幅反応を行うための発熱素子などの恒温維持システムとそれへの給電方法について検討を行う。キットには逆転写酵素も組み込んでRNAウイルスゲノム検出にも対応させるとともに、現在大流行しており世界中で大きな問題となっている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)迅速診断のためのサンプル調製方法など諸条件についても検討を行う。
R2 田岡 和城 東京大学 医学部附属病院 助教 人工知能を用いたCOVID19肺炎の重症度トリアージシステムの開発 カルテ情報から、重症度判定に必要な情報を抽出し収集する。その臨床情報をもとにした重症度のリスクがカルテにポップアップ提示されるシステムを作製する。システム・ユーザーである医療従事者などへのヒアリングを行い、システムに対する第三者検証の検討等、実用性と安全性の担保に努める。LGWANなど保健所など行政機関とも連携の取りやすい既存のネットワークに接続しやすいシステム設計を目指す。
R2 平井 豊博 京都大学 医学研究科 教授 間質性肺炎定量化技術を用いた、COVID-19等、新興・再興感染症に対するクラウド型病変定量化システムの研究開発 京都大学と富士フイルム(株)が共同開発した間質性肺炎の胸部CT画像定量化ソフトウェアは、新興・再興感染症による肺炎においても応用が可能と考えられる。新興・再興感染症においては、感染蔓延の初期段階に得られた知見をいかに迅速にグローバルに共有し、次に感染が蔓延した地域の医療に活かすことができるかが重要な要点となる。本年度の研究では、胸部CT画像解析による感染症診療に有用な新規画像バイオマーカーを開発し、肺野病変を自動定量化するシステムをクラウド上に運用することで、感染症蔓延時に迅速に対応できる、画像情報の共有や新興感染症診療に貢献する基盤構築を目指す。まず、COVID-19症例の胸部CT画像を間質性肺炎やARDS(急性呼吸窮迫症候群)の画像と比較検討することにより、本感染症の特徴量を明らかにし、診断や予後予測など臨床に有用な定量的指標を開発する。また、実際の症例を用いて開発した指標を検証する。さらに、本ソフトウェアをクラウド上に配置して、安定に運用ができるシステムを開発し、新興感染症診断のための基盤構築を目指す。
R2 藤谷 茂樹 聖マリアンナ医科大学 医学部 教授 アダプティブデザインを用いたCOVID-19国際多施設ランダム化比較試験と重症呼吸器感染症に対する臨床研究体制の基盤構築 短期的に、国際多施設研究であるREMAP-CAPを日本で展開するにあたりIRBの承認、日本集中治療医学会や日本感染症学会の学会レベルで取り組んでいくための組織整備、Web開設含めた事務局機能の立ち上げをまずは行っていく。 中期的に、参加施設を選定した上で、海外REMAP-CAP本部と連携しながらオンラインでのデータ入力する仕組みの確認など、患者登録に向けた体制の整備といった施設レベルでの具体的な研究活動を準備、実行していく。 並行して、REMAP-CAPへの参加通じて得られる感染症危機時におけるadaptive RCTを運用する事に対する質的評価を含む体系的評価、海外とのステークホルダーとのネットワークを含む同様の研究に関するスコーピングレビューも行っていく。
R2 松永 章弘 国立国際医療研究センター 上級研究員 抗新型コロナウイルス中和抗体エピトープ部位の把握による血漿提供候補患者スクリーニング法開発 急速に感染拡大した新型コロナウイルス感染症では、リスク因子として高齢であることや心疾患の基礎疾患を有していることなどが報告される一方、若年層かつ基礎疾患を持たない感染者での重症化例も報告されており、重症化例に対する有効な治療法の確立・提供は喫緊の重要な課題である。先行研究により、我々は、中程度の症状の患者であっても重症化症状の患者であっても抗体価の上昇と症状の改善が相関しており、中和活性(感染とウイルス増殖の抑制効果)を有する抗体の獲得が病態に密接に関連していることを見出した。本研究では、病態と密接に関連する中和活性を示す抗体の標的蛋白質の同定を行い、定量測定系を構築する。この中和活性を示す抗体量のデータを臨床側にフィードバックすることで、重症化予測の可能性を検証する。さらには、回復した感染患者の末梢血中の中和活性抗体量を測定し、重傷者に対する有効な治療法となる血漿輸注療法のドナー候補のスクリーニング方法として利用する。
