エイズ対策実用化研究事業 エイズ対策実用化研究事業における平成27年度課題評価結果について
平成29年4月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課
平成27年度「エイズ対策実用化研究事業」の中間評価及び事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。
中間評価
1.中間評価の趣旨
エイズ対策実用化研究事業(以下、本研究事業)では、効率的かつ効果的な研究開発を推進し、限られた原資を有効に活用し、研究開発支援を適切に実施すること等をねらいとし、本研究事業における中間評価の評価項目に沿って、書面審査及び対面審査(研究開発初年度課題は書面審査のみ)にて中間評価を実施しました。
2.中間評価委員会
3.中間評価対象課題
4.中間評価委員
5.評価項目
- 研究開発進捗状況
- 研究開発成果
- 実施体制
- 今後の見通し
- HIV/エイズ対策の推進
- 総合評価
6.総評
本研究事業はHIV感染症の予防、診断、治療に係る技術の向上、HIV/エイズ治療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することとしています。
本研究事業中間評価に際して、平成27年度における研究成果について以下のように分類(新規ワクチン・治療薬開発に関する研究、医薬品シーズ探索に関する研究、HIV感染の機構解明に関する研究、HIV関連病態の解明と治療法開発に関する研究)し、特に顕著な成果を以下に記載致します。
- HIV Env 三量体改変抗原をコードする遺伝子搭載センダイウイルス ベクターを作製し、マウスの実験で、極めて効率よいEnv 特異的抗体誘導能を明らかにした。
- HIV/SIV特異的CTLクローンからT-iPS細胞を樹立し、新たに開発したT細胞への再分化法によりT細胞を作製し、試験管内で本T細胞が高い増殖能とCTL機能を有していることを示した。
- 高純度な Vif/CBF-beta/ElonginB/C /Cullin-5複合体およびAPOBEC3C及びAPOBEC3FのC末側ドメインを発現・精製し、APOBEC3の試験管内ユビキチン化再構築系を確立した。
- 13種類のCTLエピトープに対するT細胞が、日本人の感染者ではHIV-1をコントロールすることを示し、樹立したこれら13種類のCTLクローンは、すべてHIV-1感染細胞を認識したことを明らかにした。
- カニクイザルにサル馴化HIV-1を感染させることにより、HIV-1潜伏感染モデルを確立した。このサルにCD8 特異的な抗体を投与するとHIV-1の再活性化を認め、HIV-1制御におけるCTLの重要性を実証した。
- HIV-1リザーバー細胞排除法として、HIV-1 LTR のTAR 領域に対するTALEN mRNAをトランスフェクションし、両端に配位するLTRの同時切断により、プロウイルス配列の排除に成功した。
- HIVアクセサリー蛋白であるMARCH8(membrane-associated RUNG-CH8)はウイルス表面のエンベロープ(Env)を減少させることにより、Envのウイルス粒子への取り込みを低下させHIV-1感染を阻害することを明らかにした。
- 抗HIV療法の治療ガイドラインは、主に欧米人に対して行われた臨床治験に基づいて作成されているので、日本人に適した抗HIV療法を実践可能にするために、TDF投与時の尿細管障害や骨密度変化を確認し、血清BAPの低下や尿中NTx排泄量の増加が、骨密度の低下と相関していることを確認した。
- エイズ指標疾患やエイズ日和見感染症でよく見られる細菌、真菌などの遺伝子を網羅的に検出するreal-time PCR 系を確立し、進行性多巣性白質脳症の病理検体で、JCウイルスがコードする マイクロRNAが特異的に発現していることを確認した。
- 血漿分画製剤による深刻なHIV感染被害を受けた血友病患者の治療に、安全で有効な方法を開発するため、長期間有効性を保つ血友病の遺伝子治療を目指してアデノ随伴ウイルスベクター血清型8(AAV8ベクター)をサルに経静脈投与し、治療域の凝固因子発現・安全性を確認した。
- HIV感染症は、抗HIV薬の多剤併用療法により慢性疾患と捉えられるまでになったが、服薬は長期にわたらなければならず、服薬アドヒアランス向上・維持は本人の生命の維持にとって重要であるだけでなく、感染拡大の防止にとっても必要である。服薬アドヒアランスの阻害因子、増強因子を明らかにし、支援方法の開発、特に効果的な介入のためのツールの開発を行っている。
