創薬企画・評価課 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における平成30年度課題評価結果について

平成31年3月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課

平成30年度「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査による事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:平成31年1月15日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況について
  2. 研究開発成果について
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 事業で定める事項
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

本研究事業は感染症から国民及び世界の人々を守り、公衆衛生の向上に貢献するため、感染症対策の総合的な強化を目指します。そのために国内外の感染症に関する基礎研究及び基盤技術の開発から、診断法・治療法・予防法の開発等の実用化研究まで、感染症対策に資する研究開発を切れ目なく推進することとしております。
本研究事業事後評価に際して、平成30年度における評価対象課題を実施内容に基づき大きく以下のように分類(①感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究、②ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究、③新興・再興感染症の検査・診断体制の確保に資する研究、④感染症に対する診断薬・治療薬の実用化に関する研究、⑤新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究)し、研究開発期間(平成28年度~平成30年度)における特に顕著な成果を記載いたします。

①感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究

  • 迅速・網羅的病原体ゲノム解析法の標準作業手順書を作成し、“病原体種・遺伝型・薬剤耐性”を推定する国内の病原体ゲノムデータベースを構築しました。東京オリパラ対策として東京都との連携や全国レベルの検査ネットワークを構築し、病原体検査のセーフティーネットを強固にしました。

②ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究

  • 難治性多剤耐性結核に対する新規治療ワクチンの開発を目的として、マウス及びサルにおいて結核治療効果が示唆されたHVJ-E/HSP65 DNA + IL-12 DNAワクチン(KCMC-001)の、第Ⅰ相医師主導治験(First In Human)の実施のため、第Ⅰ相医師主導治験計画の適切性に関するPMDA対面助言を実施し、IRB申請を行いました。
  • 肺結核の予防を目的とした、ヒトパラインフルエンザ2型ウイルスを用いた粘膜免疫誘導型の新規結核ワクチンの開発を試みました。この新規ワクチンは霊長類において現行のBCGワクチン以上の肺結核予防効果を示しました。
  • 新規インフルエンザワクチンの品質管理試験として、従来無かった観点から免疫原性を評価する試験法や実験動物を用いない代替試験法、交差反応を回避して正確に力価測定する試験法など有用な試験法の開発や生ワクチンの力価試験の解析の自動化に向けた検討を行いました。
  • 経鼻不活化インフルエンザワクチンの有効性の科学的基盤を明らかにすると同時に新しい経鼻ワクチンの抗原、アジュバント候補、及びワクチンの有効性の為の新しい評価方法の開発を行いました。
  • 国産ムンプスワクチンから、安全性を改善した改良型ワクチンを作出しました。microRNAによるムンプスウイルスワクチンの病原性制御の有効性を示唆する結果を得ました。ムンプス、水痘ウイルスおよびヒトメタニューモウイルスの感染モデルとしてマーモセットの有用を確認しました。抗ムンプス薬の候補化合物を選択しました。
  • インフルエンザ菌b型ワクチン、肺炎球菌結合型ワクチン、ロタウイルスワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチンの効果を疫学的に明らかにしました。肺炎球菌、インフルエンザ菌、ロタウイルスの血清型、遺伝子型の変遷が明らかになり、継続した監視の必要性が示唆されました。また、乳児百日咳重症例の疾病負担を明らかにし、ワクチン接種施策の提案を行いました。
  • 食中毒を引き起こす主要な原因菌であるが、未だに有効なワクチンは開発されていないカンピロバクターとウェルシュ菌に対して、抗体やタンパク工学の技術により、有効なワクチンを同定・デザインすると共に、診断システムの開発を行いました。
  • 大腸菌、歯周病原細菌、抗酸菌、ウェルシュ菌、レンサ球菌等の膜小胞に関する研究が推進され、膜小胞の産生機構や免疫学的機能の一端が解明されました。いくつかの細菌膜小胞については、マウス鼻腔投与時の粘膜免疫原性、ワクチン効果、安全性等が示唆され、ワクチン実用化を志向する研究への進展がみられました。
  • 経皮ワクチン製剤の実用化に向けた橋渡しとして臨床研究を強力に推進し、ヒト皮膚への確実な穿刺ひいては有効性発揮のために備えるべきマイクロニードルの特性が明らかになりました。また、経皮免疫誘導機序の解析により経皮ワクチン製剤の有効性に対する科学的根拠の強化・充実が図れました。