R2 峯岸 直子 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 教授 バイオバンクが保有する健常人と疾患例の試料・情報を活用した抗SARS2-CoV-2抗体検査法の妥当性検討と予防医学への応用 東北大学では、一般住民の試料・情報を収集する東北メディカル・メガバンク(TMM)計画バイオバンク(以下、TMMバイオバンク)、および、患者の試料・情報を収集する未来型医療創成センター(INGEM)バイオバンク(東北大学病院と連携;以下、病院バイオバンク)を構築している。令和2年度には、病院バイオバンクの試料の一部を使って抗SARS-CoV-2抗体測定キット等の妥当性検討を実施し、ついで、妥当性が確認された測定方法を用いて、TMMバイオバンクに保存されたコホート調査参加者の血清の抗体を測定し、同ウイルスの感染動向予測に利用する。現在、TMM計画では詳細二次調査を実施中であり、本研究課題によって得られる試料・情報は、SARS-CoV-2出現前後の同一人物由来の血液試料、偽陽性者種々の疫学情報、全ゲノム解析やメタボローム解析などの情報とともに、バイオバンクを介して全国の研究者にも提供される予定である。
R2 岩倉 洋一郎 東京理科大学 生命医科学研究所 教授 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬開発促進を目指したマウスモデルの開発 新型コロナウイルス感染症(COVID)に対するワクチンや治療薬の開発には、その発症過程を忠実に反映する感染モデルが必要です。ところが、現在は良い感染実験系がないため、開発研究に遅れが生じております。そこで、本研究では新型コロナウイルスの感染受容体や感染を促進するヒト遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製することによって、通常は新型コロナウイルスに感受性を示さないマウスを、感受性マウスに改変することを目指します。また、COVID患者ではIL-6やTNFなどのサイトカインの産生が異常亢進し、重症化を招くと考えられております。そこで、本研究ではこれらのサイトカインの誘導メカニズムを解明すると共に、当研究グループの有する種々のサイトカイン欠損マウスと掛け合わせることによって、その病理的役割を明らかにし、サイトカインストームを抑制する手掛かりを得ることを目指します。また、糖尿病や血管炎などの基礎疾患があると予後が悪いことが知られていますが、そのメカニズムを解明して、予後改善の方策を得ることを目指します。なお、感受性マウスは希望する研究者に広く配布し、研究を促進することを予定しております。
R2 福原 崇介 北海道大学 大学院医学研究院 微生物学免疫学分野 病原微生物学教室  教授 P2施設で検討可能なSARS-CoV-2tcp感染系によるin vivoモデルの確立 SARS-CoV-2の治療法開発を目指した研究の推進を妨げる要因の1つとして、感染性ウイルスを用いた研究はP3実験室で行う必要があることが挙げられる。増殖に必須なウイルスタンパク質を欠損したウイルスを作出し、そのタンパク質を強制発現している細胞でのみ増える(Trans-complementation)モデルを構築すれば、P2実験室で使用可能になると考えられる。今回、構造タンパク質であるSやE、Mを欠損するSARS-CoV-2 tcpを作製し、ゲノムの複製に関与する全てのウイルスタンパク質を維持することで、in vitro及びin vivoで粒子産生より前の増殖初期過程を観察することが可能な系を構築する。ウイルスタンパク質を欠損することで安全かつ増殖性を観察可能なSARS-CoV-2tcpのin vitro及びin vivoの感染系を確立し、その有用性を様々な角度から検証することを本研究の目的とする。
最近、申請者らは大腸菌を介さず、PCRでウイルスゲノム断片を増幅し、円環状に繋げることによるSARS-CoV-2の高速リバースジェネティクスを確立した。この手法により、容易にウイルスゲノム内に変異を導入できるだけでなく、特定のウイルスタンパク質を欠損したウイルスゲノムを容易に構築可能であり、SARS-CoV-2tcpを作出するための条件検討も迅速に行うことが可能である。SARS-CoV-2tcp感染系が確立し、in vitroおよびin vivoでの有用性を明らかにすることで、創薬やワクチン開発に関する研究に大きく貢献できるP2で使用可能な実験系になると考えられる。さらに、本研究では、SARS-CoV-2tcpで欠損させたウイルスタンパク質を発現するトランスジェニックマウスの作製を行い、SARS-CoV-2tcpが増殖可能なモデルの確立することでP2で使用可能で有用なin vivoモデルの構築を試みる。
マウスでの増殖性を高めるための変異をすでに同定しており、SARS-CoV-2tcpにもその変異を導入することで、マウスで高い感染性を示す系を構築可能である。また、各分担者はすでに生ウイルスを用いた研究で成績をすでに得ていることも優位な点であり、SARS-CoV-2tcp感染系が確立し次第、その有用性をin vivoモデルを含む様々な実験系で検証することが可能である。このような多角的かつ確実な検証を行った上でin vitroのみならずin vivoで有用性が実証され、かつP2で使用可能な実験系は、間違いなく創薬やワクチン開発に資することが可能である。