評価委員会では、「HIV感染の機構解明に関する研究および医薬品シーズ探索に関する研究」の研究開発課題において期待通りの進展が認められると評価されました。「新規ワクチン・治療薬開発に関する研究」については、期待以上の進展が認められると評価された課題があるものの、研究にやや遅れがみられると評価された課題もありました。また、「HIV関連病態の解明と治療法開発に関する研究」においては、他の分類に比べ、研究にやや遅れた課題があったものの、概ね期待通りの進展が認められると評価されました。
以上より、得られた研究成果は本研究事業の趣旨に相応しく、また進捗も研究継続するに適うと評価され、今回中間評価の対象となった11課題全てを平成28年度も継続することを決定しました。
事後評価
1.事後評価の趣旨
事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
エイズ対策実用化研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、書面審査及び対面審査にて事後評価を実施しました。
2.事後評価委員会
開催日:平成28年2月21日
3.事後評価対象課題
4.事後評価委員
5.評価項目
- 研究開発進捗状況
- 研究開発成果
- 実施体制
- 今後の見通し
- HIV/エイズ対策の推進
- 総合評価
6.総評
本研究事業はHIV感染症の予防、診断、治療に係る技術の向上、HIV/エイズ治療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる、基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することとしています。
本研究事業事後評価に際して、研究開発期間における研究成果について以下のように分類(新規ワクチン・治療薬開発に関する研究、医薬品シーズ探索に関する研究、HIV感染の機構解明に関する研究、HIV関連病態の解明と治療法開発に関する研究)し、特に顕著な成果を記載致します。
新規ワクチン・治療薬開発に関する研究- 200余種類の化合物を合成し、その特性の解析を行い、多剤耐性ウイルスにも有効で、高いCNS透過性を持つKU-241を見いだした。
- HIV-1を中和するヒト型単クローン抗体(KD-247)の単独投与では、HIV感染症治療のために大量必要であるが、CD4-mimic小分子を併用投与することで、中和能を増強することを確認した。
- SIV Gag・Vif最適化抗原を発現するSeV ベクターワクチンの有効性をサルモデルにて評価し、効率良くGag・Vif抗原特異的CTLを誘導することを明らかにした。
- HIV逆転写反応の無細胞再構築系を樹立し、ストランド転移反応の制御因子を探索した。Gagヌクレオカプシド蛋白質にゲノム逆転写の1stストランド転移反応のトランス制御活性があることを世界で始めて発見した。
- サルの中和抗体の研究でEnv gp41の変異がgp120に対する様々な中和抗体からの逃避に重要であることを示し、gp41の変異によるEnv三量体の立体構造や翻訳後修飾の変化が、中和抗体から逃避するメカニズムとして重要であることが示唆された。
- 新規HIV/AIDS診断症例および治療中患者を対象に、ウイルスの薬剤耐性変異の種類と頻度、サブタイプ、指向性、微少集族の検出、B型肝炎等合併感染症など様々な側面から本邦におけるHIV感染症の変遷とトレンドを明らかにした。
- エイズ関連リンパ腫の病理診断について、診断フローチャートを作成した。この診断フローチャートを使用して、過去の日本のエイズ関連リンパ腫症例を見直し、日本におけるエイズ関連リンパ腫の病理組織学的な特徴を明らかにした。
- 小児HIV感染症では、画像検査異常、知能的検査異常を高頻度に認め、HIV感染が明らかとなった時点で治療介入することが、神経学的予後を良好にすることが示された。
一方、「HIV関連病態の解明と治療法開発に関する研究」においては、成果がやや十分ではなかったと評価された課題がありました。
HIV感染症治療薬の進歩により、HIV感染者のエイズ発症を抑制することが可能となってきましたが、抗HIV薬を長期服用する必要があり、薬剤耐性ウイルスの出現、副作用などが重要かつ緊急の問題となっています。
また、HIV感染症が根治できるような治療薬の実用化には未だ至っておらず、今後もHIV治療薬・治療法の開発・実用化に向けてさらなる基盤・臨床研究を推進します。
最終更新日 平成29年4月14日