③新興・再興感染症の検査・診断体制の確保に資する研究

  • 侵襲性真菌感染症に対する革新的な検査法および治療法の開発につながる多くの新規知見が得られました。疫学研究でわが国における侵襲性真菌症の実態が明らかとなりました。診断支援を行い、わが国の真菌症診療の質の向上に寄与しました。
  • 国内で発生した熱帯病・寄生虫症を国内未承認薬で治療する病院ネットワークを組織し、重症マラリア患者の救命に成功したほか、トキソプラズマ症、肝蛭症患者の治療体制構築を行いました。マラリア迅速診断キットの有用性を確認し、遺伝子診断法、抗体検査法を改良しました。さらに、国内外の寄生虫症発生動向をまとめました。
  • 地方衛生研究所と国立感染症研究所からなる麻疹風疹実験室ネットワークの強化を図りました。これにより得られた情報をもとに科学的に麻疹風疹排除を証明するための基盤を構築しました。麻疹の排除維持の認定ならびに風疹排除達成に向けての基盤構築に大いに貢献できました。
  • ウイルス、細菌、原虫を対象病原体としたヒトへの感染リスクに資する動物由来感染症の動物やマダニでの血清疫学、分子疫学を行いました。その結果、多くの新興・再興動物由来感染症関連ウイルス、細菌、原虫の動物やマダニでの感染・保有状況が明らかになりました。病原性遺伝子破壊株による野兎病弱毒生ワクチンの有用性が確認されました。
  • ロタウイルス、ノロウイルスのリバースジェネティックシステムを確立したことにより、それぞれのウイルスについての細胞への感染、細胞内での増殖のメカニズムを詳細に解析することが可能になりました。ヒト腸管上皮オルガノイドを用いて、これまで増殖させることができなかったヒトノロウイルスをin vitroで増殖させることに成功しました。ノロウイルス、E型肝炎ウイルスで抗ウイルス剤のスクリーニングを行うための画期的な系の開発に成功しました。各種ポリオーマウイルス、ノロウイルスを、簡便かつ高感度に検出できる系の確立に成功しました。