R2 小倉 裕司 大阪大学 大学院医学系研究科 准教授 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の網羅的遺伝子・タンパク発現解析を用いた新規分子病態バイオマーカー開発と臨床応用  新型コロナウイルス感染症は世界に拡大し、2020年 11月26日の時点で世界の感染者数が6000万人を超え、死亡者は141万人となっている。日本では2020年11月12日の時点で新型コロナウイルスの新規感染者が過去最多となり、さらに増加傾向を示している。新型コロナウイルス感染症の特徴として呼吸器症状があり、上気道炎が進行すると肺炎から呼吸不全に至る。また、COVID19感染症が進行すると全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome; SIRS)が引き起こされる。これは、ウイルスが病原体関連分子パターン(PAMPs)や細胞障害に伴う損傷関連分子パターン(DMAPs)が免疫担当細胞上に存在するパターン認識受容体にリガンドとして結合する。活性化した細胞内転写因子が核内のDNAに結合し、メッセンジャーRNA(mRNA)が転写され、翻訳される蛋白を介して炎症反応が進行する。また、非蛋白コード (miRNA等)も炎症反応において重要な役割を担うことが報告されている。これらはウイルス性敗血症と考えられており、全身性炎症症候群(SIRS)が進行すると播種性血管内凝固症候群 (DIC)や多臓器障害に至る。
抗ウイルス薬と併用してトシリズマブやステロイド治療などの抗炎症治療薬が有効と考えられており、現在様々な臨床試験が行われている。問題点として、これらの抗炎症治療薬を適切に投与するためのバイオマーカーが確立していないことがあげられる。これまで、IL-6、LDHなどのバイオマーカーは報告されているが、分子病態を反映するバイオマーカー(分子病態マーカー)の報告はない。問題解決のため、現在、我々は血液を用いた新規分子病態マーカーの開発を進行中である。
分子病態マーカーの特徴として以下の2点があげられる。①既存のバイオマーカーより精度が高い。②新型コロナウイルス感染症の分子病態を評価しながら治療介入が可能となる。①から重症度に関連する分子病態を早期に検出することで、軽症例に対してICU転院を含めた早期治療介入が可能となる。また、②から分子病態に効果が期待できる至適治療薬の選択が可能となり、さらに分子病態を指標とした投薬容量や投薬期間の調整が可能となる。
分子病態マーカーを指標とすることで新型コロナウイルス感染症の治療を至適化することが可能となり、患者の予後改善が期待できる。さらに、分子病態を標的とした新規治療薬の開発に繋がる。
R2 竹内 一郎 横浜市立大学 医学部医学研究科救急医学教室 教授 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発のための実用的な予後予測・治療スコアの開発と社会実装 2019年末に中国湖北省武漢市で始まったCOVID-19は瞬く間に欧米を中心に感染拡大を起こしパンデミックを引き起こした。世界中で治療法の確立に向けて複数の臨床試験が行われているが、現時点で有効な治療方法の確立には至っていない。重症化を予測する指標がないことがその要因である。したがってCOVID-19の創薬研究には、治療を要する重症化リスクの高い患者を早期に層別化し、さらに治療の有効性を示す指標の開発が必要不可欠である。
我々は、医療資源の分配や患者搬送入院施設の効率的な選定を目的に実施した先行研究(新型コロナウイルス肺炎の発症および重症化を予測する分子マーカーの開発)で免疫学解析、次世代プロテオーム解析を行い、重症化予測可能なバイオマーカーを複数同定した。特にIL-6がCOVID-19の重症化予測および治療効果において重要なバイオマーカーであること、肺胞内の免疫状態を反映することを示した。そこで本研究では、先行研究で得られた知見を社会に還元するために、IL-6に加え一般的な血液検査、および臨床情報を加えることで精度の高い簡便で実用的な予後予測モデルおよび治療評価モデルの開発を先行して行う。引き続き、このモデルの有効性を検証し、さらにはアプリケーションの開発を行うことで予後予測および治療評価モデルの社会実装を目指す。
本研究は、アプリケーションによる“目に見える”定量的な重症化リスク層別化と治療効果評価により、創薬研究の基盤に寄与するのみならず、病床調整や医療資源の再分配を事前に行うことが可能になり、医療崩壊の回避に貢献することができる。
R2 中崎 有恒 HuLA immune株式会社 先端医薬研究所長 感染増強抗体の測定法の開発によるCOVID-19の病態解析・重症化メカニズムの解明 <背景>
SARS-CoV-2は非常に重篤な肺炎を引き起こす一方、無症状、もしくは軽症の患者も多く認められる。感染初期における高リスク患者の抽出は医療上の必要性が高いが、重症化メカニズムには未だに不明な点が多い。一方、SARS、MERS、あるいはネココロナウイルス感染症などにおいて、再感染やワクチン投与で誘導される抗ウイルス抗体が症状を重篤化させてしまう現象が知られており、「抗体依存性感染増強(ADE)」とよばれている。我々の研究グループの最近の成果で、COVID-19患者で誘導されたSpikeタンパク質N末端部位(NTD)に対する抗体の中に、Sタンパク質とACE2との結合性を高める抗体の存在が明らかになり、従来考えられていたFc依存性あるいは補体系依存性の感染増強とは異なる、全く新しい感染増強メカニズムが提唱された。
 <研究の目的と期待される効果>
現行の実験レベルでの感染増強抗体の測定法をもとに、臨床検査レベルで多検体を迅速に測定する測定法の開発をおこなう。測定対象に感染増強抗体だけでなく中和抗体なども含めることで、感染増強作用と中和作用のバランスも検討することができるようになる。この新規測定法で研究分担者の医療機関で採取された患者血清を測定し、感染増強抗体価/中和抗体価と病態との関係性を検討することで、重症化メカニズムの解明が期待される。その結果、①重症化しやすい個人の判別、②感染者における予後判定、③ワクチンの有効性・安全性モニタリング、②回復期患者血漿の感染増強抗体スクリーニング、等への応用が可能になるものと考えている。
R2 舘田 一博 東邦大学 医学部微生物・感染症学講座 教授 Hollow-Fiber Infection Modelを応用した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬の開発促進に向けた評価法・検証法の構築に資する基盤研究 本研究は、抗菌薬の薬効評価と用法・用量の設定にも用いられるHollow-Fiber Infection Model (HFIM)を抗ウイルス薬の開発に応用するための基盤研究で、HFIMを細胞培養と抗ウイルス薬の評価のために最適化する。現在、米国で抗ウイルス薬の評価に用いられている膜モジュールは細胞培養に最適化されていないため、新たな中空糸膜モジュールを実用化する。そのため中空糸膜モジュールのextra-capillary space (ECS)内で培養される細胞が通常の細胞培養と同じ速度で増殖し、且つウイルスの感染効率もほぼ同じ条件となるようにインフルエンザウイルスを用いて最適化する。また、必要があれば薬剤投与コンピュータ制御システムのプログラムにも改良を加える。次いで、抗インフルエンザ薬の注射剤と内服剤の体内動態をシミュレートし、それぞれの薬剤の体内動態の再現性と薬効評価を実施する。並行して「計測における不確実さの表現ガイド(Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement;GUM)」が定める手順に従って、各工程の測定誤差を評価し、本システムで得られた結果の信頼性について検証する。さらに、抗インフルエンザ薬の濃度測定を含む、本研究で用いられる測定工程に対する標準手順書を作成するとともに、validationの方法を確立する。また、抗ウイルス薬との接触で耐性ウイルスが出現した場合は、変異遺伝子の特定を試みる。このような研究はこれまでに例がなく、HFIMの飛躍的な進歩に繋がることが期待される。
R2 山本 佑樹 HiLung株式会社 事業開発部 取締役 iPS細胞由来呼吸器細胞を用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬の薬効予測in vitro システムの開発 COVID-19治療薬開発が世界的に進展しており、当初のウイルス感染及び増殖を標的としたものだけでなく、本症臨床像の特徴である致死性の高い重篤な肺炎・肺障害に対して、免疫応答・炎症、そして上皮障害修復とその後の線維化、という一連の病態形成プロセスに対する創薬も行われ始めている。本症の治療薬開発を迅速に進めるうえで、臨床薬効予測性が高く、かつ様々な標的・モダリティの試験が可能な評価系の構築が急務である。これまでに申請者らは高機能なiPS細胞由来呼吸器細胞を用いてSARS-CoV-2感染モデルの作成できることを実証している。本事業では、炎症・免疫応答・線維化などウイルス感染・増殖に留まらない本症のフェノタイプにも焦点を当て、薬効評価システムの構築を進める。また、国内外より広く医薬品候補を募り、確立したアッセイ系で評価を行ってデータを蓄積することで、本症の薬効システムの基盤を構築する。このことで、世界的に健康だけなく経済にとっても大きな脅威となった本症の迅速な制圧を大きく加速させられると考える。