④感染症に対する診断薬・治療薬の実用化に関する研究

  • 一類感染症等の新興・再興感染症への対策として、実験室診断法の整備と迅速化に取り組みました。治療法候補および予防法候補を開発し、疫学情報を更新しました。一類感染症等により生じる国民の健康被害・社会や経済が受ける影響を縮小することにつながると期待されます。
  • 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の診断・治療・予防法の開発研究が進められました。動物実験レベルでは抗ウイルス薬ファビピラビルに治療効果が認められ、ヒトでも同薬剤の治療効果・安全性を調べる臨床研究が進められました。ワクチン候補も開発されました。伴侶動物からSFTSVに感染してSFTSを発症する事例が確認され、新たな感染予防策を策定することが必要であることも明らかになりました。
  • 重症エンテロウイルス感染症コントロールのための検査、診断、治療及び予防法に関する研究を進め、エンテロウイルスD68流行対応、感染動物モデルの開発・応用、セービン株由来不活化ポリオウイルスワクチンをベースにした簡便な貼るワクチン開発研究等、実用化に向けた研究成果を得ることが出来ました。
  • 世界結核終息戦略の目標を実現させるために、長期生存型記憶T細胞の分化を効率的に誘導することで成人にも有効な初回ワクチン、および結核菌の発症期と潜在期に発現する抗原を利用した潜在性結核感染者の検出法を開発しました。また、結核菌の生存や生育に必須の酵素の活性を阻害する多剤耐性結核の治療に有効となり得る化合物を同定しました。
  • 日本由来トキソプラズマの分離を行い、病原性や遺伝型などを解析しました。数クローンについて全ゲノム配列を決定し、既知の世界分離株との比較を行いました。これらの解析の結果、日本のトキソプラズマは世界的に見ても独特な進化を遂げていることが明らかとなりました。
  • 重症ヤマカガシ咬傷、セアカゴケグモ咬傷に対してヤマカガシ抗毒素、セアカゴケグモ抗毒素を投与し、患者の状態を回復させることで国民の健康に直接的に貢献しました。2000年に試験製造したヤマカガシ抗毒素とオーストラリアから個人輸入したセアカゴケグモ抗毒素の力価試験、品質管理試験、研究班で製造したセアカゴケグモ抗毒素の力価試験、品質管理試験、非臨床試験を行いました。ヤマカガシ抗毒素の代替薬の可能性を検討しました。
  • 超多剤耐性グラム陰性菌に有効な新規アミノ配糖体誘導体AAM-06を合成し、in vitroおよびin vivoでの有効性を明らかにしました。また、多剤耐性グラム陰性菌に有効な新規抗菌ポリマーPMG-122を合成し、光硬化性のアクリルフィルムやABS樹脂に添加しても抗菌活性を維持していることを明らかにしました。
  • 複数の抗菌薬を菌体外に排出することにより、細菌を多剤耐性化させる排出ポンプの機能と制御に関する基礎的知見を得るとともに、サルモネラ、大腸菌、緑膿菌の多剤排出システムを阻害する候補化合物の選定を行いました。
  • 約1000品目のFDA既承認薬に対しメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)を阻害する薬剤の探索を行った結果、精製MBLに強い阻害活性を示す数種類の阻害薬剤を発見しました。一方、MBL産生菌を用いた阻害試験では十分な阻害効果が見られなかったため、分子構造改変を行い生菌にも有効な新規化合物を得ました。
  • リード化合物の構造活性相関解析により活性の高い抗ニパウイルス感染症候補を見出すことができました。候補化合物の溶解法も見出し、安全性、有効性試験へ供することができるようになりました。
  • HBZによるCCR4の発現、Foxp3陽性Treg様細胞への分化がHTLV-1の病原性に重要な役割を担うことを見出しました。HTLV-1感染造血幹細胞からの分化及びウイルス遺伝子の発現変動が感染細胞の多様性形成に寄与していることを明らかにしました。ATLの新規治療薬として抗CADM1抗体の開発研究を行いました。

⑤新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究

  • ベトナム、エジプトと国際連携研究を行い、国内で開発したインフルエンザウイルス型・亜型迅速診断系の有用性を確認しました。ウイルス肺炎が原因の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の予後予測因子を見出しました。H1N1pdm09インフルエンザ入院患者は、ICU入室また死亡と有意な関連があり、鳥型レセプターと結合するH1N1pdm09-D222G/Nの関連が示唆されました。ヒト組み換えトロンボモジュリンはARDS治療薬の可能性があることが示唆されました。

評価委員会においては、「感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究」に対して評価が高く、NGS検査法の標準的作業手順SOPの作成と全国の公的検査機関での運用、感染症疑いの原因不明の解明、国内の病原体ゲノムデータベースの充実と整備等、我が国の感染症対策に大きく貢献する成果が得られ、計画を超えて大変進捗があったと認められました。「新興・再興感染症の検査・診断体制の確保に資する研究」及び「新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究」に対しては、麻しん及び風しんの検査・解析法の確立、ロタウイルスワクチン開発、ベトナム及びエジプトとの共同研究等、全体として評価が高く、計画を超えた進捗があったと認められました。「ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究」及び「感染症に対する診断薬・治療薬の実用化に向けた研究」に対しては、多剤耐性結核に対する治療ワクチンの医師主導治験の実施、結核予防ワクチンの開発、新規の診断法の地方衛生研究所への導出等、計画通りもしくは計画を越えた進捗があったと認められました。

今後も本研究事業の方向性として、重要性が高まる我が国の感染症対策に資する研究を、基礎研究・応用研究の両面から、短期的・長期的双方の視点に立ち推進していきます。また、引き続き、将来の感染症研究を担う若手研究者の育成、刻々と変化する感染症の状況に柔軟に対応する幅広い研究開発を推進していきます。

最終更新日 令和元年6月17日