R2 高木 久宜 日本エスエルシー株式会社 バイオテクニカルセンター センター長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発を加速する動物モデルの供給体制に資する研究 近年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による経済的・社会的損失が深刻な問題となっている。そのため、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンや治療薬の開発が喫緊の課題であり、これらの開発に必須となる動物モデルの安定供給の構築が急務となっている。シリアンハムスターは、新型コロナウイルスにより誘発された肺炎がヒトに類似した症状を呈することが明らかとなったことから、治療薬を開発するための動物モデルとして注目を集めている。大学、製薬メーカー等の研究機関で実験動物を用いる際、各機関で規定された微生物学的検査項目をクリアしたグレードの動物(Specific Pathogen Free(SPF)動物)以外、飼育施設への導入が困難であることが多い。これらSPF動物の充分量かつ安定した供給を可能としている大手実験動物プロバイダーは日本国内に3社存在しており、それらのSPF動物はプロバイダーが発行する微生物学的検査成績の確認を以て検疫期間を取ることなくバリア内へ導入出来ることから研究期間の短縮が可能となる。さらに、動物に深刻な感染症を発症させる病原体が陰性である事が証明されているこれらSPF動物を用いることにより、実験動物から発生するトラブルによる研究の中断や延長を避けることが可能となる。すなわち、信頼ある大手プロバイダーで生産されたSPF動物を用いることが、早急かつ高品質な研究遂行の必須項目であるといえる。日本の大手三大実験動物プロバイダーのひとつである日本エスエルシー株式会社は、世界的に貴重な存在であるSPFグレードのシリアンハムスターを有している国内唯一のプロバイダーである。新型コロナ感染症に対する治療薬の開発において、このSPFシリアンハムスターが開発モデル動物として有用であることが示唆されたことにより、これを用いて新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬の研究を行う研究機関が急増し、現状の繁殖コロニーでは充分な供給量を賄うことが困難になりつつある。そのため、今後これらの開発が滞ることなく進むよう、研究機関からの要求量を確保出来るシリアンハムスターの繁殖コロニーの整備を早急に実施することが急務となっている。さらに、これらのシリアンハムスターは通常の微生物検査項目に加え新型コロナウイルスの感染が陰性であることを証明する必要があり、繁殖コロニーの拡大に加え、COVID-19の自社での検査体制も同時に確立する必要がある。加えて、実験動物を用いた研究を行う際、その動物が本来持つ特性(自然発生病返答)を明らかにするための背景データの構築も必須となっている。しかし、シリアンハムスターはラット、研究の第一選択で用いられるマウス等のモデル動物と比し絶対的使用量が低かったことがあり、これら背景データの構築が遅れているのが現状である。そこで、本研究では、①:シリアンハムスターの繁殖コロニーを早急に拡大することにより、国内の研究機関からのオーダーに充分賄える匹数の生産体制の確立、②:確立する繁殖コロニーのシリアンハムスターが新型コロナウイルス感染症に対し陰性であることを定期的に証明出来る検査体制の確立、③:呼吸器官を中心としたシリアンハムスターの背景データを収集することにより、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発の際の基礎データの提供を可能とすること目的とする。この研究を遂行することにより、新型コロナウイルス感染症の感染が陰性であることが証明されている高品質かつ背景データが備わったシリアンハムスターを研究者に安定供給することが可能となり、新型コロナウイルス感染症の治療薬の開発が促進されることとなる。
R2 伊藤 靖 滋賀医科大学 医学部 教授 霊長類モデルを用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン及び治療薬開発を加速する支援体制の構築 滋賀医科大学動物生命科学研究センターでは、カニクイザルを飼育可能なABSL3実験室を使い、COVID-19対策としてSARS-CoV-2の感染実験を行なってきた。カニクイザルを用いた感染実験によりSARS-CoV-2の病態を明らかにした。また、ワクチンを接種したカニクイザルにSARS-CoV-2を感染させ、ウイルスが早期に体内から排除されることを明らかにし、ワクチンの効果を霊長類モデルを使い実証した。さらにSARS-CoV-2に対する抗体薬の有効性評価を非臨床試験として行った。これらの研究は、学内のみならず、学外の大学、研究所、ワクチンメーカーと共同で行ってきた。今後、カニクイザルを用いた血栓予防薬、抗ウイルス薬、ワクチンの有効性評価を計画しているが、1回の実験においてABSL3実験室内で飼育できるカニクイザル数に限りがあるため、これらの研究は順番に行う計画となっている。感染拡大が継続しているため、至急有効なワクチンと治療薬の開発を進める必要がある。そのため、本計画ではカニクイザルを飼育可能なABSL3感染実験室を改装により1室増設する。内部に感染サルを飼育可能なアイソレーター、解剖用安全キャビネットを設置する。ABSL3感染実験室の増設により、同時に飼育可能なカニクイザル数を増加させ、研究を前倒しで実施できる。SARS-CoV-2に関する共同研究を推進し、SARS-CoV-2に対する治療薬とワクチンの開発を加速させる。
R2 滝本 一広 国立感染症研究所 安全実験管理部 室長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬開発を加速する感染動物実験施設の体制整備に資する研究
 
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策における決定的な科学成果は、予防薬であるワクチンと治療薬の開発であり、これらの目的のためには、霊長類を含む感染動物モデルを使ったこのウイルス感染症の病態や免疫応答機序の解明が必要不可欠である。しかし、COVID-19はバイオセーフティレベル(Biosafety Level:BSL)3で取り扱うことが求められており、感染動物実験(ABSL3)を実施可能な施設は限られている。さらに、COVID-19の場合、SARS-CoV-2感受性実験動物は限られている。このため、感受性である霊長類を用いた感染動物実験が求められ、これが予防薬・治療薬開発のボトルネックになっている。国立感染症研究所においても当該感染動物実験が行われているが、COVID-19研究を進める上で、常に需要超過の状態であり、拡大が求められている。そこで、国立感染症研究所が保有するABSL3/BSL3実験施設において、既存業務を損なうことなく、この緊急事態に対応すべく、長期感染動物実験のバックアップ用の実験室をCOVID-19の感染実験用として運用を行う。他の研究課題で確立された動物モデルを用いたSARS-CoV-2感染実験を実施するため、それに合わせた動物実験施設の整備を行うものである。
有望な治療薬シーズやワクチン候補を保有しながら、動物感染実験施設を持たないため、開発が停止していた他の研究者グループから、要請をうけて、霊長類および齧歯類COVID-19 感染動物実験について、拡充した受入体制の確立により、予防薬または治療薬の効果判定実験・解析についても速やかな実施が可能になる。このような体制整備を通じて、予防薬および治療薬開発のボトルネックを取り除き、我が国の当該研究開発を加速して、国際競争力の確保と、COVID-19対策に貢献する。さらに、感染症研究に多くの研究機関・企業の参入を促すことで、COVID-19研究ネットワークが形成可能となり、我が国の感染症研究の推進につながる。
R2 渡士 幸一 国立感染症研究所 ウイルス第二部 主任研究官 新型コロナウイルス感染症治療薬開発を加速する感染培養技術の供給体制整備 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行を受け、現在様々な技術を活かした創薬シーズ探索および治療薬・ワクチン開発研究が行われている。しかしながら新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はBiosafety level 3 (BSL3)で扱う病原体であるため感染実験をおこなえる施設が限られており、得られたシーズの感染実験での評価が治療薬・ワクチン開発のボトルネックの一つとなっている。
本研究では国内の大学、研究施設、製薬企業などで得られた治療薬シーズ・ワクチン誘導検体に関して、培養細胞におけるSARS-CoV-2感染への薬効を評価する測定技術の供給体制を整備する。研究代表者・分担者のこれまでの経験を活かし、国立感染症研究所のBSL3施設で構築されたSARS-CoV-2の感染培養系を主に用いて、治療薬・ワクチン開発研究を支援するプラットフォームを構築する。AMED他研究班等で得られたシーズに関して、感染培養系で活性を定量評価、作用機序を解析し、必要に応じて臨床プロトコール立案もサポートする。抗体医薬に関しては、ウイルス中和活性が最も重要な評価項目であるが、副作用であるADE(Antibody-dependent enhancement:抗体依存性感染増強)活性も合わせて評価を行う。さらに、BSL2において使用可能なシュードウイルス (擬似粒子) を用いた中和活性およびADE活性の改良型評価法を開発し、野生型ウイルスで得られるデータとの相関性を確認した後、BSL3環境の無い施設においても抗体医薬シーズの選別が可能となるような測定技術の供給体制の整備を目指す。本研究で選別・活性最適化された有望シーズに関しては、動物モデル班と密接に連携し、次の感染動物モデルでの有効性検討に必要な培養系での薬効プロファイル情報を合わせて提供し、臨床試験に至る開発研究の中で、培養系評価段階においてシーズの有効性をできるだけたけ高められるよう総合的に支援する。このような感染培養系での測定技術の供給体制整備および薬効評価支援を通して、COVID-19治療薬・ワクチン開発におけるボトルネックを取り除き、本邦における研究開発の加速と国際競争力の向上に貢献する。
R2 河岡 義裕 東京大学 医科学研究所 教授 動物モデルと患者検体を用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態メカニズムの解明 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の爆発的流行が世界規模で続いている。COVID-19症例の多くは、軽い呼吸器症状でおさまるが、高齢者や基礎疾患を有する者などは重度のウイルス性肺炎を併発して重症化し、死に至ることも少なくない。COVID-19患者はなぜ肺炎を呈し、時に重症化して死に到るのか、そのメカニズムは明らかにされていない。重症化患者に対する有効な治療法を確立し、さらに新規治療薬を開発するためには、COVID-19の病態メカニズムを解明することが不可欠である。
COVID-19の病態の全体像を理解するためには、ヒトと同じ病態を示すモデル動物の体内で起きているウイルス感染に対する様々な生体応答を解析する必要がある。研究代表者らは、生きた感染個体を細胞レベルから個体レベルで観察が可能なイメージングシステム(micro-CTと2光子励起顕微鏡)を、SARS-CoV-2感染動物に対応しているバイオセーフティーレベル3施設内に構築している。本研究では、この生体イメージングシステムと病理組織学的手法を用いて、SARS-CoV-2感染致死基礎疾患モデル動物の肺における炎症の広がり、感染細胞の同定、病態形成に関与する免疫細胞の解明、ならびに血液凝固系の破綻メカニズムを解析することで、COVID-19肺炎病態メカニズムを解明する。この研究で得られる知見は、重症化の予防法と重症化患者に対する適切な治療法を確立する上で有用な情報となる。さらに、本研究の生体イメージングと感染致死基礎疾患モデル動物を用いた解析システムは、新規薬剤の薬効評価にも利用できる。
本研究ではさらに、重症化に関与する分子マーカーを探索する目的で、感染動物から採取した血液検体を用いて、マルチオミックス解析を行う。動物モデルで同定したマーカーについて、患者検体中の濃度あるいは発現量を測定する。また、感染動物検体のオミックス解析のデータを既存の患者検体のオミックス解析から得られたデータと照合して検証する。これらの解析により、重症化に関与するマーカーが同定されれば、重症化を感染早期に予測することが可能となるとともに、これを標的とする新規COVID-19薬剤の開発につながることが期待される。さらに、薬剤を投与した患者検体中の重症化マーカーの量を測定することで、その薬効を正確に評価することができる。
R2 佐藤 佳 東京大学 医科学研究所 准教授 COVID-19の発症と病態を規定するウイルス要因・変異の同定とその機序の解明 本研究では、特にウイルスタンパク質を摂動とする病態増悪と重症化の原理の解明を目的とする。まず、重症例、軽症例、不顕性感染例の検体を用い、ヒト遺伝子発現情報とウイルス配列情報を取得する。取得した、臨床情報が紐づいたウイルス配列情報に加え、公共データベースや海外研究協力者から提供された情報を統合し、感染病態の程度と関連するウイルス変異を網羅的に同定する。顕著な変異については、組換え変異体ウイルスを作出し、さまざまなヒト細胞や変異体ウイルス、各種阻害薬を用いたウイルス感染実験の時系列データを取得する。そのデータを数理解析し、感染動態の定量化と、より効果的な抗ウイルス薬の作用点を探索する。さらに、臨床検体情報、ウイルス配列情報、数理解析情報という階層および属性の異なる情報の統合解析により、病態増悪・重症化を規定する要因を導出する。そして、培養細胞などを用いた検証実験を実施し、導出された要因の生物学的な妥当性を担保し、ロバストな治療戦略として提案する。本研究で提案する学際融合研究の実施により、ウイルスタンパク質を摂動とする病態増悪と重症化の原理、流行株に出現する変異がCOVID-19の感染病態に与える影響、ウイルス配列解析そのものが病態進行のバイオマーカーとなる可能性、そして、よりロバストな治療薬の選択、投与時期、投与方法の提案として貢献できることが期待される。
R2 杉山 真也 国立国際医療研究センター 副プロジェクト長 追って掲載します 追って掲載します
R2 福永 興壱 慶應義塾大学 教授 追って掲載します 追って掲載します
R2 保富 康宏 医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センター センター長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)霊長類モデルならびにヒト検体を用いた病態解明に関する研究 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染では、基礎疾患保有者や高齢者においては重症化リスクが高いことが多数報告され、この対策には有効な動物モデルによる解析が重要な意味を持つ。カニクイザルはヒトと同じ霊長類に属する実験動物であり、ヒトに近い特徴を持つ。本研究では健康若齢個体、高齢個体、肥満個体(脂質異常症個体)に加え自己抗体誘導個体におけるCOVID-19の病態解明を行う。一方、COVID-19霊長類モデルではヒト臨床検体の解明による結果を反映させることが必須となることから、申請者らはCOVID-19患者から経時的に診療情報とそれに紐づいた臨床検体(血液、気道液など)を収集し、種々の解析を行っている。今回の申請ではここから得られた情報の霊長類モデルでの検証と、逆にCOVID-19霊長類モデルで得られた知見がこれらヒト検体ではどうかを検証し、ヒト患者とCOVID-19霊長類モデルの双方の情報を合わせ、COVID-19に対する新たな知見を得る。
R2 杉浦 亙 国立国際医療研究センター センター長 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬開発を加速する臨床研究基盤の整備 COVID-19のパンデミックが発生してから1年近く経つが画期的な治療薬はまだ実用化されていない。Clinical Trials.govに登録されている国際共同臨床試験のうち、日本の医療機関が参加している試験はほとんどなく、米国立衛生研究所(NIH)が主導するACTT試験に国立国際医療研究センター(NCGM)が、同ITAC試験にNCGMと藤田医大が参加しているのみ(2021年1月現在)である。NIHからは追加の国内機関の紹介・参加を要請されているが、医療の現場は治療対応で逼迫しており、臨床試験のオペレーションに投入する人的余裕がなく、また資金確保も難しいため実現が難しい状況である。
国際共同臨床試験では、試験プロトコルやICFを複数言語で準備する必要など、国内臨床試験以上に文書作成や事務作業に労力を要するだけでなく、また医療環境が異なる国の間で試験のend point等を摺り合わせる協議、製剤や検体輸送方法の確保、詳細な監査への対応など様々な対応が必要となることから、相当の人的リソースや資金の投入そしてノウハウの共有が必要となる。
そこで我々は、国際共同試験への参加に前向きな国内医療機関の臨床研究基盤を強化し、ワンチームとして国際共同臨床試験への参加ができるような、新たな組織の設立と運営を実現することで、将来的には国内数十施設(40~60施設)の参加を実現して国内の臨床試験基盤を固めるとともに、米英加豪、EU各国、ASEAN各国の組織との連携を強化して国際共同臨床試験を主導的に担える組織の構築を目指す。
そのために本研究では、国内医療機関がCOVID-19をはじめとする新興再興感染症の治療法、新薬開発等の国際共同試験へ参加するための支援組織Global Initiative for Infectious Diseases(GLIDE)(仮称)を設立すること、並びにCOVID-19をはじめとする新興再興感染症の治療に携わる主要な国内医療機関の臨床試験ネットワークの構築を目的とする。
研究組織として、COVID-19で国際共同臨床試験参加の経験を持つNCGMと藤田医大そしてロンドン大学との連携大学院(ロンドン大学衛生熱帯医学大学院)で国際的人材の育成に力を入れている長崎大学との3機関が参加し、新組織の設立から運営までリードする計画である。
本研究実施により期待される成果としては、
  • 新組織を立ち上げ臨床試験支援体制を充実させることで、国内複数の施設が国際共同臨床試験に参加する機会が増える結果、有望な治療薬を速やかに国民に届けることが可能となること。
  • 日本国内医療機関の臨床試験遂行能力の国際的評価が高まる結果、日本提案の国際共同試験の実施可能性が高くなること。
  • 国際共同試験に参加することにより候補薬や付随する有益な情報を時間差なく入手し、新たな新興再興感染症の脅威について国家間の素早い情報共有が可能となること。
  • 国際共同臨床試験に参加する機会が増えることで、諸外国とのコミュニケーションや共同研究の経験値が高まり、若手を含め国際保健分野で活躍できる人材の育成につながること。
等が挙げられる。

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最終更新日 令和3年3月25日